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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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悪意の源泉は

俺は、そんなに観察力に秀でた人間じゃない。せいぜい人並み程度だ。

あれやこれやと難しい局面を何度もくぐり抜けては来たけど、それでも

ただの喫茶店店主だ。そんな特殊な目なんて持ってるとは思わない。


それでも。

不本意ながら俺は、宣告された天恵をかなり磨き上げた。実のところ、

その可能性には少し昂りを覚えたりする事だってある。いやもちろん、

それで何か大それた事をしようとは考えていない。知られざる能力を

持っているってだけでいい。まあ、子供っぽいと言われりゃ終わりだ。

そしてその感覚は、この国まで来て以降ますます研ぎ澄まされている。



おそらく、自分で思う以上に。


================================


ここまで来れば、もはや俺にだってあらかたの状況は察せられる。

最初の頃は困惑しかなかったけど、今ではヤマンの人間は色んな意味で

都合がいい。実に効果的に俺たちに悪意を向けてくれるが故に、むしろ

平穏な商売と旅が両立出来ている。下手すりゃイグリセよりも順調だ。


そんな日々が続いた結果、俺は今の状況に対するおおよその成り立ちを

理解した。訳も分からず嫌われてると思っていたけど、そうじゃない。

国同士の軋轢が高まっているという状況でもないのに、どういった訳か

俺たちだけが敵意を持たれている。それも、行く先々でことごとくだ。

いや、むしろ最初の頃と比べても、悪意の拡散が効果的になっている。

断じて、それは俺のせいじゃない。俺たち以外の誰かが、この状況に

慣れつつあるという事なんだろう。


じゃあ、その誰かって誰だ。

ヤマンの人たちに対して、俺たちのネガキャンをしている相手は。


考えりゃ分かる。

俺たちの事を知っている人だ。

もっと言うなら、「この俺の天恵の内容を知っている人」だ。

そこまで行けば、かなり絞られる。その上でこんな拡散を行える相手。

ましてやここは外国だ。こんな場所まで来て、継続的にそんな工作を

繰り返せる相手。もはや決まりだ。


シュリオさんかリマスさん。そして同じマルニフィート騎士隊の面々。



それ以外にはないだろう。


================================


突拍子もない考えだとは思わない。もうそういう段階は終わっている。

悪いけど、俺はそこまで騎士隊って存在を全て信じてるわけじゃない。

シュリオさんたち個人はともかく、女王陛下の腹心である彼らの判断が

俺たちと同じとは限らない。むしろ【魔王】って天恵の内容を知れば、

あらゆる意味で警戒する。ってか、そうしなきゃ国は護れないだろう。

ロナモロス教にしたって、表向きは単なる宗教団体だ。建前をそのまま

信じてたら、いいカモになるだけ。本質を見極めないと、色々と詰む。


残念ながら、俺の天恵は警戒されるに値するだけの力を持っている。

今ここに至って、少なくともそんな確信だけは既に胸の奥にある。

その上で仮定する。シュリオさんが実際に関わったのだと考えれば、

【魔王】を活用する方法に至ったとしても何の不思議もない。要するに

効率よく利用できる手段としてだ。


姿を見た事はない。タカネに頼めば調べてくれるだろうけど、そこまで

して知りたいとも思わない。知れば望まない展開も訪れるだろうから。

もし騎士隊が俺たちの動向を知った上でこの扇動をやってるとすれば、

乗っかってればいいだけだ。ここはイグリセじゃないし、俺たちは別に

テロ行為をしに来たわけでもない。ただ、海を越えて商売してるだけ。

今のところ、決定的な不都合とかは生じていないからな。


とは言え、俺たちだっていつまでも同じ事をしているつもりはない。

そもそもキッチンカー営業は単なる手段だ。ルーベリが目と鼻の先に

近付いている以上、己のやるべき事は迷いなくやる。騎士隊の都合や、

イグリセの都合を考える気もない。それこそ女王陛下が考えればいい。


さてと。



問題は、目の前の二人の客だ。


================================


誰の仕業か断定はしないが、俺たちに対する印象操作と扇動は巧妙だ。

どこへ行っても地元の人間が、必ずある一定の敵意を露わにしてくる。

これで客商売が成り立つんだから、我ながら【魔王】の力に恐れ入る。


そんな現状を踏まえた上で、二人の客の素性はかなり興味深い。

彼らは、これといったマイナス感情を持たずに来店した。という事は、

地元在住の人間でないという仮定が成り立つ。イグリセ人とヤマン人は

見分けが難しいが、シャドルチェの天恵の残滓をまとっている時点で、

少なくともロナモロス教との関与の可能性はかなり高くなる。


そしてこの二人、天恵持ちだ。

ネミルが見れば、天恵の内容はすぐ判る。しかし迂闊にそれをやると、

ロナモロス教に目をつけられる危険が増す。何しろネミルは神託師だ。

オレグストがまだ教団で健在なら、警戒は必須だろう。しかも今現在、

タカネとローナが聖都グレニカンに出張しているわけだから。


よし。

ならいっそ、久々に俺自身が天恵で二人から聞き出してやるとするか。

俺だって、自分の天恵と向き合って生きる覚悟は何度も決めている。



コーヒー出して情報収集と行こう。

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