表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
46/597

俺たちにできることを

分かった事も分からない事もある。俺たち三人には、限界がある。

それでも俺たちは、やれるべき事をとことんまで模索する。

【死に戻り】という恐怖の天恵は、指輪の力でネミルに宿っている。

その事は現在、本人がはっきり自覚している。かなり訓練したからな。


これが命綱だ。

俺たちの…というより、みんなの。


どうやら姉貴は助からないらしい。母親はまだ諦めてないけど、父親と

兄貴はもう、現実を受け入れようとしている。それが正しいかどうか、

今の俺に論じる資格はない。

ネミルの事は、誰にも言ってない。言えば必ず余計な雑音が入る。

変な期待をさせてしまう。



だからこそ、万全を期す。


================================


ポーニーが言うには、あの男が死を選ぶまでは三週間ある。はっきりと

日付を憶えているし、何なら時刻もかなり正確に思い出せるらしい。


「でも今のあたしには、その天恵がどんな基準で戻るものなのかまでは

分かりません。常に同じ時間に戻るのか、長さが決まっているのか。」

「だよな。」


おそらくはその二択だ。とは言え、実際に試すのはリスクが高過ぎる。

だとすればもう、可能な限り最初の死に戻りに「合わせる」しかない。

もちろん、もっと早い時間に戻れたとすれば、対策の選択肢は増える。

しかしその場合、「あの男の天恵を見る」という行為自体が揺らぐかも

知れない。この状況が天恵宣告から発生した以上、その前提が崩れると

取り返しのつかないパラドックスが生まれてしまうかも知れない。


やり直しは利かない。そんな覚悟で臨む必要があった。


================================


あの男が最初の人生を終えるまでにやった事は、丸ごと消え去った。

もはや、その日々を知る術はない。なかった事はもう知りようがない。

しかし「何をしようとしていたか」くらいは、ある程度調べられる。

俺たちは翌日から店を閉め、あの男について調べる事にした。


名前はエゼル・プルデス。コロノの街で雑貨屋を営んでいる独身男。

店に来た時の名前は本名だったし、年齢詐称もなかった。職業などは、

警察に出向いて調べた。もちろん、死んだ容疑者の詳しい情報なんかを

気安く教えてくれはしない。だけどイザ警部は、黙って見せてくれた。


「まあ、もう死んでる奴だからな。だけど変な気は起こすなよ。」

「はい。…どうもありがとう。」


俺もネミルも、深々と頭を下げた。イザ警部はそれ以上何も言わずに、

早く帰れと手で命じるだけだった。


昨日の夜遅くに、俺の姉貴は意識が戻らないまま死んだ。

それを警部も知ってたんだろう。



俺たちはもう、後には退けない。


================================

================================


「いよいよ明日ですね。」


その日の夕方。

後片付けの手を止めて、ポーニーがカレンダーを見ながらそう言った。


さすがにもう、店は開けている。

姉貴と婚約者の葬儀も済んでいる。…つくづく喪服を着る機会が多い。

惨劇に揺れた街は、それでも平穏を少しずつ取り戻していた。

俺たち三人以外は。


出来る事はやった。

知るべき事も知った。

後は越えられない壁を、どうやってすり抜けるかだ。


そう。

ポーニーは記憶を全て持ち越せる。

ネミルも、今回はここまでの記憶を持ったまま「戻る」事が出来る。


だけど、俺は無理だ。

【死に戻り】が発動すると同時に、俺はこの三週間を忘れてしまう。

エゼル・プルデスが何者なのかを、全く知らない状態に戻ってしまう。

こればかりはどうにもならない。


それでも、二人に任せるというわけにはいかない。それは許されない。

だからこそ考えた。

三人で、それこそ考えに考えた。


そして俺たちは、時に抗う。

明日

俺の手で、ネミルを殺して。



楽じゃないな。

神託師と一緒に生きるってのは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ