表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
494/597

イマイチなコーヒー

「苦みが尖ってるなあ。」


そう言って、ローナは赤いカップをそおっとテーブルに戻した。多分、

もう飲む気ないんだろうな。態度と口調で確信できる。明らかに、味に

不満がある感じだった。


まあ確かに。あたしも同感である。

何と言うか、本当に苦い。日本語で書くと苦いってのは苦しみと同じに

なるけれど、変にそんな事実を思い起こさせるような味である。まあ、

今さら日本語でもないけど。


聖都グレニカンの路地に位置する、オシャレなオープンカフェ。



あたしとローナの二人は、この店で一服していた。


================================


もちろん、暇つぶしとかじゃない。第一、もう完全に夜更けである。

わざわざこんな場所でコーヒーなど満喫する趣味はない。って言うか、

明日も仕事なんだからさ。


だけど、今回ばかりは外せない話になっていた。あたしの方じゃなく、

ローナが事の顛末をきっちり現地で聞いておきたいと言ったのだ。

世情にはあまり関心を示さない彼女でも、やっぱり気になる事はある。

いや、どちらかと言うと彼女的には小さな事の方が気になるらしい。

今日に至る付き合いで、その事実はある程度まで確信してる。だから、

宗教がどうのといった話をわざわざ聞きに来たわけじゃない。要するに

教皇女ポロニヤがどうなったのかを知りたかったってだけだ。


モリエナの手首と一緒に、ゲイズが火口の溶岩の中に叩き込まれた日。

一緒に転移したブレスレット形態のタカネは、そのままグレニカンへと

向かった。もちろん人の姿を作れる個体数ではないので、鳥の姿でだ。

それほど重要な事案でもないので、本体のサポートも不要としていた。

しかし、聖都グレニカンは予想以上にロナモロス教に汚染されていた。

武力蹂躙ですら受け入れ難いのに、今度は街ぐるみの天恵宣告推奨だ。

あっという間に、聖都グレニカンのかつての有様は消える事となった。


何と言うか、モヤッとする状況だ。少なくとも、あたしにとっては。

…いや、何でお前がと言われそうな話ではある。そもそも無関係だし!

とは言え、やっぱり気にくわない。このへんの価値基準は本当に拓美。

自分でも驚くほど、あたしは拓美に近い感覚で世の中を見ているなあ。


って、それはいいとして。

さすがにローナは、そういう話には動じない。天恵宣告がどうなろうが

誰が天恵を何に使おうが、基本的にこだわらない。その辺は、以前から

変わっていないしブレがない。もうあたしもトランたちも慣れている。

たとえ理不尽な形でマルコシム聖教が無くなろうと、天恵を得た者の

行いとして割り切っている。正直、昔のあたしに近い割り切り方かも。


そんな中「鳥タカネ」が伝えてきた緊急事態。教皇女とネクロスたちが

自分たちの天恵や体質を利用して、街に集った神託師に喧嘩を売った。

さすがのローナも、何をやってるんだと呆れ顔だった。ポロニヤに対し

割と思い入れがあるだけに、こんな馬鹿げた茶番は許せないんだろう。

その気持ちはあたしもよく分かる。きっと拓美でも怒っただろうから。


「やっぱり行こう。」


切り替えたローナのフットワークは軽い。

どこまでも軽い。


================================


こうして、あたしとローナは聖都に赴いた。こういう時のPC転移は、

かつての置換転移魔法並みに便利。あっという間に到着である。これ、

エイラン・ドールの著作をデータ化したらポーニーも召喚できるように

なるんじゃないだろうか…などと、余計な事を考えてしまった。

…それにしても、聖都の真っ只中に恵神ローナがやって来るというのも

なかなか凄い状況である。もちろん誰も気付かないし、もしも名乗れば

火あぶりに処されかねない。何ともシュールだし、ある意味面白いね。


神託師たちとポロニヤたちの諍いは限りなく小規模で、かつ他愛ない。

思った以上に事態の進展は早かったものの、だから何って感じである。

拉致されたケイナの許には、ローナ自らが赴いた。まあ実際に助けたの

あたしだけれど、それは言うまい。見張りの男も催眠粉末でイチコロ。

実際に衝突が起こりそうだった現場も、同じく催眠粉末で一網打尽だ。

拓美に言わせればヌルゲーである。大事の前の小事って、これの事か。


そんなわけで、全員を拘束した。

もちろんポロニヤたちもまとめて。そこにえこひいきは差し挟まない。

あたしじゃなく、ローナの判断だ。もちろんあたしも同意した。

こんなくだらない事で、どっちかに肩入れするなんて選択は片腹痛い。

ケンカ両成敗じゃないけど、ここはさすがに公平に行くべきだろう。


うん、これでいい。


================================


かくの如き次第で。

後の事は鳥タカネに任せよう、って話でまとまった。ここまで彼女らを

見守ってたのも鳥タカネだし、本来そっちで完結すべき事案だったし。

手助けしたとは言え、あたしたちは蚊帳の外にいるべきだ。やっぱり、

神様とそれに近い存在なんだしね。

彼らが目を覚ます前に場から去り、後の顛末は音声だけで把握する。

それでいいよとローナも言ったし、さっさと落ち着こう。


んで、オープンカフェを見つけた。まあここでいいかと腰を落ち着け、

とりあえずコーヒーを頼んでみた。


うん、苦い。

確かに苦い。



トランのブレンドが恋しいなあ。

うん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ