表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
460/597

文字タカネという存在

「あたしの世界に関しては、本当に何にも知らないんだよね。」


ローナの問いに、あたしたち三人は揃って頷く。そりゃそうでしょう。

異世界がたくさんあるという現実は割とすんなり受け入れられるけど、

あたしたちが具体的に知ってるのはハングトン時空だけだ。あそこは、

元の世界とは鏡映しみたいな関係になってる世界だったから…


「どうしてそんな遠い世界に、このあたしの分体がいるんですか?」


タカネが粛々と問う。…いや今まで300時間もメールで会話してて、

その事すら訊いてなかったんかい。どうやって会話してたんだか。

神様もタカネさまも理解し難いよ。まあ、それは今はどうでもいい。

って言うか、あたしとリータもぜひそこは聞かせて欲しいところだ。


ちなみに、今目の前にいる「この」ローナは、実体じゃない。

そもそもVR空間なんだから実体もへったくれも無いけど、ここで言う

「実体」は存在という意味である。体のあるなしではなく、この次元に

いるかいないかを判断基準にする。つまり異世界転移してないって事。


じゃあ、どうやって姿形を維持しているのかって?

もちろん、タカネの職人技である。いや、それ以外に無いでしょうが。


つまりこの店内と同じく、本人から得た情報を元にイメージとして体を

組み上げた。要するにアバターだ。もちろん声も合成した音声である。

本人がこっちの世界まで送ってきているのはメールだけ。その文面を、

音声変換して喋っているだけという仕様なのである。…パッと見は実に

リアルなんだけど、設定だけ聞けばVチューバ―そのものですねコレ。

いや本人が喋ってるわけじゃないと考えると、むしろゆっくり解説か。



異世界の神様って、不思議だね。


================================


「まあ、あなたがこっちの世界まで来た方法を知った時には、さすがに

ぶったまげたけどね。」

「え、そんなに?」


素でちょっと引いてしまった。

あたしもこれまで大概に無茶やって来た自覚あるけど、さすがに本物の

「神様」に出会ったのは初めてだ。彼女いわく、「神様」と形容される

高次存在がいる世界といない世界があり、少なくともあたしたちのいる

この世界とハングトン時空はそれがいない世界なんだそうな。…うん、

よかったホッとした。個人的には、その方がいいと本気で思ってます。

神様そのものを否定する気はない。だけど、やっぱり自分の生きてきた

世界には似合わないと思うからね。


それはともかく、だ。


今も昔も、あたしにとって「神様」という言葉には絶対の意味がある。

万能であり全能。偏見と言われりゃそれまでだけど、そんなイメージ。

あたしたちも大概にそういう領域に片足を突っ込みつつあるんだけど、

それでも本物は違うよねって感じ。


そんな神様でさえ「ぶったまげる」異世界転生の方法って、何なのよ?



拓美ちゃん、怖いけど興味津々よ。


================================


「それで、具体的にどんな…」

「基本的に、今のあたしとほとんど同じと言っていいかな。」

「へ?」


返答が思ったよりあっさりしてた。何と言うか、かなりの肩透かしだ。

今の彼女とほとんど同じって何だ?Vチューバ―かゆっくりか?


「どういう意味?」

「つまり、文字だけって事。」

「文字だけ…?」


さすがのタカネも、その言葉に困惑の表情を隠せないでいた。もちろん

あたしもリータも同じだ。さっぱり意味が掴めない。

今ここであたしたちと会話しているローナは、確かに「文字だけ」だ。

要するに、異世界からテキスト入力だけをしているという状況である。

会話スピードからすると、さぞかしキーボード入力が速いんだろうな。

って、それはどうでもいいとして。


タカネが彼女の世界に存在しているとすれば、こんな形じゃ無理だ。

多少の会話の履歴なんて、「個人」を形成する要素としては何もかも

足りていない。AIにすら劣るよ。今のタカネはもっと複雑な存在で…

…………………………


あれ。

ちょっと待って。

AI?

そう言えばタカネって、もともとは人工知能搭載のナノマシンだった。

2863年の自己進化の末に人間と同じ情緒を持つ存在になったけど、

存在の基幹そのものは変わらない。生きた「体」を形成したとしても、

彼女という存在の定義はあくまでもナノマシン集合体だったはずだ。


という事は、つまり…


「…もしかして、タカネが自分自身をプログラムに変換して送った?」

「ほぼ正解!!」

「えっ!?」


まさかの当たりだった。ここに来てあたしが正解に到達するとは…!!

いやまて。「ほぼ」って何?

ここまで来ると気になるなぁ。


「じゃあ、どの辺が違うの?」


興味深げに問うのはリータだった。そう、あたしもそこ訊きたいんだ。


「送ったって言うと受信機能のある機械が存在しているみたいだけど、

こっちの世界はまだそこまで発展はしていない。データだけ送っても、

未着になって終わるだけの話よ。」

「ああ、なるほど…」


原始時代ではラジオが聴けないのと似たような話か。確かに分かる。

だけど、じゃあどうやって…?

タカネもリータも興味津々だ。多分あたしはもっと露骨なんだろうな。


神様なんて、万能で全能な存在だと思い込んでいたけど。

目の前で語るローナには、そういう荘厳さなんてほとんど感じない。

むしろ、考え方は一人の人間として大いに共感できるものがある。

だからこそ、滔々と語るあれこれがどこまでも興味深いんだろうな。

理解の手が届く不条理というのは、あたしたちの得意分野なんだから。


よーし。



んじゃ、覚悟を決めて聞こうぜ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ