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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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ルーベリの街の手前で

「ん?」

「どしたの?」

「出来るだけ早く戻ってくれって。トランたちからの連絡が入った。」

「あらまあ。」


あたしの言葉に、ローナは軽く肩をすくめた。


「こっちの本格的な話は、これからなのにね。」

「そうねえ。」


あたしは、ほんの少しだけ迷った。

ポロニヤたちと神託師たちの揉め事に関しては、ケンカ両成敗といった

雰囲気で収拾をつけた。とは言え、彼ら彼女らが具体的にどうするかは

これからの話だ。このタイミングで場を離れるのは、さすがにちょっと

後ろ髪を引かれるなあ。

でもまあ、あんまりあれこれと指図するってのも何か違う気がする。

トランたちにそれなりに因縁があるとは言っても、あたしは完全なる

部外者なんだから。


よし。


「んじゃ、鳥だけ残して戻ろう。」

「え、それでいいの?」

「むしろ、そのぐらいがいいよ。」


ちょっと意外そうなローナに笑って答え、あたしは立ち上がった。


「あの子たちは馬鹿だけど、今回の事で何ひとつ学べないってほどじゃ

ないでしょ。ここでどういう選択をするにせよ、今よりは少しマシに

なると信じましょう。お目付け役に鳥が残れば、それでいいからさ。」

「そうね。」


納得したらしいローナも、ゆっくり立ち上がる。


「あの子はこの世界の人間だから、そこそこ自分で頑張らないとね。」

「ええ。」


あの子というのがポロニヤの事だというのは、訊かなくても分かった。


人として現出したローナは、露骨なえこひいきをする。それもまた人の

成す事だという、非常に独特な考えに基づく行為だ。人への憧れなのか

ただの模倣なのか、そこはおそらく誰も理解できないだろう。もちろん

あたしも含めて。だけどその一方、彼女が本当の意味で肩入れしている

人間は友樹だけだ。異世界から来た彼には、保護者的な態度を見せる。


たぶん、友樹がこの世界の人間じゃないからだ。望まぬ転生と覚醒で

苦労している彼のため、どこまでも骨を折る姿はまぎれもなく保護者。

神である自分でさえ持て余すような相手だからこそ、元の世界に戻すと

決めた信念を貫こうとしている。


いいじゃないか。

そういうミニマムな信念、あたしは嫌いじゃない。

かつて拓美も、そんな信念を抱いて何度も大きな事を成し遂げてたし。

ポロニヤたちだって、破滅に向かうつもりなんてないはずだ。ならば、

もう少し信じていいかも知れない。人の可能性というものをね。


よし。


オラクモービルに戻ろう。


================================


ヤマン共和国のオラクモービルへと戻り、トランたちと合流。ちなみに

この国に入ってからはほぼ車中泊。どうにも街の宿やホテルは泊まれる

雰囲気じゃないので、ずっと大事を取っている。もちろん、その分だけ

車内の生活環境は改善を繰り返している。そこらのホテルには負けない

クオリティを実現していますとも。


「それで?」


ローナがトランたちに問う。

時差が少しあるので、こっちの国はあらためて夜だ。もちろんとっくに

営業は終わっている時刻。おそらく明日か明後日には首都ルーベリまで

行けるはずの場所まで至っている。


「至急戻れって、何かしらの情報を得たって事よね。」

「ああ、そのとおり。」


人数分の熱いコーヒーを淹れつつ、トランがそう答える。ちなみにもう

あたしは体を持ったままだ。多分、この先は使う事になるだろうから。


「今日来た客の中に、ロナモロス教に在籍しているらしい奴がいた。」

「らしいって?」

「最後まで明言しなかったんだよ。ちょっと怒らせて【魔王】の術にも

かけてみたけど、その点に関してはとことんまで口が堅かった。」

「魔王でも墜とせなかったの?」

「そうです。」


怪訝そうなローナの問いに、トランではなく傍らのネミルが答えた。


「そこまで頑なな人は初めてです。だけどすぐ傍で見ていた印象では、

本人の意志で抗っているという感じじゃなかった。むしろ…」

「むしろ、何?」

「本人の記憶に、強力な封印か何かが施されてるみたいでした。」

「封印…」


あたしもローナも、ネミルのそんな見立てに困惑を隠せなかった。

洗脳系の天恵としては、【魔王】はかなり強力だ。発動条件がけっこう

厳しい分、術に墜とせば大抵の質問には答えさせる事が可能となる。

そんな【魔王】をしても、最後まで口を割らせる事が出来ないとは。

一体、何が理由で…


「理由の見当はついてる。」

「え、ついてるの?」

「ああ。」


座り直したトランが、そう告げた。


「全く正常に見えていたけど、その二人はシャドルチェの天恵の気配を

まとっていた。つまり、同じような洗脳状態だったんだ。いくら俺でも

その影響を消す事は出来なかったという事だろうな。」

「なるほどね。」


かつての世界でも、人の行動や記憶を操る魔法は存在していた。

ニアデがその最たる例だろう。この世界にも、そういう天恵を得る者は

割といる。その力同士がぶつかるとやはり「早い者勝ち」になるのか。

こればっかりは、そういうものだと納得するしかないんだろうな。


「それともうひとつ。」


皆に語るトランの口調には、どこか深刻そうな響きがあった。


「推測だけど、シャドルチェの術はこういうごまかしが目的じゃない。

もっと別にあるはずだ。」

「ああ、それは何となく分かる。」


即答したローナの口調もまた、重い影のようなものを帯びていた。



「兵隊が欲しかったんでしょうね。とにかく、死を恐れないやつが。」

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