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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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錬金術師の憂鬱・3

どこの国でもいつの時代でも、金の価値は絶対だ。歴史が語っている。

だからこそ、俺の天恵はある意味、誰よりも貴重かつ危険な代物だ。


行き詰まった時は考え方を変える。

とりあえず、「貴金属としての金」は俺の手には負えない。と言うか、

個人が何とかできる代物じゃない。だからこそ絶対の価値があるんだ。

だとすれば、俺がこの力で何かしら利益を得ようと思ったらどうする。


まあ、その答えはいたって簡単だ。

要するに、個人でも怪しまれない形にして使う。これしかないだろう。



つまり、高額金貨の偽造だ。

…いよいよ犯罪めいてきたなあ。


================================


とは言え、あまりにも高い金貨だとまた怪しまれてしまう。そもそも、

そういった金貨では普通の買い物ができない。どうしても両替をする

手間が生じる。俺みたいな貧乏人がそんな高い金貨なんか持ってたら、

もうそれだけで犯罪の臭いがする。…まあ、本当に犯罪なんだしな。


だから、あんまり強欲にならない。それをしっかりと肝に銘じておく。


そこそこの金額の金貨を、いかにも思い切って散在する!といった態で

一気に使う。ちまちま貯めましたという雰囲気さえ出せれば、貧乏人が

奮発したと捉えてもらえるだろう。それも、たまの機会に抑えておく。


とにもかくにも、天恵で人生が詰むという展開だけは絶対に御免だ。

今の暮らしが嫌でたまらないとか、そんな自棄も別に起こしていない。

地道に暮らしつつ、ほんの少しだけ豊かさを加えられればそれでいい。


よし。

この方針で行こう。


================================


まず何より必要なのは、金に変えるべき「元の硬貨」だ。

普通の金貨は鋳型を使って鋳造するけど、俺の場合はワンオフになる。

型を作るのはいくら何でも無理だ。と言うか、さすがに量産しようとは

思ってない。そこまですると怖い。引き返せなくなる気がする。

だから、見本となる本物を見ながら作ったものを金に変える。これなら

大量生産しようとは思わないし…


いや、ちょっと待てよ。

別に、元の硬貨を金属で作る必要はない。もっと柔らかい物でもいい。

最終的に金に置き換わるんだから、鋳造ではなく単なる型抜きでいい。

なら本物の金貨を使って粘土で型を作り、蝋とかを流せば出来るかも。

…うん、行けそうな気がする。


よし、まずは試作だ。


================================


今、俺ん家に金貨なんて物はない。いずれ何とか手に入れるとしても、

試作なら別の何かでやればいい。


というわけで、まずは粘土を使ってそれっぽい原型を作る事にする。

彫刻とかは得意だ。空気で硬くなる粘土を使って、金貨と似たような

そこそこ複雑な模様の打刻をする。…まあ、ちょっと遊んでみようか。

昔好きだった児童文学に出てくる、言葉を話すネコをモチーフにする。


…うん。

こういう創作もちょっと楽しいな。偽造というより、新しいデザインの

硬貨を試作してるみたいな気分だ。手先の器用さも家業の修行も、今は

実にありがたいと思える。


………………………………


没頭すること半日。

ついに、試作硬貨が出来上がった。


うん、完全に固まってるな。

これなら粘土の圧迫にも耐え得る。そこそこ精度の高い型が作れるな。


よーし、じゃあやってみよう。


================================


よしよし。

思った以上にいい型が出来たな。


もちろん、そんな本格的なものじゃない。使えるのもせいぜい数回だ。

しかし原型さえあれば、いくらでも型は作り直す事が出来るだろう。

…意外と大金持ちはすぐそこか?

ってな事で、ここに蝋を流し込む。そして固まるのを待って取り出す。


よーしよしよしよし。


いい感じに複製できた。周りのバリ部分を慎重に削り落として完成だ。

元の原型と見比べてもそっくりだ。この精度なら何とかなるだろう。


ではいよいよこれを金貨に変える。

後戻りできない領域に足を突っ込む事になるけど、ここまでやった以上

突き詰めるのが男ってもんだろう。天恵は自己責任だ。


蝋でできた硬貨を両手で包み込み、俺は念を込めた。


================================


「…ん!?」


確かに天恵【錬金術】は発動した。かすかな光と共に感触が変わった。

だけど、石の時とは何かが違った。あまりにも手応えが…


どうなったんだ一体?

ゆっくりと手を開いた俺は、そこに見たものに目を見開いてしまった。


「…何でだ?」


確かに、蝋の硬貨は金に変わった。間違いなく天恵は発動していた。


だけど。


その硬貨は、両手で包む前と比べ、信じられないほど「縮んで」いた。

見間違いかと思ったけど、じっくり見直しても間違いなくネコ硬貨だ。

どうしてこんなに小さくなった!?

石の時はこんな現象は…


「いやちょっと待て。」


取り乱しそうになった俺は、そこでふと冷静さを取り戻した。

石は大丈夫だった。

蝋で作った時は縮んでしまった。

一律で縮小するなら、石も縮むのが道理ってもんだろう。しかし現実は

そうじゃない。なら、どうして石は縮まなかったのか。


………………


「そうか、比重か。」


そう言えば、帰る途中で拾った石はかなり重かった。だから金にしても

大きさが変わらなかった。あるいは気付かないくらいの変化だった。

だけど蝋は軽い。だから同じ重さの金にまで圧縮されてしまったんだ。

つまり、少なくとも金を得るために「同じ重さ」が必須って事なのか。


って事は…

もっと原型を大きく作れってか。



使えねえなぁ俺の天恵!!

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