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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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鳥と鳥

何だかなあ。


独りで行動していた時にはまったく縁のなかった不自由さが、すっかり

定番になってしまった。選んだのは自分だけど、やっぱり複雑だねえ。

とは言え、それがワガママとか贅沢なのはもちろん理解しています。

あたしだって、最初から根無し草の独り者だったわけじゃないんだし。


かつてはちゃんと家族もいた。まあ疎まれ、そして嫌われていたけど。

最終的に、あたし自身の指示で家族は命を落としたんだけど。

残念ながら、その事に対する後悔は今も湧かない。あたしのこの心情は

自分でも少し悲しい。過ちだったと思えず、家族の命を奪った事に対し

自責の念が湧かない自分の心がね。


許されない罪なんだろうけど、もう今さら許して欲しいとも思わない。

家族が夢枕に立って恨み言を言う事さえない。たまには立って欲しいと

思わないでもないけれど、それこそワガママというものなんだろう。


家族に裏切られ、己の意志で家族を殺した。その事に感慨も湧かない。

こうして文章化してみれば、何とも救いのない半生だ。自分以外なら、

きっと憐みの目を向けただろうね。

まぎれもなく、それは「喪失」だ。あたしは家族と過ごした少女時代を

自分の意志で喪失した。自分勝手な理屈だけど、それこそがあたしへの

罰だったんだろうと思っている。


悪いけど、世の司法に裁かれる気はない。今もそんな気になれません。

【魔核形成】という天恵があたしの一部なんだとすれば、それによって

生み出された魔鎧屍兵だって同じ。あたしの天恵の延長にあるものだ。

それが成した事を、天恵宣告自体が衰退した今の時代に裁くというのは

おかしいだろう。


過去を喪い、そして捨てたあたしは前だけを見て生きている。今さら、

それに文句言われる筋合いはない。



これがあたしの生きる道だ。


================================


…とまあ、自分語りに浸ってしまうのが最近の悪い癖なんだけど。

さすがに今、そんな呑気をやってる場合じゃない。状況は切迫してる。


ウルスケスとミクエの二人が、聖都グレニカンに向かったのは一日前。

あたしも途中まで一緒だったけど、さすがに手前の街で待つ事にした。

別にあたしはお尋ね者でもないし、行ったところで問題はないだろう。

だけど何と言うか、やっぱり多少は気が引けるところもあるんだよ。

ネイルの企てで蹂躙された時には、あたしの魔獣も投入されてたしね。


ものすごく今さらだし、厚かましいという自覚もある。

マッケナー先生に誘われるままに、ロナモロス教に入団。間違いなく、

あの頃のあたしは荒んでいた。己を拒んだ人たちを激しく憎んでいた。

今にして思えば、あの怒りも天恵の糧になっていたのかも知れない。

体よく利用された…とは言わない。だけど、教団が必要としていたのは

【魔核形成】の天恵だけだったのは事実だ。あたし自身が必要とされた

わけじゃなかった。今となっては、もうどうでもいい事だけど。


正気を失うまで天恵を使い続けた。そして、用済みの烙印を押された。

そんなある日、前ぶれもなく正気に戻れた。今思っても不思議だった。

あの時、あたしは生まれ変わったのかも知れない。勝手な理屈だけど、

そう考えるのが一番しっくり来る。そして今に至るんだ。


あの日、ピアズリム学園で出会った不思議な女性。

彼女の言葉があったからこそ、今もあたしは生きてるのかも知れない。

そのままでいいんだという肯定は、同情や憐憫よりも心に響いたっけ。


だからあたしは、あたしなりの形で人生を仕切り直そうと考えたんだ。

誰かに必要とされたいと思っているだけじゃ、結果なんて生まれない。

まず自分が誰かを必要とし、それを起点にして世界を広げていく。

家族に裏切られたせいで人間不信になったのなら、バカバカしい話だ。

死なせた事さえ気にしてないなら、そこもいっそもっと開き直れよと。


そんな感じに考えを変えてみれば、見知った人間の見え方も変わる。

自分を利用するだけだと忌み嫌っていたロナモロスの人間の中にさえ、

シンパシーを感じる事ができる。


…というわけで、あたしはお飾りの教主であるミクエに声をかけた。

ネイルの操り人形と思ってたけど、彼女は「諦め」の中に生きていた。

自分には何も出来ないと、ネイルの闇深さを理解した上で諦めていた。

お飾りにもなれなくなった彼女を、呆気なく連れ出す事に成功した。


そしてオレグストさん。引いた目で見れば、生きるのが下手な人だ。

特異な天恵を持つが故に翻弄される姿は、このあたしの鏡映しだった。

正直こっちはダメモトだったけど、もう嫌になってたんだろうな。

思った以上にあっさりついて来た。


【治癒】と【鑑定眼】。世が世なら天下を取れそうな天恵である。

もう二度とネイルには関わらない。あたしを含めての共通認識である。

正直、ロナモロスはもうダメという予感があった。だからいっその事、

ミクエを立てて新たなる思想を世に問うのもいいのではと思った次第。

恵神ローナを崇めるかどうかはまだ未定。そこはじっくりと考える。


そんな事を話し合ううち、とにかく一度グレニカンに行く事になった。

他でもないロナモロス教団が混乱を持ち込んだ街である。今の世界の

宗教観を知る上で、訪ねてみるのは有意義だという認識である。


「あたしは行きたくないなあ。」


正直に言ったら、あっさり留守番を任されて拍子抜けした。まあ実際、

あたしがいるといないなんてさほど重要な問題でもないだろうしね。

気を付けてと送り出したあたしは、宿でゆっくり待ってる予定だった。


だけど、現実はかくの如しだ。



あまりにタイミングが悪かった。


================================


さあて、と。

どうしたもんだろうか。

あたし自身が行っても仕方がない。いや、そもそも知るタイミングが

遅過ぎる。今から行ったとしても、余計なリスクが増えるだけだ。

だからこそ、まずは鳥の魔獣を使いここまで来たのである。目と耳に

なってくれるから、鳥は便利だね。そしてここで情報を探った。


はっきり言って状況はかなり悪い。連絡ができない事から察するに、

渦中の真っ只中なのだろう。しかしあの二人、本当に運がないなあ。


魔獣を送り込むのは簡単だけれど、凶暴化させないと戦力にならない。

そうなれば当然、あたしたち三人はロナモロスの残党かと思われる。

そうならないようにするためには…


………………………………………………


うん?


何だろあの鳥。

あたしが言うと変だけど、ちょっと違和感を覚えるなあ。

あ、飛んだ。迷わず真っすぐこっちの方へ向かってくる。もしや敵襲?

だったらあたしは


『どうもこんにちは。』

「え?…あの、ハイ。こんにちは。」


いきなり声かけてきたよ、この鳥。挨拶を返すあたしも大概だけど。

いったい、この鳥は何の目的で…


『あたしの名前はタカネ。』

「えっ?」

『あなたのお名前は?』


「ウルスケス・ヘイリー。」


即答した事に悔いはなかった。

そして、すぐに表情と間で察した。

ああ、この鳥あたしの名前を知っているんだろうなと。


望むところだ。

鳥同士ってのが面白いし、何かしらできる事は増えてるんだろうし。


そう。

あたしはウルスケス・ヘイリー。



友達を助けに来たところですよ。

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