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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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恵神ローナの切望

天恵宣告。

何と言うか、実に心惹かれる設定…いや設定と形容するのは失礼か。

曲がりなりにも、あたしの知らない世界の摂理なんだし。


それにしても、15歳になれば皆が等しく異能を得るのか。凄いねえ。

この世界における魔力の覚醒の確率を考えれば、まさに「隔世の感」が

ありますよ。まあ、ちょっと意味が違うけど。



世界って、本当に多様だね。


================================


言うまでもなく、あたしたち三人は究極のヒマ人である。だからこそ、

こんな突飛な訪問者に対して割ける時間が有り余っている。言ってて、

若干情けなくもなりますが。


そんなわけで、ローナの自分語りにそれなりに聞き入った。もちろん、

何もかも話していいというわけじゃないらしいけどね。それを踏まえて

大いに異世界事情を拝聴しました。いやはや、貴重な見聞ですね本当。


何だか感覚が若干麻痺してるけど、実際のローナはここには来てない。

本物の神託カフェの同じ席に座り、ずっとノートパソコンで今の会話を

カチャカチャと入力してるらしい。何だろう、それはそれで凄いよね。

かつての地球のカフェにも、そんな存在がいたのかも知れない…って、

そりゃいくら何でも考え過ぎか。


ともあれ、そんな話の中で転生した友樹くん、そして彼について行った

タカネの事もかなり詳細に聞いた。今この瞬間までに、どういった事が

起こっていたかについて。ローナとしても、あたしたちみたいな相手に

ちょっと話したかったという思いがあったらしい。…お察しします。

神様と言えど、何かしら愚痴りたい時もあるだろうからね。


それにしても、天恵の存在する世界でもタカネはやっぱりチートだ。

ローナのPCが規格外スペックだという事実も相まって、今の時点でも

フルスペックが出せているらしい。フルスペックのタカネなんて存在、

そうそう攻略できないよねホント。まさに、恐るべき異分子である。


「かなり頼っちゃってるんだよね。まあ、それだけ状況が厳しい方向に

進んでるからなんだけど。」


そう語るローナの口調は、さすがにちょっと不本意そうだった。うん、

またもお察ししますよ。


恵神と呼ばれる存在ではあっても、ローナはいわゆる全能には程遠い。

聞いた限りで例えるなら、多能系の魔術師くらいの存在ってとこかな。

さすがに神様を相手に失礼な見立てかも知れないけど、他ならぬ本人が

「うんうん、そんな感じ」と認めてしまっている。明け透けだなあ。

いわく、そういう全能存在には最初からなりたくなかったらしい。

何だか共感できます。あたしたちも実際、他の誰かにそう見られるのは

けっこう嫌だったし。


ともあれ、異世界のタカネが重要な戦力になってるのは間違いない。

ハングトン時空で何年も暮らしてた個体がそのままプログラム化したと

言うなら、その時点でのスペックも相当なもんだろう。さすがにここの

タカネほどじゃないんだろうけど、それはもはや誤差の範囲内だし。

ローナの世界では、天恵宣告自体がかなり廃れているらしい。社会的な

風潮ですと言えばそれまでだけど、何だか実にもったいない話ですね。

あたしだったら絶対宣告受けるよ。当然の権利なんだからさ。…まあ、

それはどうでもいいとして。


「もしここまで天恵が廃れた世界になっていなければ、トモキの運命も

色々と違ってたでしょうけどね。」


バーチャルなコーヒーを飲みつつ、ローナがしみじみそんな事を言う。

天恵を授けている本人と考えれば、何とも重みのある言葉ですよね。

嘆いてる風じゃないからいいけど。


「ともかく、あたしたちはネイルを探し出す。何としても彼女の天恵で

トモキを元の世界に戻す。それが、現時点での悲願なのよ。」

「なるほど…」


何だか、深く共感してしまった。

客観的に考えれば、神様らしからぬミニマムな悲願と思えなくもない。

ある意味、かなりのえこひいきだ。いいのかと思う部分も無くはない。

だけど、そもそも神様の考えなんてのは、常人に計り知れないはずだ。

少なくともあたしの考える神様は、指先ひとつで世界を動かせるような

超越した存在だったから。


目の前に座るローナという存在は、そんな超越イメージからは程遠い。

言う事も考え方も実に人間臭いし、立てる目標も至って人間サイズだ。

世界を変えたいとか、そんな考えは露ほども感じられない。だからこそ

何とも言えない共感が湧くんだよ。

あたしとタカネも、長い長い放浪の果てに辿り着いた世界を変革した。

だけどもちろん、最初からそういう大それた事を考えてた訳じゃない。

単なる家出だったんだから、着いた先で普通に暮らせればいい…としか

考えていなかった。


世界を動かした最初のきっかけは、メルニィ・リア―ロウだ。

彼女が死んだきっかけを追い求めて旅をした結果、そうなっていった。

行動を起こすための最初の一歩は、案外そんなものだったりするんだ。


そんなあたしたちだからこそ。

異世界の迷子になった少年のために骨を折ろうとしている神様の姿に、

色んな意味で共感や親近感が湧く。手伝えるなら手伝いたいとも思う。


「…それであなたは、あたしたちに何を望むの?」


そう問うたのはタカネだった。

あたしもリータも、黙ってその問いに対する答えを待つ。


もちろん、あたしたちに出来る事は極めて少ないだろう。何と言っても

ここは遠い異世界だ。今となってはハングトン時空にさえ届かないのに

ローナ時空に干渉など絶対無理だ。それはローナも分かってるだろう。

その上で、彼女はこちらのタカネにメールを送ってきたのである。

自分の世界にちゃんと別のタカネが存在しているにもかかわらず、だ。

聞いた限り、今回のこの連絡はそのタカネには内緒っぽい感じだし。


「…まあ、あたしにも人並みに思うところがあってさ。」

「人並み?」


あなた神様ではというツッコミは、多分やめとくべきなんだろうな。


「本人の意志とは言っても、ずっとタカネにおんぶにだっこ状態なのは

忸怩たるものがあるわけよ。だからせめて、やれる事はやりたい。」

「つまり?」

「そこで相談です。」


おお、口調があらたまった。よし、今まで以上にちゃんと聞こう。

何と言っても、神様の相談に乗るという機会は最初で最後だろうから。

…………………………

その前に、何か食べます?



バーチャルだけど。

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