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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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錬金術師の憂鬱・5

商工組合を後にした俺は、もう一度大きな伸びをした。


いやはや、比重の法則を知った時はさすがに凹んだけど、立ち直った。

何だかんだ言って、割と予定通り…いやそれ以上にうまく運んでいる。

無理をして金貨を手に入れるより、正直な説明をして貸してもらう。

ダメモトでやってみたものの、割とすんなり会長も納得してくれた。


別に、この金を元手に商売や投資をやる!とか考えてるわけじゃない。

本当にただ貸してもらっただけだ。期限内に返せば、何も問題はない。


いよいよ先が拓けてきたな。


================================


さて、じゃあ後はもう一軒だ。

金貨がタダで手に入ったとは言え、何もかもタダとはいかない。特に、

ここからはガッツリと材料が必要になってくる。



と言うわけで、画材屋へ向かう。


================================


「いらっしゃいませー!」


元気な声で俺を迎えてくれたのは、顔なじみの女性店員だった。

ほとんど話した事はなく、もちろん名前も知らない。ただの顔なじみ。

それでも彼女の明るい挨拶は、今の疲れた耳には心地良かった。


おっと、買い物買い物。

欲しい物は決まってる。ジェスベル粘土だ。


硬化が割と速い上に、細かい加工がしやすい。今まで使っていた粘土と

比べても、それほど高価じゃない。ただし乾いた後はかなり軽くなる。

従来のもの以上に、比重という問題が大きくのしかかる代物である。

しかし、もうその点は目をつぶる。とにかく加工しやすいという点のみ

重視し、結果を求める事にした。


「あった。」


粘土のコーナーに、大量に積まれているのをすぐに見つけた。今回は、

おそらくかなりの量が必要になる。…思い切ってまとめ買いしよう。

というわけで、一気に7キロ購入。


「…こんなに買うんですか。どうもありがとうございます。」

「まあ、ちょっとやってみたい事がありましてね。」


女性店員の驚きの言葉を受け流して、俺は努めて平静に財布を出した。

と、その刹那。


カラン!


乾いた音を立てながらポケットから落ちたのは、あのネコ硬貨だった。


「え?…わっ、可愛いですね!」

「え?いやその…どうも。」


ネコ硬貨を指で摘まみ上げた女性の歓声に、俺はいささか困惑した。

でもまあ、悪い気はしないか…


「これってもしかして、「いたずらチェルシャ」がモチーフですか?」

「…よくお分かりですね。」


驚くと同時にちょっと嬉しかった。まさかこれを当てる人がいるとは。

いたずらチェルシャ。「三つ編みのホージー・ポーニー」シリーズに

登場する、人語を話すネコだ。作者エイラン・ドールが、若かりし頃に

飼ってた猫がモチーフなんだとか。


「どうしたんですかこれ?」

「作ったんです。まあ習作と言うか何と言うか」

「えっ!?これをご自身で!?」

「えっ…はあ、まあそうです。」


こっちがびっくりするリアクションだった。…目が輝いてるよこの人。

そんなに琴線に触れたのだろうか。


「あっ、それでそんなに粘土を!…いや、でも凄いですね。」

「…どうも。」


金に変えてもいない、ただの粘土製コインがそんなに凄いのだろうか。

まあ、大いに楽しんで作ったというのは事実だけど。


俺の困惑をよそに、彼女は手にしたネコ硬貨を見ながらブツブツと何か

呟いている。自分の世界に浸るその姿は、何だか自分と被る気がした。


「…うん…でもあたしならこれ…」

「あのう。」

「え?…あっ失礼しました!じゃあこれお返しして」

「よければ差し上げます、それ。」

「えっ…え、え!?本当に!?」

「ええ、習作ですから…」


別に惜しくもない。

楽しんで作ったのは事実だ。しかし愛着があるとまでは言わない。

商工組合まで持って行った時点で、もう役割も果たしてくれている。

喜んでもらえるなら…


「ありがとうございます!」

「いえいえ。」


思った以上に喜んでもらえた。

何と言うか、俺としても嬉しい。


「それじゃ。」

「またお越しください!」


重い粘土を持って店を出たものの、心はいつにも増して軽かった。



さあて、じゃ気合い入れていこう。

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