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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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招かれざる客

カイ・メズメの天恵【共転送】は、教団に欠かす事の出来ない代物だ。

【共転移】が失われた以上、彼への依存が大きくなるのは当然だった。


しかし彼がその力を使うためには、色々と制限があるし準備も必要だ。

もっとも大きな必須条件はやはり、転送先に「受け手」が必要だという

点だろう。要は、何を送るにしても先行する者が欠かせないのである。

だからこそ彼はイグリセ脱出の際、最後までこちらに残った。…正直、

かなり損な役回りだなと今も思う。まあ、それは仕方ない話だろうが。


ともあれ、俺はその天恵をサポートする「受け手」もやっていた。

正直な話、俺はロナモロス教の人間としては限りなく地味だ。ネイルや

オレグストと比べれば、世の中への露出なんてほぼ無いに等しい存在。

つまり人相が知られていないため、怪しまれずにどこにでも行ける。

イグリセ国内での移動の際、かなりあっちこっちへと出向いて共転送の

サポートをやっていたのである。

オレグストが俺をこの国に残らせたのも、半分はその役割のためだ。

もし誰かが戻ってくる展開になった場合、俺が目的地に行きさえすれば

一瞬で海の向こうから転移できる。…まあこの場合、最低でも俺自身が

転移する人間をそこそこ知っている事が必須の条件になるわけだが。


「ほとんど機会はないと思う。が、まあ駐留要員って事で頼むよ。」

「分かりました。」


苦笑いと共にオレグストが俺にそう述べ、俺も同じ表情で答えたっけ。

確かに今はもう、イグリセ王国内の事情はロナモロス教にとってかなり

厳しくなっている。騎士隊も警察も捜している以上、下手に帰国すれば

捕まるだろう。顔を知られていない俺たちならともかく、幹部連中には

もうこの国はただの危険地帯だ。

だからオレグストの言ったとおり、出番なんか回っては来ないだろう…

と思っていたんだが。


他ならぬオレグストからの連絡で、その想定はあっさり覆された。



何だってんだ、本当に。


================================


さっきも言った通り、共転送できる対象は「俺が知っている人か物」に

限られる。とすれば、転移してくる相手は結構な古株だって事になる。

少なからずのリスクを承知の上で、今さら戻ってくるモノ好きは誰だ。

ってか、何をしに戻ってくる気だ。忘れ物でもしたってのか?…いや、

再度の出国の際に共転送は使えないから、そんな程度の理由じゃ軽い。


『本当に知りたいか?』

「当たり前ですよ。」


オレグストの問いに、俺は喰い気味に答えた。訳も分からずに受け手を

やるなんて御免だ。下っ端にだって最低限の保障をしてもらわないと。


『分かった、じゃあ話す。』


答えるオレグストの声は、何となく嬉しそうにも聞こえた。


『その前に言っておく。』

「何ですか。」

『はっきり言って、目的は荒事だ。穏やかに済むとは思っていない。』

「…………」

『それを踏まえて、お前が適任だと考えたんだ。信じてくれよ。』

「分かりました。」


なるほど、そういう事か。

状況から考えて、特殊な事情だとは思っていた。それは間違いない。

ここまでを聞いた限りでも、かなりヤバい事になる…ってのは確実だ。

俺自身も、もしかしたら危険な事になるのかも知れない。

「それを踏まえて」って言葉には、俺という人間に対するオレグストの

理解が見える。荒事だからこそ俺に任せるというのは、奮い立つねえ。


もちろん、場合によっては使い捨て同然の事態になるのかも知れない。

送ってくる相手は皆ヤマンにいる。こっちがどうなろうと遥かに遠い。

見捨てられればそれまでって話だ。


望むところだよ。



んじゃ、詳しく聞こうか。


================================


翌日。

俺は、インザーレ地方の小さな街に来ていた。


街の名はミルケン。小高い丘の上に古城が見える。寒いけどいい街だ。

俺の出身地にちょっと似ているな。ま、郷愁を誘うほどじゃないけど。

取り立てて有名でもないこの街に、神託師が共同経営者になっている

喫茶店がある。それは時折話題にもなってる。神託師が副業を持つのは

別に珍しくないが、天恵の宣告まで受けられるのはさすがに例がない。


とりあえず、俺はこの神託カフェに行くように言われた。

共転送の受け手をやる場合、よほど特殊な事でもない限り、それ以外の

役目を請け負う事は少ない。正直、俺たちみたいな下っ端にそういった

役どころは回ってこないのである。まあ、それは当たり前の話だろう。


しかし、今回は少し事情が違う。

リスクを最小限に抑えるため、まず俺が店を偵察する事になっている。

偵察とは言っても、普通に客として行って状況を伝えるってだけだが。

重要なのは店主がいるかどうかだ。まずそれを第一に確認する。名前も

判明している。トラン・マグポットという若い男だ。もちろん、俺には

面識などないが、店で聞けば普通に教えてくれるだろう。人相なども、

そこそこオレグストから聞いてる。多分、見れば判るはずだ。


妙な話ではある。

少なからず、危険な気配も感じる。誰が来るのかを知った身としては、

いささか背筋も寒くなる。しかし、同時に少なからずワクワクしてる。

何が起こるのか、危険も含めた上で見届ける。俺はそういう性分だ。

オレグストに頼まれた仕事はやる。俺にだってその程度の気骨はある。


…………………………


あそこか。

よし。

んじゃ、とりあえず行ってみよう。


チリリン。


「いらっしゃいませ。」


入口の扉を開けた瞬間、俺は思わず身を固くしていた。

愛想のいい口上を述べたその声に、あまりにも覚えがあったから。


「どうぞこちらへ。」

「あ、ああ。はい。」


どうにか動揺を抑え、言われるまま窓際の席に座る。座るまでの間に、

確かに声の主のウェイトレスの顔を盗み見た。そして確信を得た。


メガネをかけてるけど。

雰囲気は変わっているけど。

見間違うはずも、聞き間違うはずもない。どう見ても間違いない。



ランドレ・バスロ。


どうしてここにいる。

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