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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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錬金術師の憂鬱・2

「別の物質を金に変える…?」


何を言ってるんだよと思ったけど、トランもネミルも冗談を言っている

気配はなかった。というか、どこか後ろめたそうな気配すらあった。

…いや、本当なら確かにヤバい。


「マジかよ。」

「ああ、そうらしい。」

「何で知ってるんだそんな事?」

「…まあホラ、神託師を受け継いだ関係でいろいろ勉強したから。」


ネミルの説明は若干ぎこちなかったけど、別に疑う理由はなかった。

と言うか、その天恵を得たのはこの俺だ。嘘だとしてもすぐにバレる。

さすがにそんなすぐバレる嘘なんかつかないだろう。


「…分かった。ありがとう。」


とにかく、試してみれば判る事だ。ならさっさと帰って実践あるのみ。

大急ぎで荷物を取りに行った俺に、トランがポツリと言った。


「おいジェレム。」

「うん?」

「あんまり変な事に使うなよ。」

「分かってるよ。じゃあな。」


忠告のつもりなのかも知れないが、俺にとっては余計なお世話だ。

天恵は個人の力。そして自己責任が鉄則。それは昔から決まっている。

俺が何をしようと、宣告しただけのネミルに迷惑はかからないだろう。

ともあれ、予想以上で期待以上だ。



俺の人生も、ようやく大きく動いたようながする。


================================


限りなく当たり前だが、天恵宣告を受けるのは一生に一度だけ。正直、

どんなものか見当もつかなかった。宣告を受けただけで使えるように

なるのかも、想像できなかった。


しかしどうやら杞憂だったらしい。いざ宣告を受ければ、少なくとも

どうすれば力を使えるのかくらいは感覚で分かる。さすがは天恵だ。


【錬金術】か。

トランたちの話を信じるなら、他の物質を金に変える事ができる力だ。

まあ何と言うか、貧乏人にとっては夢のような力だろう。やり方次第で

いくらでも儲けられそうだと思う。


まあ、何はともあれ試してみよう。


「よし。」


帰るまでの道すがら、大きめの石を4つほど拾ってきた。

…まずはシンプルに、これらを金に変えてみるとしようか。

内側から湧き上がる本能に任せて、一番小さな石を掴み上げる。そして

両手ですっぽり包むと、後は感覚で念を込めてみた。


と、次の瞬間。


パッと一瞬だけ手が淡く光り、石の表面の感触が明らかに変化した。

恐る恐る開いてみると、紛れもない金の塊に変化していた。


「…マジか、おい。」


思わずかすれ声を上げてしまった。半信半疑だった思いが振り切れる。


…すげえな錬金術。


================================


さて。

少し落ち着いて、金に変わった石をしっかりと観察してみる事にする。

ちなみに、まず1つだけに留めた。

仕事柄、この石が純金だという事ははっきり確信できる。間違いない。

これが俺の天恵なんだろう。


ではまず、この石で何が出来るかを具体的に考えてみよう。

そのままでは役に立たない。価値で言えば相当な額になるだろうけど、

だからと言ってこれで買い物なんか出来るわけがない。それどころか、

下手すれば捕まってしまうだろう。天恵で人生が詰む展開は避けたい。


それなら、どこか専門の店に行って買い取ってもらうべきだろうか。

今現在の金のレートは知らないが、少なくとも少なくない金額になる。

それだけは確かだ。ならばそれで…


いや、ダメだ。

ホイホイ持ち込んだりしたら、ほぼ確実に怪しまれる。そして絶対に、

入手経路を訊かれる。当然の話だ。出所が怪しい金の塊なんて、誰でも

まず犯罪がらみを疑うだろうから。


なら、正直に言えばいいだろうか。少なくとも、実証ならすぐできる。

目の前で実践すればいい。手品じゃないんだから、信じてはもらえる。

何だ簡単な話だ。それで全て解決…


するわけないだろうが。

そんな力を披露すれば、間違いなく大変な事になる。そもそもこの力は

金を無限に産出しているに等しい。つまり金相場崩壊を招きかねない。

下手すれば殺される可能性もある。盗んだといった方が、まだマシだ。

ならもう、裏のルートで売りさばくしか方法は…


そんなルート、知ってるわけない。俺はただの金物修理の請負職人だ。

犯罪なんか、欠片も縁がなかった。もちろんこれからも縁はいらない。

重ねて言うが、天恵のせいで人生が詰むなんて展開はまっぴら御免だ。


………………………………


「ダメだ。」


思わず声に出してしまった。それでかえって確信が持てた。

どう考えても、この金に変えた石を金に換える方法は思いつかない。

何をどう立ち回ろうと、最終的には犯罪になるか社会的に殺されるかの

二択しかない気がする。


おい何なんだよこれは。



ここに来て俺は初めて、自分の得た天恵の厄介さに気付き始めていた。

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