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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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騎士隊との取引

「母の事は承知しました。」


そう言って、あたしは騎士隊の二人の顔をきっかりと見据える。

この人たちは敵じゃない。まして、お母さんを害する存在でもない。

むしろ、ロナモロスの人間たちより普通に扱ってくれているだろう。

少なくとも、そう信じている。


けど、だからと言って今のあたしが母の何かを背負うのは少し違う。

同様に、かつて教団で命令を受けていた事に関しても言い訳はしない。



自分の言い分を述べるだけである。


================================


「あたしの天恵については、今さら説明するまでもありませんよね?」

「ああ。」

「【共転移】でしょ?」 

「そうです。」


騎士隊とトランさんたちの間では、幾度かの情報交換が成されている。

トランさんたちの事情はあたし含め何度も激変しているけれど、それは

完全にこっちの話だ。騎士隊では、その情報を含めてロナモロス教団の

詳細を徹底的に調べているだろう。もちろん、あたしの事も。

お母さんが話したのでないならば、きっと【犬の鼻】による調査だ。

あたしの私物なり何なりから、天恵の内容を知られていたとしても別に

不思議じゃない。機会なんて色々とあっただろうし。


もう今さら、露見しているって事に驚いたりはしません。

知られていればこそ、ここで言っておきたい事もあるから。


「もうお察しと思いますが、かつてあたしはこの天恵でロナモロス教の

人間を各所に運びました。もちろん制限はそこそこありましたが、別の

天恵と組み合わせ補完しました。」

「やっぱりそうなのか…」


ドラーエさんの声は重かった。

おそらく当たりはつけてただろうと思うけど、本人がここまで認めると

想定してなかったんだろう。何だかちょっとだけ申し訳なくなった。


「…なら、やっぱりマルコシム聖教の教皇女のニセモノが殺された時」

「ミズレリです。」

「えっ?」


リマスさんはキョトンとしたけど、あたしはそこで語気を強めた。


「ミズレリ・テート。あの時教皇女に化けていた女性の名前です。」

「…知ってたんですね。」

「ええ。」


今さらあたしがどう思われようと、これだけは言っておきたかった。



彼女にも、名前があったんだと。


================================


騎士隊に本当に伝えたかった事は、ミズレリの名前だけだったらしい。

自分でも不思議なくらい、気負いが無くなったのをはっきりと感じた。


…いや、そりゃそうか。

あたしが離反するきっかけの一人であり、報われない死を迎えた子だ。

ランドレたちとは別の意味で、心にずっと残っていた存在なんだから。

ただの自己満足だと言われようと、あの子の名前だけは伝えたかった。

それを果たした今、ある意味もはや怖いものなんてないって感じだ。


問われるまま、これまでの事などを話した。

率先して事例を挙げたりはしない。だけど先方が調べた事例については

正直に関与も認めた。補足説明も、出来る限り詳細に述べた。見た感じ

二人とも、いささかあたしの説明に振り回され気味だった。おそらく、

あまりにも明け透けに話してるからだろう。何だか申し訳ない。けど、

今さら言い淀む事も無いから。


「…ご協力ありがとう…と言うべきかどうか分かりませんが。」


ちょっと疲れた様子で、リマスさんがそう言った。ドラーエさんも、

同じように少しやつれてる。まあ、こんな想定してなかったというのは

想像に難くない。タカネさんの連絡では、シャドルチェたちを引き渡す

話しかなかったからね。大手柄…というのは語弊が過ぎるだろうか。


「それで、あなたの事ですが。」

「はい。」


やっぱりドラーエさんの方が状況をきっちり把握している。あたしは、

彼の目を見返して答える。


「本来ならば、同行を求めるところです。しかし…」


そう言った彼の視線が、傍らに座るタカネさんをチラッと一瞥した。


「そうも行かないのでしょうね。」

「まあね。」


当然のようにタカネさんが答える。


「こう見えて彼女、今ではお店にも欠かせないスタッフの一人だし。」

「……………そうですか。」


そう言ってもらえる己に、恐縮ではなく誇らしさを感じるのが嬉しい。

過去は過去として、現在のあたしはオラクレールのスタッフなんだと。


「聞いた通り、彼女はロナモロスで多くの役割を担っていた。だけど、

大半はただの命令。それも、天恵を使うだけのね。今さら罪だ何だと

問うべきじゃないとあたしは思う。どうかな?」

「…個人的には、同感です。」

「あたしも。」

「なら、もういいでしょう?」


そこでタカネさんはニッと笑った。

「ラグジさん」だという今の姿だと目つきが怖いけれど、笑うと途端に

幼い感じになるなあ。


「もうこれ以上、彼女がロナモロスのために天恵を使う機会は来ない。

二度とあたしたちが来させない。」

「…………………………」

「今回得た情報も、あたしからだと言えば通らなくはないでしょ?」

「…まあ、そうですね。」

「確かに。この二人もいますし。」


「だったら、マルニフィート陛下に上手く伝えておいて下さい。それが

こちらの取引条件です。」


================================


沈黙は、それほど長くはなかった。


「承知しました。」


そう言ったドラーエさんが、スッと立ち上がる。リマスさんも倣った。


「特例も特例の事ではありますが、得難い協力を頂いたのも確かです。

ここで我々が了承する判断に対し、陛下もご理解を示されるでしょう。

モリエナ・パルミーゼに関しては、オラクレールに一任致します。」

「ありがとう。」


あたしたちも立ち上がり、きっちりお礼を述べた。

やがて、どちらからともなくニッと笑い合う。


こんな結末でいいんだと、場の皆が無言の中で確かめ合った感じだ。

それを確信できるあたしも、大概に図太くなったなと我ながら呆れる。

だけど、それも今さらな話だ。


シャドルチェたちは引き渡した。

ゲイズは今度こそ死んだ。

トランさんたちは、ヤマン共和国でネイルたちを追う。

そしてあたしは、オラクレールでのお仕事に邁進する。


決着は遠くない。



そんな気がしていた。

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