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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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錬金術師の憂鬱・6

必要なものは揃った。そして期限もある程度決まった。

じゃあ、ここからはひたすら作業に専念する。


腕が鳴るぜ。


================================


まずは、それぞれの金貨の模造品を粘土で作る。もちろんサイズなども

寸分違わないものを目指す。

言うまでもなく、これを金に変えるわけじゃない。仮に変えたとして、

また小さく縮んで終わりだ。これはあくまでも見本。形やサイズなど、

とにかく「本物」のサンプルとして手元に置くための代物である。


こういうのは、慣れれば慣れるほど精度が上がる。だからまず、会長が

貸してくれた外国の金貨を試作する事にした。特に使う機会があるとは

思えないし、練習にもってこいだ。気負わず手を抜かずに作っていく。


「…うん、まあまあだな。」


最初の一枚から、予想以上に精度の高いものが作れた。いい感じだな。

借りられた硬貨は、全部で6種類。優先順位を決めて、どんどん作る。

とにかく「慣れ」だ。技術面はもう問題ないから、ひたすら精度向上を

目指す。いやあ、楽しいなぁこれ。金儲けとか抜きにして。…いっそ、

本気で彫金師を目指してみようか。


そんな事を考えながら、ひたすらに模造を繰り返すこと丸二日。

本命金貨の模造を3回行った結果、ほぼ完璧なものが出来上がった。


いよっしゃあ!


================================


とりあえず、今の時点でもう金貨はいつ返してもいいって事になった。

そっくり同じサンプルがもう手元にあるから、後はこれを見本にして

次の作業に移ればいい。とは言え、あんまり早く返しても怪しまれる。

ひとまずこれは厳重に仕舞っておく事にする。で、適当なタイミングで

返しに行こう。


よし、それじゃいよいよ金に変える本命の金貨を作っていく。


完全に乾いた粘土の比重はもう既に調べてあるし、金との比重の違いも

きっちり測った。ここから算出したサイズで、「縮んだらピッタリ」に

なる「大きな硬貨」を作っていく。原寸大の練習を繰り返したのには、

こっちの精度を上げるため…という意図もあった。抜かりはない。


というわけで制作開始。

しかし、これが意外に難しかった。大きい方が楽だと思っていたけど、

逆にちゃんと平らかにするのが原寸より難しい。自重で歪んでくるのも

直さなきゃいけないし、予想以上に手間のかかる作業になった。


とは言え、練習の成果はバッチリ。コツを掴めば面白く作っていける。

表面から乾いて硬化してくるから、表面の処理も割とサクサク出来る。

予想よりも時間がかかったものの、とにかく本命一号は完成した。


よおし上出来。サイズも問題ない。

それじゃ、いよいよやってみよう。


================================


「…ま、そうそう最初からうまくはいかないか。」


あえて口に出してみると、やっぱり思った以上に落胆の響きがあった。

正直、成功すると踏んでいただけに落胆は隠し切れなかった。


きっちりと測ったはずだったけど、出来上がった金貨は本物と比較して

直径が5ミリ近くも大きくなった。いくら何でもこれじゃ丸わかりだ。

完成度には問題ないけど、サイズがここまで違うとどうしようもない。

…やっぱり、計算だけで思い通りに行くようなもんじゃないのか。


と言っても、考え方そのものがダメだったというわけじゃない。事実、

形がそっくりなものを創るまでには至ったのである。後はその精度を…


待てよ。


計算ばかりに頼って詰めてたけど、問題なのは比重だ。つまりは重さ。

逆に考えるなら、重ささえピッタリ合えばサイズも合致するはずだ。

という事は…


「とにかく、硬化した時点で金貨と同じ重さになってりゃいいんだ。」


思わず声に出してしまった。

そうだ、そういう事だ。とすれば、まずはその重さを具体的に知る。

作ってから図るってのはあまりにも効率が悪い。それならいっその事、

粘土の塊を作って比較すればいい。重さ別に何個も作っておき、乾いた

時点で本物の金貨と比較する。で、ぴったり合った重さを見つけ出す。

後はその重さの粘土で、また大型の硬貨を作ればいいって事だ。

できるだけ薄く延ばして、少しでも早く乾燥・硬化するように工夫。



まだまだこんなもんじゃめげない。問題はひとつずつ解決だ!


================================


失敗作を基準にして、重さ別試作を20枚作って硬化するのを待つ。

ほとんど粘土を使い切ってしまったけど、一発で重さを確定したいなら

ここでケチるのは悪手だ。何より、時間がもったいない。


…暇なので、余った粘土片を使ってまたチョコチョコと小物を作る。

やっぱりモチーフはチェルシャだ。今度はブローチっぽいのを目指す。

さすがにちょっとコインは飽きた。

普段の仕事も順繰りに片付け、ただひたすら乾くのを待つこと丸一日。

ようやく最後の一枚も完全に乾いたらしい。んじゃ、待望の計測だ。


…慌てて返却しなくてよかったと、今になってつくづく思う。

そして。


「よっしゃ!」


三枚目で天秤がぴたり釣り合った。これが適正の重さだ!

この三号サンプルと同じ量の粘土で作れば、サイズも同じになるはず!

それじゃあ…!



材料が尽きた。

また買いに行かないと。


「…まあ、手土産も出来たしな。」


待ってる間にチェルシャブローチは3個も出来ていた。

せっかくだから持って行こう。

オマケしてもらえるかも知れない。


…あの人の笑顔も見たいし。

ま、ともあれ明日だな。

今日は疲れた。



苦労するなあ、俺の天恵。

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