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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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神の視点で見る者は

何だろうな、この独特の空気感は。

拭い切れない不安を、無理やり心の片隅に押しやって平静を装う感じ。

私には関係ないと、都合の悪い事に耳目を向けようとしない思考。


まあ、人間なら当たり前のものか。

自分の周りの環境がそこそこ安寧であれば、他は別にどうでもいい。

勝手だと糾弾するのは簡単だけど、どこを向いてもお互い様になるのが

社会のスタンダードなんだろうね。よくある話だ。

だけど、この空気感はそう簡単には消えないだろう。元凶となるものを

絶たない限り、混沌も恐慌も拡散と拡大を続ける一方だ。


元凶って何だろうか?

もちろんあたしには分かってる。



【リセット】の天恵だ。


================================


聖都グレニカンの変貌は、さすがに予想をかなり超えていた。まさか、

ここまで積極的に天恵の宣告を街が推奨するとは。ロナモロスとしても

一刻も早くマルコシム聖教の痕跡を消し去りたい…のかも知れないね。

だからと言って、ここまで極振りをしてしまえば歪みも生じるだろう。

いくら自己責任と言っても、天恵の内容によっては理性のタガが外れる

人間なんていくらでもいる。それが狙いだとすれば、実に乱暴だね。


…ある意味、これも恵神ローナへの冒涜と言えなくもない。だからこそ

あたしは見守る。この街の狂騒に、風穴を開けつつある異分子たちを。


それにしても、実に皮肉な話だね。

少し前までこの聖都の象徴的な存在だった少女が、今になって新たなる

混沌を撒き散らしているんだから。もはやそこには教義なんて綺麗事は

微塵も存在していない。更に言えば復讐なんて概念も存在していない。


そう。

ポロニヤはただ、自分の得た天恵を使っているだけだ。皆が口を揃えて

唱える自己責任のもとに。そこには正義も大義もない。ポロニヤたちは

むしろ楽しんでいる。他人の天恵を宣告前の状態にまで戻せる天恵と、

天恵そのものを持たない自分たちの特異性を。


今のこの聖都には、どこから来たと問いたくなるほどの神託師がいる。

底の浅い需要に応えるため。そして大金を手っ取り早く手にするため。

浅ましい…と形容するのは簡単だ。だけど彼らにしたって、別に犯罪を

犯してるわけじゃない。まあ神託師のルールを少し逸脱しているけど、

求める者が多い場所に集うってのは悪い事じゃないだろう。それこそ、

もっと昔はこんな感じだったのかも知れないんだから。


そんな神託師連中を、ポロニヤたちはとことんまでおちょくる気だ。

相場より低い金額で成される天恵の宣告を、片っ端からリセットする。

具体的にリセットという天恵の事を知らないなら、そこに生じるのは

かつてない疑念と恐怖。知らないという事は何よりも恐ろしいからね。

その後で、ネクロスの二人が天恵の宣告をそ知らぬ態で受けに行く。

彼らに天恵はない。しかしネクロスという存在を知らない神託師には、

彼らの存在は理解できないだろう。価値観が崩れても不思議じゃない。


ハッキリ言って、非常にタチの悪いイタズラである。人によっては、

人生が詰んでしまう可能性もある。ホント、とんでもない事をするね。

だけど、止める理由は何にもない。止めようという気さえ起こらない。


何故かって?


これは紛れもなく、ポロニヤが得た彼女自身の天恵だからだ。ネミルが

宣告し、彼女が受け入れた。それはあたしたちの知るありふれた事実。

かつて彼女がマルコシム聖教の象徴たる教皇女だったのも事実だけど、

もはや聖教は存在しない。おそらく何をしようと、復活する事はない。

それもまた厳然たる事実だ。つまり教皇女という存在も消滅している。

今のポロニヤは、ただの一人の少女でしかない。供回りは三人だけ。

かつての自分に戻れない事くらい、誰より本人が理解しているだろう。


そして彼女はもう、戻りたいとすら思っていない。

自棄になったからじゃない。むしろ肩書きに縛られない生き方こそが、

自分の求めるものと悟ったからだ。個人的にも、その方がいいと思う。

どうにも威厳が無いというか、肩の凝る生き方が似合わない子だから。


だとすれば。

過去のしがらみから脱却した彼女が天恵で何をしようと、文句言われる

筋合いなんて何もない。彼女はただ思うままに天恵を使うだけだろう。

ネクロスの二人もまた、自分たちの当たり前をさらけ出しているだけ。

勝手に混乱している神託師たちは、ただ滑稽なだけだ。


もちろん、褒められた事じゃない。度の過ぎたイタズラだとも言える。

人によっては万死に値する罪だとも言えるんだろう。それは確かだ。

あえて否定する気もない。ってか、実にヤンチャな子たちだと思うよ。

だけどこの街では、どこを向いてもお互いさまの連鎖だ。天恵の宣告が

当たり前になっているこの風潮は、ある種の過去懐古である。ならば、

そこに罪なんて存在しない。天恵の宣告が廃れた現代の感覚で考えれば

異常なんだろうけど、客観的に見た場合はそんなでもない。自己責任と

言い張るなら、大いにアリだろう。


結局、極端な事ばかりしてきたからこんな歪んだ状況になってるんだ。

聖都の在り方も天恵を求める人々の狂騒も、そしてポロニヤたちの成す

笑えないイタズラも。そのどれもが天恵の成した事であり、当たり前の

可能性同士がゴチャゴチャ交錯した結果でしかない。正義も大義も何も

そこにはない。単なる混沌だよ。


そう。

あたしは、割とこういうの好きだ。自分でも凄い意外だけどね。…いや、

そうでもないか。

こういう混沌を「好き」と形容する理由なんて、ひとつしかないよ。


あたしは、拓美に近づきつつある。

だからこそ、ポロニヤたちの選択を面白がっているんだ。

ただそれだけ。


ねえ、拓美。

あたしは彼女たちを見守る。だってその方が絶対に面白いからね。



あなたでもそうするでしょ?

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