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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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異分子なればこそ

あたしは、友樹と一緒にこの世界に「訪れた」存在だ。

以前に経験した異世界転移以上に、見知らぬ世界に来たって事になる。

二階堂環のような知人などいない。友樹以外は完全に知らない存在だ。

ある意味、あたしは過去に存在したいかなるタカネよりも孤独だろう。


だけど、悲壮感などは何もない。

かつて糸崎蓮と共に50世紀の地球に放逐されてしまった個体などは、

極限の孤独と絶望を味わっただろうと思う。彼女が独自の存在にまで

進化していったのも、当然の話だ。まさに想像するに余りある。


対してあたしはどうだろうか。

かつての世界から遠く隔たった…という意味ではかなりのものだけど、

さほど深刻に考えてもいない。いやむしろ、普通に適応している気さえ

している。そこそこ拓美化も進んでいるとは思うけど、それも劇的とは

言えない。少なくとも冷静に客観視できている。こんなもんかな、と。

おそらくあたしは、リータのスーツやトライアルθの担当だった個体に

近い存在なんだろう。初めから拓美と隔絶されている前提だったから、

その心づもりが出来ている。だからこの世界にいても情緒面での乱れが

ほとんど生じないんだろう。それがいい事かどうかは定かでないけど、

まあプラスに捉えておく事にする。


「拓美に会いたい」って気持ちは、今もなお持ち続けてるんだけどね。


================================


こんな状態だから、分体の独自行動に関してもあまり懸念がない。

経験や情報を得ても、さほど劇的な変化が生じない。だから別個体へと

進化する心配もない。このあたり、やっぱりあたしは特殊な個体だね。


そんなわけで、ゲイズ・マイヤールを溶岩に叩き込んでから、あたしは

聖都グレニカンに来ていた。むろん個体数が少ないので、小鳥の体しか

形成できなかったけど。以前と比べ「分身」の精度が高くなっている。

それもこの世界においての特徴だ。いずれ本体に合流した後は、大いに

検証してみよう…と考えていた。


そして辿り着いた聖都は、どうにも酷い有様になっていた。もちろん、

酷いというのは一方的な感想でしかない。ここを楽園と思う人間だって

大勢いるだろう。そういう人たちを否定する気もない。人それぞれだ。

だけど少なくとも、あたしや拓美、リータにとって眉をひそめたくなる

状況である。向こうの世界と比べて進んだ時代だという事も鑑みれば、

ますます「それでいいのか本当に」と問いたくなる感じだ。


天恵は、向こうの世界の魔法に近い代物だ。全ての人間に授けられると

知った時にはさすがに驚いたけど、そういうモノと割り切れば面白い。

廃れてしまっているのは惜しい、と本気で思えるくらいにはね。

誰がどんな天恵を得て何をしようと構わない、というローナの考えは、

なかなか極端だ。だけど正直言ってあたし好みだ。授ける者がそういう

考え方なら、どれほどの混沌が世に跋扈しても然るべきなんだろうね。


そういう見方をするのなら、聖都がこういう状態なのも別にあれこれと

悲観する必要はないかも知れない。天恵宣告や神託師が安っぽいのは、

トランたちの苦労を見ているだけに複雑ではあるけど。ローナだって、

別にこの状況を嘆いたりはしない。その姿勢は、今後も変わらない。


だけどさ。



教皇女たちと神託師たちの諍いは、いくら何でも見過ごせないだろう。


================================


ポーニーにとっても、教皇女という存在は特別だ。関わりが深いから、

事あるごとに気にしていた。だけどわざわざ見に行ったりはしない。

そこは彼女の引く一線だった。


思えば、やはり天恵宣告が教皇女の「何か」を大きく変えたんだろう。

性格なのか運命なのか分からない。何しろ、強力無比な天恵を得た結果

彼女は故郷たる聖都でとんでもない事を始めた。同行したネクロスも、

悪ノリに乗っかったと言えるのかも知れない。しかし、やはり彼女らは

浅はかだったとしか言えない。


シャレにならない状況になったのを見届け、あたしはローナにその事を

報告した。ハッキリ言って、これはあたしが気安く判断していいような

話じゃない。聖教の教皇女と神託師なんて、恵神あっての存在だろう。

いくら何でも、外来存在であるこのあたしが判断すべき相手じゃない。

とは言っても、成り行き任せにしていいわけもない。そんな事をしたら

ポーニーが悲しむだけだろう。


そんなあたしからの報告に対して、ローナの答えは単純で明快だった。


「この件に関して最終的な判断は、タカネに任せるよ。」


…それで本当にいいの?


思わず返したその言葉に、ローナは笑って答えた。

むしろそれがいいんだ、と。


「誰の手も届かない世界から来た、あなただからこそ見える事もある。

どのみちまともな解決が見出せない状況なら、あなたに任せる。」

「分かった。」


そこまで信じて一任してくれるって事なら、あたしももう遠慮しない。

どっちかがはっきり行動を起こした時点で、やるべきと思う事をやる。


ああ。

拓美がいたら何て言うだろうなあ。

ねえ。



あたし、神様の代理やってるよ?

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