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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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魔王の知られざる真価

子供の頃、それなりに自分の天恵を夢想した事があったっけな。

ほんの小さかった時は火の玉だとか怪力だとかに憧れてたけど、やがて

料理の技術へと憧れはシフトした。やっぱり、割と早い時点で料理人に

なりたいという思いが固まったからだろうな。


とは言え、自分が天恵宣告を実際に受ける事になるとは思わなかった。

ルトガー爺ちゃんという存在がごく身近にいてもなお、そういった事は

夢にも思わなかった。やはりそれは時代のせいだったんだろう。


そして俺はネミルと結婚し、何だか異質な天恵を得る事となった。



現在に至る道程は、やっぱり俺にはかなり突拍子もないんだよなあ。

うん。


================================


実際に天恵を得た人間が、それからどうなるか。それについては正直、

あんまり想像した事が無い。実際に話を聞く機会なども特になかった。

まあ、トーリヌスさんの話は大いに参考になったけど、それは生き方を

明確に決めてからの事だったから。


天恵は、決して内容など選べない。どれほど望まない力だったとしても

受け入れるしかないし、変える事もできない。一発勝負の運試しだ。

だから結果次第では、宣告を受けた後は一切ノータッチ…という顛末も

少なからずあるんだろう。ネミルと一緒に資料を読み込んだ際、そんな

ハズレの実例についても勉強した。


考えてみれば、そっちの方が普通と言ってもいいんじゃないかと思う。

望む力を得るのが天恵だとすれば、多分世界はまともに成り立たない。

誰もが自分のやりたいようにやって収拾がつかなくなる。未来なんて、

そんな風にしか想像できないから。ほとんどの人たちが望まぬハズレを

引き当てるからこそ、天恵は独自の価値を今でも持っているんだろう。


じゃあ、俺はどうなんだろうか。

ネミルに宣告を受けた直後は正直、困惑とそれ以上の恐怖を感じてた。

間違いであって欲しいと思ったし、内容が分かるまでも怖かったっけ。

結局、名前の割にあまり大した事のない天恵だったので、ほっとした。

まあ話半分にしておこうかと考えたけど、実際にはとんでもなかった。

喫茶店を経営しているだけなのに、次から次へと難題がやって来る。

何をするにも工夫がいる。そして、【魔王】の天恵が必要な時も何度も

経験した。好き嫌いには関係なく、俺はとにかく己の天恵を活用した。

最初は名前以外何も分からなかった天恵に、少しずつ理解が至った。


その事実だけ見れば、俺はけっこう理想的な天恵持ちかも知れない。

きちんと得たものを受け入れ、かつその特性を活かしているのだから。

そういう意味で言うなら、今はもうトーリヌスさんにさえ並び立てる。

そんな自信を持ってもいいはずだ。


とは言っても、やっぱり俺の天恵は限りなく異質だ。

理解が深まれば深まっただけ、己が人間から離れていくように感じる。

気のせいだと言われても、やっぱり納得できる気がしない。残念だけど

これは俺にしか分からない感情だ。多分ネミルにも、いやローナにさえ

理解する事は出来ないんだろうな。


そして今。

ヤマン共和国において、俺は自分の天恵をかつてないほど使っている。



そして、研ぎ澄ませている。


================================


今さら余計なトラブルなど望まないので、天恵は常時使いっ放しだ。

明らかに嫌われているこの国では、それこそが平穏に旅を続ける秘訣。

もはや割り切っているから、そこに嘆きだの何だのはあまり生じない。

だけどここまで使い続けていると、さすがにまた理解が深まったという

否定できない感覚が生じる。きっと俺は、いかなる時代の常識で見ても

きわめて天恵に対して真面目な人間なんだろう。見たかローナ。


そして、俺はまた【魔王】の能力の深淵を覗く事になったらしい。

以前は相手が俺に抱く、何かしらの悪意を可視化するだけだったのに。

最近では可視化された黒い物質に、細かい違いを見い出せつつある。

色というか質感というか、何にせよこれは「個人の特性」なんだろう。

あまり突っ込んだ質問をする訳にはいかないので、具体的にどういった

特性なのかは調べられない。しかし多分、これは相手の天恵に対しての

認識能力なんだと思う。要するに、ネミルやオレグストと似たような。


…って、何気にすげえな俺って。

自分でも分かる。この視覚的特性をもっと極めれば、おそらくは相手の

天恵を詳細に見通せるだろう、と。そこまで行けば、魔王というよりも

神託師や恵神に近い感覚だ。いや、本当にいいのかよと思うばかりだ。

どこまでぶっ壊れ性能なんだ、俺の天恵は!いいのかよ恵神ローナ!


「まあいいんじゃない?」


あいつならそう言って笑い飛ばす。つきあいが長いから、確信がある。

まあ、いいか別に。


首都ルーベリまで、あと少しだ。

もうここまで来れば、そこでどんな事が起こるのかは特に気にしない。

ネイル・コールデンが、天恵というものをどう捉えているかについては

モリエナからそれなりに聞いてる。何もかも正鵠とは限らないけれど、

俺たちは彼女の考えを信じている。だったら、穏やかでは済まないのは

もう確定事項だ。自ら進んで天恵を得た人々が何をしようと、俺たちも

ローナも意見はしない。そこまで、俺たちはあれこれ望んだりしない。

ただネイルを探すってだけの話だ。


そして。

その時までに、この俺の【魔王】はどこまで真価を露わにするのか。

俺自身にもネミルにもローナにも、確かな事は何も言えない。ならば、

もう開き直って突き詰めるまでだ。きっとそれが必要になるだろうと、

予感めいた確信もずっと抱いてる。


そう。



あと必要なのは、覚悟だけだろう。

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