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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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錬金術師の憂鬱・8

金を用いて金を稼ぐ。

その方法は何であるべきか。


短絡的な発想ばかりが先に立って、基本的な発想を出せていなかった。

要するに、商品を作って適正価格で売ればいい。


何でこれに気付かなかったんだ俺。



天恵は、人をおかしくするのか。


================================


というわけで、金細工を作るという方針を定めた。


もともと俺は金物修理を生業としているから、別に不思議じゃない。

金属加工の知識なら持っているし、技術もここしばらくで十分磨いた。

と言っても粘土細工だけど、そこは大した問題じゃないだろう。


そもそも天恵は、恵神ローナからの授かりものだ。しかも特定の人間の

特権などではなく、等しく全ての者が15歳になった時点で授かる。

今の時代ではすっかり廃れていると言っても、禁則にもなっていない。

ただ単に、宣告を受けないって事が常識になってしまっただけの話だ。

俺の錬金術は、後ろめたいと考える必要など何もない天の恵みなんだ。


だったら、小銭を稼いで何が悪い。

…いや、確かにここまで考えた事はかなり後ろ暗かった。認めよう。

金の塊の売却だの金貨の偽造だの、発想はかなりアウトだった。


しかし、真っ当な商品を作って適正価格で売るのはセーフのはずだ。

いちいち材料入手のルートなんかは細かく質問されないだろうし、仮に

訊かれたとしても答える義務なんかない。いわゆる企業秘密だろう。

どうしても申告しないといけない…って話になるのなら、その時初めて

自分の天恵をカミングアウトする。堂々としてりゃいいんだ堂々とな。


市場の独占なんて考えなけりゃあ、さほど他人に迷惑もかからない。

あまり手広くやればさすがに事情は変わるだろうけど、まあそこまでの

高望みはしない。俺みたいな人間は小遣い稼ぎでしっかり満足できる。


もし揉め事が起こったら、その時はその時だ。

家族などいない俺がどうにかなったところで、悲しむ者もいない。

少なくとも今よりは張りのある人生を送れる。その確信はある。


試行錯誤の末の結論だ。

勝手な理屈だと言われようと、俺はこれで行く。



そう決めた。


================================


ガラに合わないとか言われようと、今の俺にできる最善は多分これだ。


すなわち、金のキャラクター商品の製造と販売。いたずらチェルシャは

もうお手のもんだけど、このネコは児童文学の登場キャラクターだ。

作者はついこの間亡くなったけど、さすがに無断で使ったら怒られる。

だからオリジナルで行こう。まあ、本質は「純金でできている」点だ。

作りさえ悪くなければ、無名作家の無名キャラでも売れる。…多分。


もし気に入らなきゃ、買った人間が溶かして金に戻してくれればいい。

その後の事はもう俺には関係ない。好きなように扱ってくれ。

我ながら開き直りがひどいと思う。だけどこれは俺の天恵だ。文句など

誰にも言わせない。


…金貨の事とかはもう、忘れよう。


さあ原型の制作開始だ。


================================


何度もやっているうち、比重の縮尺も感覚で予想できるようになった。

これが職人技かとか考える自分が、何となく可笑しくもある。


金貨の偽造とは異なり、ここからは厳密にサイズを揃える必要はない。

大体このくらい縮むだろうなと予想しつつ、適当なサイズで作るだけ。

不揃いでも構わないし、形なんかもバラバラでいい。今までと比べれば

格段に気楽だし、製作を楽しむ余裕さえ持てる。何ともいい身分だな。


まずはネコ。そして鳥も作ろうか。あんまり写実的にするのは大変だし

時間もかかる。だから、可愛らしいアレンジを加えつつデザインする。

うん、単純な方が映えるだろうな。子供が手に取る可能性も考慮して、

出来るだけ尖った部分を作らない。耳も嘴も丸っこい形にしていく。


そうだ。完全に乾く前ならば、少し重いから大きめに仕上げられるな。

そのあたりもまた試してみようか。


ああ。

何だか俺、今までで一番楽しいな。


悪くないじゃないか、俺の天恵。


================================


楽しい事はいくらでも続けられる。


というわけで、半日かけて28個の置物が完成。もう置く場所がない。

最後の方は上に孔を開けて一輪挿しにしたり、コップにしたりと様々な

工夫を試みた。…何と言うか、俺にこんな創意工夫の情熱があったとは

本当に知らなかった。基礎を教えてくれた親父には、本当に感謝だな。


いつの間にか材料の粘土が尽きた。気付かないうちに腕も疲れてるな。

んじゃあ、さっさとこれを金に…


いや、ちょっと待て。


ここまで手をかけたんだから、全て完全に乾燥させよう。金にするのは

それからでも構わない。縮んでも、十分なサイズは保てるはずだから。


「…何を言ってんだろうな、俺。」


口に出した途端、ちょっと笑った。笑わずにはいられなかった。

誰もいない部屋の中で、己の作ったキャラクターに囲まれて大笑した。


ここにきて、何をためらってんだ。

いや、ハッキリ分かってる。


「錬金術」という天恵は間違いなく俺の力だ。それは絶対の真理だ。

だけど天恵ってものは、努力で身に着けたわけじゃない。恵神からの

授かりものに過ぎない。要するに、そこに俺自身の意思は存在しない。

どうして金になるか、その仕組みを説明する事は俺には出来ない。

いや、どこの誰にも天恵の仕組みを説明する事なんて、不可能だろう。


誰が何と言おうと、俺は職人だ。


職人である以上、創り出すものには最大限の理解と納得が欲しいんだ。

苦労して粘土をこねて作り上げた、こいつらにはそれが存在している。

だけど金に変えた瞬間、こいつらは俺の理解を超えたものへと変わる。

俺の手を離れ、恵神ローナ以外誰も理解できないものになり果てる。


ああそうだ。

俺はそれが少しだけ気に入らない。少しだけ面白くないんだ。



…難儀な性分だよな、俺って男は。

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