旅の終わりに
なにしろ、最後まで大変だった。
カイ・メズメの【共転送】を使い、モリエナが先行したロナモロス教の
本拠地へ一気に乗り込んだ。なかば勢い任せではあったけど、結果的に
イグリセへ戻った上で目的を果たす事ができた。しかも転着したのは、
あのオトノの街の近くだ。つまり、出発してすぐ立ち寄った街である。
ここまで戻って来ていれば、目的を果たした後は一気に店まで帰れる。
そのはずだった。
でも、やはり簡単には終わらない。
「マルニフィートたちと話をつけに行こう。」
言い出したのは、案の定ローナだ。正直、ここまで戻ってかと思った。
と言っても、それは決してローナのワガママじゃない。誰にとっても、
疎かにはできない話だった。だからあえて進路を再び南へ向け、首都を
目指したのである。…何と言うか、意地っぱりの集団だよな俺たちは。
行くなら堂々と、だ。
いささか強引だったけど、きちんと予告した上で赴いた。今となっては
俺たちは、要注意人物そのものだ。警戒されるのは仕方ないと割り切り
前を向いて謁見に臨んだ。結果は、ほぼローナの望んだ通りになった。
もちろん、相手の考えをきっちりと理解したわけじゃない。残念ながら
俺たちはそこまで大人じゃないし、駆け引きなんて出来るはずがない。
余計な憂い事を避けるため、交渉はほぼローナに任せた。
たとえ相手が女王陛下であろうと、ローナはローナだ。言いたい事を
しっかりと言う。タカネも俺たちも見守るだけ。それでいいと考えて、
判断が正しかった確信も持てた。
もちろん、何もかも受け入れられたなんて事は考えない。陛下としても
譲れない一線はあるだろう。それは当たり前の話だ。だから俺たちも、
言いたい事を言って帰るってだけ。図太くなったもんだよなホントに。
そうして俺たちは、今度こそ本当に帰路に就いた。
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「大丈夫か、ネミル?」
「うん。」
じっと指輪を見つめているネミルの口調は、至っていつも通りだった。
他人の天恵をその身に宿す…という感覚は、俺には想像すら出来ない。
いや、想像が出来ないのはローナも同じだろう。ましてや今回の天恵は
あのネイル・コールデンのものだ。ここだけの話、俺はビビっていた。
人間から離れた天恵の気持ち悪さもまた、想像を超えていたから。
だけど、やっぱりネミルはタフだ。
自分の役目を真っ向から見据えて、迷わずアレを指輪に取り込んだ。
どうなるかと思ったけど、今ここに至っても平常運転。力が抜けるな。
ローナにとってさえ未知の領域ではあったが、案ずるより何とやらだ。
【死に戻り】の時とは違い、ネミル本人にも精神的な負担はない。
これがトモキを元の世界に送り返すための「道標」になるというなら、
ネミルとしても本当に本望だろう。何と言ってもトモキは、ネミルの
ミスで今の状態になったんだから。責任を感じるのも、至って当然だ。
だからって、ネミルひとりの責任にする気はない。それは誰にもない。
そもそも責任ってのは、失敗した時初めて重い意味を持つものだろう。
苦労はしたけど、少なくともここに至るまでは何とかなってるんだ。
後は帰って、挑むだけの話である。
旅は、もうすぐ終わりだ。
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そんなこんなで、再びオトノの街に戻ってきた。何やってんだかなあ。
そして今日は、お祭りの日である。何とも面白いタイミングで、ここに
転移したもんだと呆れる。とは言え転移した日はまだだった。むしろ、
ロンデルンからこの街へ戻ってくるタイミングを合わせたのである。
「んじゃ、最後の営業だな。」
「うん。」
『そうね。』
「感慨深いねえ。」
確かにローナの言う通り感慨深い。
最初に来たのがこの街で、その時のメンバーもこの4人だったっけな。
探り探りのキッチンカーで、初めて店を出したのもこの街だった。
無謀な試みだったけど、間違いなく楽しかった。それは断言できる。
どんどん改良されるオラクモービルを駆り、いろんな場所に行った。
戦いも出会いもあった。海を越え、国を渡り、そして戻ってきたんだ。
「オトノで最後の営業を」
それを言い出したのは誰だったか、実ははっきりしていない。
女王に会いに行こうと言ったのは、間違いなくローナだ。だけどこれは
本当に誰からともなく決めた話だ。反対する者も、誰もいなかった。
いいじゃないか、こんな感慨も。
まだやるべき事が待っているけど、それはそれこれはこれってやつだ。
少しくらい、旅を惜しんでもいい。俺も心からそう思ってるよ。
「んじゃ行こう。」
ロンデルンを目指す前に、きっちり出店手続きもしていた。もちろん、
前回と同じ場所である。そうそう、ここでいいんだよ。
そして…
「よう、トラン!」
「ご無沙汰してます。」
「わー、お久し振り!」
予感があった。そしてズバリ的中。
前回とちょっと場所は違ったけど、トリシーさんの理容院も出てたよ。
もはや当然のように、ルソナさんも一緒に準備をしていた。
そうなりゃ、次に何が起こるのかもおよそ分かるってもんだな。
「ちょっと伸びてるし、またお願いしようかしら。」
「どうぞどうぞ!」
ローナが言ってルソナさんが応え、そしてトリシーさんがスタンバイ。
ああそうだったよなぁ。前の時も、ローナが髪を切ってもらってた。
帰って来たんだよな。
そしてオラクレールはもうすぐだ。
今日は、笑顔で最後の店を出そう。




