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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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変わりゆく自分

『捉えた。』

「は?」


かなり唐突なタカネの言葉に、俺は間抜けな声を返してしまった。


「捉えたって、何をだ?」

『見知った人間を、よ。』

「誰?」

『騎士隊のリマスとドラーエ。』

「えっ」


俺の代わりに問うていたネミルが、その名前に大きく目を見開く。隣で

聞いていた俺も、無言のままで同じリアクションをした。


…リマスさんたちだと?


「どこで捉えたんだよ。」

『シルトよ。』

「さっきまでいた場所じゃん!」

「へえぇー。」


後部コンテナの窓から顔を覗かせたローナが、興味深げに口を挟む。


「まあ偶然じゃないでしょうね。」

『見た感じで言えば、こっちの存在に関しては把握してたわね。』

「…………………………」


そんな会話を聞きつつ、俺は黙って考えていた。


どうやって捕捉したかに関しては、もう今さらあれこれ訊きはしない。

って言うか、訊いたところで理解が追いつかないのは分かってるから。

ここで問題なのは、騎士隊の人間が「このタイミングで」シルトの街に

いた事だ。イグリセならともかく、このヤマン共和国でそんな偶然など

起こり得ない。単に、イグリセ人に遭遇するのとは訳が違う。


「それで…」


なおもあれこれ話していたタカネとローナの間に割って入り、俺は別の

質問を投げてみた。


「今はどうしてるんだ?…つまり、捉えた後は。」

『まあせっかくだし、気付かれないように追尾してるよ。』

「そうか。」


タカネなら、そりゃそうするよな。見つけましたハイ終わりってのは、

あまりにも片手落ちが過ぎるから。


「見つかる危険性はないよな?」

『見つかったとしても、追尾してるモノとあたしたちを結び付けるのは

不可能よ。心配しなくていい。』

「分かった。」


名前は忘れたが、タカネはそういう隠密行動に適している形態を色々と

選択できる。確かに、もしそれらを目撃されたとしても、何であるかは

絶対に分からないだろう。その点は心配ない。


「だけど、安心はできないな。」

『でしょうね。』

「え、どうして?」


察してくれるタカネと、怪訝そうなネミル。この辺は経験の差だろう。

安心ってのは、危険が無いからって担保できる代物じゃないからだ。

騎士隊の二人を探ったとして、今後判明する事実が好ましいものだとは

限らない。もしかすると、敵対する要因にさえなりかねない。


嫌だよ今さら、彼らと敵対なんて。

せっかくここまで来たというのに、何でイグリセと事を構えるんだよ。

そんなのカケラも望んでないぞ。


「まあ、あんまり深刻に考えないでおきましょうよ。」


そう言ったのはローナだった。


「意図が何であろうと、あたしたちにちょっかい出す気ならそれなりの

理由があるんだろうしね。直接声をかけてこないあたり、もしかすると

経緯を見守ってるのかも知れない。状況が状況だからさ。」

「それは…そうだろうけど…」

『ま、本当にちょっかい出す気ならあたしが迎え撃つから。』

「…………………………」


そう言われるともう黙るしかない。あまりにも説得力があり過ぎる。

経緯を見守る、か。確かにそういう可能性も無くはないだろう。だが、

じゃあ何の経緯を見守ってるんだ。そこ次第で大きく話は変わるぞ。

俺たちがヤマン共和国にいる事か、それとも俺の天恵で…

…………………………


「…まあいいか、細かい事は。」

「そうだよ、考えるだけ損。」

「だな。」


ネミルの言葉が、不思議なくらいにストンと腑に落ちた。


俺たちが何をしているか、騎士隊が探ってるのなら好きにすればいい。

少なくとも、法を破ったりといった行為には及んでいない。もちろん、

相応に天恵を使ってはいるけれど。


何度も言う通り、俺たちは戦争だの騒乱だの起こしたいわけじゃない。

単に、副教主ネイル・コールデンに会って頼み事をしたいだけである。

これまでに何だかんだ騒ぎは起きているけど、俺たちが原因じゃない。

少なくとも、これで拘束されるとかいった話にはならないはずだ。


じゃあ、もはや気にするだけ損だ。まさにネミルの言う通りである。

向こうが接触してこない気ならば、こっちもそんな感じでいればいい。

だったら…


「タカネ。」

『うん?』

「もういいよ、追尾は。」

『え?』

「ほっときゃいいって事だ。別に、気にするほどの事もないだろ。」

「いいの?コソコソこっちを…」

「好きにさせときゃいいだろ。」


ローナの言葉を遮り、俺はちょっとアクセルを吹かした。


「何で俺たちが気を遣うんだ?」

「…まあ、確かにね。」


キョトンとしていたローナもやがて笑い出す。ネミルも同じだった。

体があったら、タカネも笑ってたに違いなかった。もちろん、俺も。


何をオドオドする必要がある。

ここまで自分たちの意志で来たんだから、これからも自分たちの意志で

進んで行くだけだ。騎士隊の面々が何を思おうと、今さら知った事か。

わざわざヤマンまでご苦労さまと、労うだけの話だよ。


『じゃあもう戻すね。』

「ああ。ありがとな。」

『いいって事よ。』


ひょっとすると、この先のどこかで出くわす事になるのかも知れない。

向こうは向こうで、何かしら意図を持ってヤマンに来たのだろうから。

探り合いをしたって、無駄に疲れるだけだ。少なくとも俺はそんなのは

望まない。目の前の商売と目的だけこなせればいい。それだけで…


…………………………


なんか俺、変わってきたなぁ。

ちょっと前まで、あれやこれや常に迷ったりためらったりしてたのに。

ここでタカネの行動を覆すなんて、我ながらちょっと信じられない。


図太くなったと言うべきなのか。

大人になったと言うべきなのか。

それとも…


魔王に近づいた、と言うべきか。



まあ、いいや何でも。

先を急ごうか。

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