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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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ラグジの譲歩

首都ロンデルンを流れるイムズ川。その畔でふと思う。

異世界というのは、文字通り「似て異なる」世界なのだなぁと。

ロンドンがロンデルン。テムズ川がイムズ川か。分かりやすくていい。

確かに、拓美と一緒に見たロンドンの光景にそこそこ似てる気がする。

今は独りだけどね。


川風になびく髪の色が、柄にもない郷愁を誘った。

…ああ、彼女元気にしてるかなあ。

級友の中で最もバイタリティ溢れ、そして傷付いてもすぐに立ち上がる

強い子だった。あたしや拓美にも、大いに影響を残した人物だ。

まさか遠いこの異世界で、己の姿が無断で使われているとは思うまい。

知ったらどんな顔するだろうなぁ。まあ、意外と面白がるだけかも…


そんな事を考えていた矢先。

川沿い道に一台の黒い車が停まり、あたふたと人が二人下りてくるのが 

遠目に見えた。うん、見覚えのある人たちだ。まあ、そう慌てないで。


「ラグジさーん!」


あら大声。迂闊ですよリマスさん。まあいいけどね。

あらまドラーエさんに怒られてる。いいなあ、ああいう関係って。



ともあれ、お久し振りです。


================================


「すみませんね突然呼び出して。」

「い、いえ…」


よっぽど慌てて来たのだろう。二人とも若干息が荒い。悪い事したな。


「色々迷ったんですけど、やっぱりあなた方に引き渡すのがいいかなと

思いましたんで。」

「助かります。」


そう言ったのはドラーエさん。彼は意外と話が分かる人物だ。見た目は

取っつきにくそうなのにね…って、誰目線なんだ一体。


「それで、ご連絡頂いた人物は…」

「ここです。」


リマスさんの問いに即答し、あたしは傍らの長椅子に視線を向けた。

ちなみに今いるこの東屋は、椅子もテーブルもついさっき組み上げた。

今この時だけのための仮設である。

覗き込む二人の目が、揃って大きく見開かれる。そりゃ驚くだろうね。

片方はともかく、一人は間違いなく最重要レベルのお尋ね者だから。


「シャドルチェ・ロク・バスロに、間違いありませんよね?」

「はい。」

「で、こっちが…」

「ケールソン・ダルタ。ロナモロス教の構成員の一人です。」


そう。

話し合いの末、あたしたちは彼らを騎士隊に、直接引き渡す事にした。



それが一番だろうと。


================================


「今は眠らせています。」

「そうですか…しかしどうして?」

「どういった意味での「どうして」でしょうか?」

「あ、いやその…」


言葉足らずに気付いたか、ドラーエさんはちょっと額を搔いた。


「こっちの構成員の男はともかく、シャドルチェを捕らえるというのは

かなり難しかったのではと。」

「まあ、普通に考えれば確かに。」


【洗脳】の天恵とやらが聞いた通りの威力ならば、確かに大変だろう。

しかしランドレとペイズドさんは、もはやシャドルチェの天敵である。

難しい事でも何でもなかった。


「相手を知っていればこそですよ。まあ、そこはご理解下さい。」

「え、ええ。」

「それは…まあ。」


二人とも、それ以上突っ込んだ質問はしてこなかった。もちろん色々と

問いたい事はあるだろう。しかし、「あたしという存在」を知るが故に

それ以上問うべきでないと考えても不思議じゃない。ここでもやはり、

あたしはそこそこチートだからね。


「もうそこは深く訊きません。が、ゲイズ・マイヤールも仕留めたと

いうのは本当なんですか?」

「ええ。」

「物証などは…」

「すみません。何もかも跡形もなく溶けてしまったもんで。」

「と、溶けたって…どうやって?」

「エルヴォロノ火山の噴火口に叩き落したんです。さしもの【氷の爪】

も、溶岩相手じゃまともに太刀打ちできませんでした。」

「…………………………」


二人揃っての絶句。無理もないか。だけど事実だからしょうがない。

無駄な嘘はつかないのが、かつての拓美の流儀だったからね。


「ロナモロス教の主力メンバーが、ヤマン共和国に集結しているのは

ご存じの通りです。そんな中でこの二人をあたしが仕留めたというのは

信じ難い話でしょうが、事実は事実ですので。」

「ええ…しかし火山ですか。もう、方法を訊いても無駄でしょうね。」

「そうでもないんですけどね。」

「え?」

「いや、こっちの事です。」


少なくとも、方法に関しては彼らの知り得る天恵で説明できるだろう。

しかし今、わざわざ名を出してまで説明するような事じゃない。

彼らを信じ、この二人を託すまで。


「シャドルチェの目には、特殊偏光グラスを融合させています。」

「え?…この透明のやつですか?」

「そう。」


コンコンとレンズ部分を指先で叩くリマスさんに、あたしは説明する。


「これを着けている限り、【洗脳】の天恵は無効化されます。そして、

死ぬまで外す事は出来ません。」

「な…なるほど。」

「ちなみに、視覚は?」

「着けている事に気付かないほど、普通に維持出来ています。」

「それはまた…凄いですね。」


二人とも感心しきりだ。個人的には「こういうの初めてじゃない」って

話なんだけどね。


「それじゃあ、お引き渡しします。どうぞよろしく。」

「はい。」

「いつもすみません、一方的で。」

「それはまあ…」


ドラーエさんは曖昧に言葉を濁す。まあ、何とも言いづらいんだろう。

敵対していないとは言っても、このあたしが得体の知れない存在なのは

間違いないんだし。だからと言って積極的に説明しようとは思わない。

もし説明するとすれば…


と、その刹那。


「ラグジさん。」


不意に、リマスさんが声を上げた。どこか決然とした表情で。


「はい?」

「もしも間違ってたら、聞き流して下さい。」

「ええ。何でしょうか?」


「あなた、オラクレールに縁のある方ですよね?」

「ええ。」


迷いない即答に、リマスさんはその目を大きく見開いた。え、驚くの?

それなりに確信ある質問だろうに。…まあ、あっさり肯定したって事に

驚いたんだろうね。


そう。


説明するとすれば、こういう時だ。

相手がそれなりに、自分たちの力で真実に近づいた時。


無駄な嘘はつかない。



拓美のモットーを、あたしは決して忘れてはいないって事だよ。

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