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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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タカネの嘆きの向こうに

おいおいマジかよ。まさかあなたが来てくれるとは。


ええ、まあ事情を聞きましてね。

天恵を消してしまうだの天恵が無いだの、不穏な話ばかりですから。

もしここで元凶を絶てるなら、俺も協力すべきかなと。


心強い!

【催眠】の天恵持ちが一緒ならば、大抵の相手には後れは取りません。

まあ人数も三~四人みたいですし、だったら一気に制圧しましょう。


了解です。

俺としても、得た天恵を堂々と使う機会があるのは嬉しい限りですよ。

正直言って、あんまり大っぴらには出来ませんから。


まあそうでしょうね。

手間賃は弾みますのでよろしく。


行きましょう!


================================


なるほどね。

あの連中だけで交渉を進めるのかと思ったら、天恵持ちまで来たのか。

確かにその方が確実だろう。けど、そこまで行くとまた一線を越える。

バレなきゃいいと思ってるのなら、もはや完全に無意識の犯罪者だよ。

相手を悪者と思って疑わないから、こんな無茶も出来るって事なのか。

嘆かわしい話だね、まったく。


だけど、ポロニヤたちだって悪い。それもまた確かな話だ。だったら、

安っぽい加勢なんかはしたくない。どっちみち、解決には程遠いから。


そう言えば、拓美が言ってたっけ。

戦いを始める時に一番大切なのは、「どうやって終わらせるか」だと。

落とし処が見えないまま始めると、例外なく泥沼になってしまうと。

何度も何度も戦ったけれど、確かにその点はいつでも考えていたなあ。


ハッキリ言って、今この場で起きた争い事はショボい。そして幼稚だ。

ぶっちゃけ、争いだという自覚さえお互い持っていないかも知れない。

どこまで突き詰めても、戦いなんか縁のない連中のマヌケな衝突だ。

正直に言ってしまえば、果てしなくどうでもいい。


だけどさ。


この馬鹿げた争いが起こったのは、そもそもロナモロス教が原因だ。

教義の内容はともかく、ごく普通の宗教だったマルコシム聖教。それを

天恵と武力で蹂躙し、あっという間に消したのはネイル・コールデン。

それもまた、動かし難い現実だ。


馬鹿げているというより、悲しい。拓美なら、きっとそう言うだろう。

ロナモロス教がこの地でやった事は限りなく刹那的で、かつ無責任だ。

訳も分からず信じていた教義が消滅した人々の困惑は、想像を絶する。

裏切られたと考えても仕方ないし、こんな状況になるのも当然だろう。

残念ながら、人は急激な変化に対しそこまで柔軟に反応できないから。

いくら身分に拘泥しないとはいえ、ポロニヤの無念も十分に分かる。

己を形作っていた聖都という世界が崩れ去った事は、悲劇でしかない。

彼女がこんな形での報復を行ったとしても、責められはしないだろう。


だけどこの状況は何なんだ。

底の浅い欲に駆られた神託師たちが群れ集い、天恵の宣告を乱発する。

はした金でそれを得た人間たちが、衝動のままに乱痴気騒ぎを起こす。

そこにやってきたポロニヤたちが、また底の浅い方法で混乱させる。

挙句の果てに、互いを知りもしない同士がこんな不毛な事態に至る。

事態を招いた元凶のロナモロス教は知らんぷりだ。いや実際、事態を

ほぼ知らないって可能性さえある。だとしたら、何のための争いだ。


どこを見ても馬鹿しかいない。

こんな事をやっていても、何ひとつ実らない。そのくらい想像つくよ。

誰かが傷つき、取り返しのつかない喪失が生まれて誰かが後悔に沈む。

後に残るのは、虚しさだけだろう。そしてネイルたちの腹は痛まない。

本当に何も実らない。不毛、ここに極まれりって感じである。

ローナがまともに相手しないのも、何だかよく分かる。自分の授けた

天恵が元で、こんな馬鹿げた事態が起こってるというならね。


それでも彼女は、自分の思うままに動く。人間の体を得た理由も、今は

理解できる。できるからこそあたしはここにいる。友樹を元の世界へと

戻すのが最優先だけど、それだけで満足するのは主義に反するんだよ。


目的を果たすためだけに生きるのは不毛だと、かつての恩人が言った。

目的も大事だけれど、もうちょっとのんびり楽しくやんな、と。

あたしも拓美も、その言葉を肝銘し実践してきた。その先に今がある。

ミロスがこのあたしに友樹の未来を託したのも、その先にあるんだよ。


ならば、あたしは楽しい方を選ぶ。友樹の事はもちろん忘れないけど、

この世界を単純に「友樹の転移先」としか見ないなんてのは論外だ。

どうせならもっと何かを成そうと、拓美ならやたらに張り切るだろう。

その確信があるなら、あたしだってもうちょっと羽目を外さないとね。


タカネの名が廃るってもんだよ。


よし。


「そっちはどんな感じ?」

『とりあえず、ケイナは無事。』

「分かった。」


ローナが一緒ならまあいいだろう。こっちはこっちで、天恵持ちなどに

主導権を握られてたまるかっての。幼稚な諍いなんてもうここまでだ。

悪いけど、あたしのやり方で行く。文句が言いたいなら、もうちょっと

マシな顛末をあたしに見せてみろ。


聖都に集う教皇女と神託師。見方によっては、面白いファクターだよ。

ヤマン共和国におけるロナモロスの蜂起は、もうすぐらしい。その前に

こっちの決着をつけてやる。


そう。


あたしとローナでね。

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