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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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ゲームみたいな世界で

「うん、これはまあまあ。」


ひとさじのアイスを口に含みつつ、ローナは満足そうにそう言った。

よかったよかった。コーヒーの評価は低かったけど、こっちはOKね。

あたしとしても、ひとつくらい客を満足させるものを出して欲しいし。



グレニカンの夜は更けていく。


================================


「それにしても、電気式冷蔵庫か。アンバランスな技術進歩ねえ。」

「異世界から来てりゃ、確かにそう感じるのも無理ないでしょうね。」


じっくりとアイスを味わうローナの言葉には、実感がこもっていた。


「まあもちろん、この世界に生きる人間だってアンバランスって事実は

きちんと認識してる。だからこそ、異界の知なんて言葉があるんだし。

オーバーテクノロジーの恩恵には、みんな手を合わせてるって事よ。」

「異界の知、ねえ。」


何度聞いても違和感のある概念だ。

オラクレールのシステムキッチンにせよトランの変速式自転車にせよ、

まっとうな技術進歩をガン無視したファクターはゲームじみている。

天恵宣告が廃れている一方、こんなファクターを生み出すための天恵は

重宝されているのが理解できない。どういう理屈で成り立ってんの?


「世界は広いって事よ。」


さっき以上に実感のこもった口調で言い放ち、ローナはニッと笑った。


「確かに天恵宣告は、あたしの昔の言葉のせいで敬遠されてしまった。

ぶっちゃけ、当時の神託師の腐敗はシャレになってなかったからね。」

「そんなに世界を怖がらせたの?」

「いやいや。天恵宣告かくあるべしという、マニュアル説明しただけ。

確かに口調は強かったと思うけど、特定の相手を脅したつもりもない。

虚偽の宣告をするなと言いたかっただけだからさ。」

「なるほどね。」


アイスの残りを口に運び、あたしもちょっとだけ笑った。


お灸をすえたという表現はちょっと違うだろうけど。ローナの言う事が

本当なら、天恵宣告が世界の全域で廃れ切ったわけじゃないんだろう。

やましい事が何もない人たちには、むしろありがたい天啓でしかない。

怖れる事なく天恵宣告は継承され、現在に至るまでに様々な異界の知を

もたらしてきたんだろうね。それもまた、天恵のあるべき姿だろう。

だとすると…


「ロナモロスだのマルコシムだの、そんな諍いも些細な話なのよね。」

「そう、その通り。」


星空を見上げながら、ローナが短くそう答えた。


「何度も言ってるけど、元の状態のあたしは人間個人を感知できない。

あたしにとってそれほどちっぽけな存在だから、何にも感じ取れない。

だからこの姿になったんだけどさ。いざ接してみると、ホント人間って

どうでもいい事で争うんだよね。」

「まあ、確かにそうかもね。」

「誰が正しくて誰が間違ってるか。そんなのは安易に定義したくない。

曲がりなりにも恵神なんだからね。だけど、それじゃこの姿になった

意味が何にもない。ならいっそ…」

「とことん小さな事情に関わろうと思った、って事よね。」

「分かってるねぇ、タカネ先生。」


我が意を得たりと笑うローナのその顔に、不謹慎ながら拓美がダブる。

やっぱり今のあたしは、少なからずローナに面影を見てるんだろうな。

遠い世界に暮らす、拓美の。


しばしの沈黙ののち。


「宗教の諍いなんてどうでもいい。だけど、ポロニヤはほっとけない。

完全なえこひいきだけど、個人なら別にいいだろうと勝手に決めてる。

間の抜けた子ではあるけど、不幸になる姿は見たくないからさ。」

「間の抜けた子と言い切るのね。」

「実際そうでしょ?」

「否定はしない。」


思わず二人で笑ってしまった。


確かに、あれこれ考えの足りてない子だ。トランたちも認めている。

かつての肩書きに相応しい、レアな天恵を得る事になったんだけども。

案の定、考えの足りない使い方した挙句にあんな窮地に陥っている。

ネクロスの二人もアースロも彼女の暴走を止めろよと言いたいけど、

まああんなもんだよね、若さって。


しかし、だからといってポロニヤを完全な庇護下に置くのも何か違う。

トランたちと一緒に行動しろという提案も、輪をかけて何か違ってる。

いくら思い入れがあると言っても、あたしにとっては完全なる他人だ。

ただ単にサポートするというのは、主義に反するんだよね。



だったらもう、開き直りましょう。


================================


「いいよね別に?」

「もちろん。」


ポロニヤたちの宿とこのカフェは、リアルタイム中継で繋がっている。

わざわざここまで来てるんだから、鳥タカネに丸投げってのはどうにも

片手落ちになる。そう思ったから。だからローナも向こうの顛末には、

しっかり耳を傾けている。何なら、ちょっと口出しもしている。

恵神ローナがそんな感じなら、もうあたしも開き直っていいって話だ。

確かにこの世界は、あたしの感覚で見れは何とも歪だ。異界の知により

無駄にゲームっぽい世界観が漂う。ハッキリ言って、不謹慎だけどね。


だからあたしは、あたしなりの感覚で今回の件に落とし前をつける。

鳥タカネが見たこの聖都の在り方に対し、ちょっと介入させてもらう。

恵神の許可も出ましたからね。



ネイルの前に、まずはこっちだ。

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