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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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リマスの思いと決意と

時は、少し遡る。


「本当にいいんでしょうか先輩。」

「さあな。」


いや「さあな」って。正直言って、ちょっと予想の斜め下の答えだ。

ドラーエ先輩って、こんな無責任な人だったっけ?

返すあたしの声は、自然と尖った。


「そんな感じのままで放置ですか?それじゃあまりにも…」

「放置するとは言ってないだろ。」


あたしが語気を荒げるのは、かなり予想通りだったのかも知れない。

ドラーエ先輩は落ち着いていた。


「少なくともあの時の場において、ラグジさんにモリエナを任せたのは

間違いじゃないと思ってる。むろん今も、それは揺るがない。それは、

君だって同じだろ?」

「それは…そうですけど。」

「しかし、俺たち二人の判断だけで完結させていい話じゃない。それも

また間違いない事実だ。だったら、俺たちの判断も含めて報告する。」

「なるほど、そういう事ですか。」

「そのくらい悟れよ。」

「すみません!」


恐れ入りました。

確かにあたしの方が浅慮だったね。ちょっと考えれば分かる話なのに。


シャドルチェとケールソンの身柄を引き渡された際、あたしたち二人は

それなりに考えた末にラグジさんの提示した条件を呑んだ。その判断が

間違っていたとは思わない。たとえ他の判断が存在するとしても、だ。

だからこそ、それを騎士隊の仲間や陛下に報告して判断を仰ぐべきだ。

おそらく頭ごなしに否定される事はないだろうし、あたしたちとしても

そこまで否定するなら代案を求めていいはずだ。最終的な意識統一さえ

果たせれば、それで問題はない。


少なくともモリエナ・パルミーゼという人物には、危険性などはない。

自分たちがそう信じたなら、きっと陛下たちも分かってくれるはずだ。



確信をもって臨もう。


================================


「…なるほど、そういう顛末か。」


あたしたちからの報告を聞き終えたゲルノヤ隊長の口調は、いつも通り

淡々としていた。…読めないなあ、感情が。あんまり不安はないけど。


「ゲイズ・マイヤールが死んだっていう話は、信じていいんだな?」

「正直、確信を得られる物証などはありません。しかし…」

「しかし?」

「彼女なら、その程度の事は成して当然と思われます。」

「どんな怪物なんだよ…」


そこまで聞いた隊長の声に、初めて呆れのような響きが少し混じった。

確かにそんな感じになるだろうね。先輩ともあろう人が、真面目な顔で

こんな事を言い切ってるんだから。だけど、事実なんだから仕方ない。


そもそも、最初にシュリオの故郷でゲイズを殺したのも彼女ならば。

今回の話だって、納得できない点はほとんど無いのである。その上で、

自分がオラクレールやモリエナとも関係がある事をあっさりと認めた。

そこまで堂々としているあの人が、ゲイズの事ごときでつまらない嘘を

口にするとは思えない。どうにも、キャラに合っていないと言うか…


「まあ、それは信じましょう。」


そう言ったのはマルニフィート陛下だった。それを受けて隊長も黙る。

もちろん気圧されてじゃない。多分隊長としても、その点について特に

疑ってるわけじゃないからだろう。あたしだってそのくらいは判るよ。


それに、もしゲイズの事が嘘だったとしても、さほど大ごとじゃない。

そもそもあの女一人を捜し出す事はほぼ不可能だし、少なくとも現在、

国内での活動の痕跡はない。なら、このまま事の成り行きを見守るしか

ないのである。こちらを直接狙ってこない限り、脅威度は高くない。

それこそ【共転移】でもない限り。


…結局のところ、モリエナの境遇と重ねれば納得できる話ってワケだ。

やっぱり考えてるなあ、あの人も。そして本当に関わりが深いのなら、

オラクレールはますます侮れない。



何とも複雑な気分である。


================================


「とりあえず、モリエナの事などは神託カフェに任せていいでしょう。

少なくとも彼らには、我々を陥れるような意思はないでしょうから。」

「そうですね。」


即答したのはシュリオ。やっぱり、彼としてもそう信じたいんだろう。

正直、あたしもそうだから判るよ。何だかんだと世話になってるから。

だけど、そうなると気になってくる話がある。



オラクレールの、現在の動向だ。


================================


「移動店舗でヤマンを目指しているというのはもう、確定ですよね。」

「ええ。」


これまでに何度か情報交換の機会があり、それを踏まえ調査も続けた。

接触の機会が不自然な事もあった。しかしモリエナが関与していたなら

納得できなくもない。彼らは現在、ロナモロス教団の後を追っている。

あちこちで起きた騒動は、恐らくはその道中での事だったのだろう。

ならば…


「彼らには、それほど大きな目的があるようには思えません。」


あたしは、誰にともなく言った。


「もちろん何もないわけじゃない。少なくとも用があるから動いてる。

だけど我々としましては、あんまり大きな事と仮定する必要はないと

思うんですが。」

「ずいぶんとハッキリ言うんだな。根拠はあるのか?」

「少なくともあたしとシュリオは、彼らと共闘した事もありますから。

人となりは知ってるつもりです。」

「なるほど。」


それまで黙っていたナガト先輩が、ゆっくりとそう言った。


「その感覚は、ある程度までは信用していいだろう。だがな。」

「だが、何でしょう?」

「ある程度までしか歩み寄らない。向こうがそういう立ち位置なのも、

また事実だ。お前たちの事も含めてその距離感を維持するというなら、

こちらとしても考え方をある程度は決めなければならない。」

「…………………………」


何と言えばいいか、ちょっと迷う。

ナガト先輩は思慮深い。それだけに言葉にはそこそこ重みがある。

もちろんトランさんたちとの接点は無いけど、だからこそ見える事も

あるんだろうからね。


しばしの沈黙ののち。


「シュリオ、それにリマス。」

「「はい。」」

「人となりについてはもう、細かく訊かない。その代わり。」

「何でしょうか。」


「君たちが知る範囲で、そのトランなる人物の【天恵】を詳しく話せ。

ある程度まで聞いてるが、お前たちだからこそ話せる事もあるだろ?」

「えっ」

「それは…」


あたしたちの迷いは、しかし一瞬で消えた。


今さらな話だ。

モリエナの事も含めて「ある程度」まで歩み寄ると決まったんだから、

今ここで出し惜しみして何になる。情報はちゃんと共有しないと。

陛下も隊長たちも、今ここに至ってオラクレールを敵視する気はない。

だったら、まずあたしたちが両方を信じるべきだろう。


よし。

あらためて、腹を括ろう。

騎士隊の一員として。


そして



トランさんたちの友人として。

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