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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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ヤマンの地にて

うんざりするようなトラブルに直面したけど、逆に船酔いしなかった。

多分、それどころじゃなかったからだろうな。ネミルは酔ったらしい。

ともあれ、どうにか無事船は港への入港を果たした。ジェレムたちとは

あえて挨拶しなかった。もしここであれこれと話すと、またややこしい

話を蒸し返すかも知れないからだ。お互い、もう忘れようって事だな。


あの二人は、国際見本市に出展するために来たらしい。いい話だなぁ。

【錬金術】なんて厄介な天恵を得たにも関わらず、ジェレムはきちんと

未来を見てる。パートナーも傍らにいる。ジェレムという人間を知り、

その上で共に歩む存在だ。だったらとことん応援したい。あいつもまた

ネミルが天恵を告げた一人だから。



いい結果を期待してるよ。


================================


さて。

そんなわけで、ヤマン入国である。さすがにちょっと感慨深いな。

文字通りの見切り発車だったけど、結果としてここまで辿り着いた。

正直、ちょっと信じられない。


俺もネミルも、旅行にはあまり縁がない。機会がないというよりむしろ

性格的にさほど興味がないからだ。それがこんな遠い外国まで、しかも

車で来たってんだからなおさらだ。人生って本当に予想外ばっかりだ。

もちろん、間違っても遊びに来たというわけじゃないけど。


その一方、俺もネミルもここまでのキッチンカー経営で逞しくなった。

初日いきなり車酔いに苦しんでいたネミルも、今では終日乗っていても

ケロッとしてる。俺だって同様だ。一日中運転していてもへっちゃら。

店を始めた時から比べれば、自分で言うのも何だけど本当に別人だよ。

ルトガー爺ちゃんも、まさかこんな未来は全く想像しなかっただろう。



分からないからこそ、未来ってのは面白いもんだよな。


================================


グリッテがどういう形で乗船したかについては、もはや分からない。

しかし、雰囲気からして密航という手段は取らなかっただろうと思う。

堂々と乗船したのなら、乗客名簿に名前があっても不思議じゃない。

とすると、「居なくなった」という事実も残る。今のところボートが

無くなった事実は露見していない。チェックはこれからなんだろう。


ならば、さっさと降りた者勝ちだ。俺たちもジェレムも真っ先に下船。

ちょっと緊張したけど、特に問題は起きなかった。まあ、軍人とかじゃ

ないんだから、下船時のチェックもそれほど厳しくないって事だろう。

後は野となれだ。


さすがに運転にも大いに慣れてる。船から降りるのも危なげなく完了。

そんなに栄えてる港じゃないから、注目される事もない。もちろん、

ここで商売する気もない。とっとと次の街へ行くだけだ。



ここからは、もう寄り道はナシで。


================================


「ふーーー…」


街道沿いにある大きな店の駐車場にオラクモービルを停めた俺たちは、

揃って大きな息をついた。やっぱりちょっと気を張ってたんだろうな。

ネミルは爆弾の事は知らないけど、似たようなもんだろう。


「どうにかここまで来たね。」

「そうだな。」

『さすがに疲れた?』

「いや…まあ疲れたんだろうな。」


ダッシュボードから聞こえるタカネの問いに、俺は苦笑しつつ答える。

何だかんだ言っても、これほど遠くまで来るとは思ってなかったから。

とりあえず、一服しよう。


「ここで食事できるかな。」


店の方を見やったネミルがそんな事を言った。同時に小さく腹が鳴る。

そういや腹減ったな。見てみると、レストランと雑貨屋が合体した系の

総合店舗だ。俺たちみたいなのを、メインの客層にしてるのかも。


「ええっと…あ」


そこで俺は失態に気づいた。

急いだせいで、港での換金手続きを忘れていたのである。


「どうしたの?」

「この国の金がない…」

「ええっ!?」


すっかり車を降りる気になっていたネミルの声が、悲痛に裏返った。


「どっ、どうするの!?」

「港まで戻るしか…」

「ええぇぇぇぇ!!?」


ますます声が裏返る。面目ない…!

こればかりは、どうにもならない。【魔王】で無銭飲食なんて外道だ。

面倒でも、戻るしか…


と、その刹那。


ジャリジャリジャリン!


くぐもった金属音がダッシュボードから聞こえてきた。俺とネミルは、

不意を突かれて同時に飛び上がる。何だ、何が起きた!?


『両替したよ。』

「え?」

『まあ、開けてみなって。』


言われるがままにダッシュボードを開けてみると…

あった。

まぎれもない、この国の貨幣が。



いや、何でだ!?


================================


「まさか偽造か!?」

『人聞き悪いわねえ。まあ違うとは言わないけど。』


俺の問いに、タカネがしゃあしゃあとそんな言葉を返す。何だと!?


「どうやって出したの!?」

『イグリセの貨幣から作ったのよ。だからまあ、物理的な両替ね。』

「作ったって…」


とにかく一枚手に取って見たけど、どう見ても20ランマルク貨幣だ。

こんな物を、一体全体どうやって…


『あたしは、胃で消化した物体なら制御する事が出来る。貯蔵する事も

別の形で呼び戻す事もね。だから』

「ちょ、ちょっと待ってくれ。」


滔々と語るタカネをとにかく止め、内容を頭で復唱する。


胃で消化?

貨幣を?

それってつまり…


「…貨幣を食ったって事か?」

『そう。胃酸でドロドロに溶かしてから、ナノ制御で…』

「分かった、もういいよ。」


最後まで聞くのが怖い。

このオラクモービルがタカネの一部だという事実を、今さら実感する。

ふと見れば、ネミルもちょっと顔が青い。色々と察したんだろうな。


「ありがとう、助かったよ。」

『お安いご用。』

「…うん、ありがとね。」


とりあえず、感謝しておこう。

………………



ちょっと食欲は無くなったけど。

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