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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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そこに立つ女性は

「あたしは、実在の人間じゃない。それはちゃんと分かってる。」


グゾントの骸を見やりつつ、ラスが淡々とそんな事を言った。


「だけど、あたしには外の登場人物よりも高い実在性があったのよね。

『三つ編みのホージー・ポーニー』の中では。」

「あたしと同じようなものって事?だったらここは…」

「いえ、あなたとは違う。」


勢い込んだあたしを制するその言葉に、抗い難い説得力が込められる。

…あんまり口を挟まずに聴こう。


「こっちの物語は、実際にあった事をほぼそのまま著したものなのよ。

言うなればノンフィクションね。」

「これが?」


グゾントを深々と刺し貫いた銀色の槍を見ながら、あたしは素で呟く。

いや、これをノンフィクションだと言われても…

どんなバイオレンスな世界なんだ、という言葉しか浮かんでこない。


「やっぱり信じられない?」

「そりゃそうでしょ。まぁあなたがこうしてメタ的に話せる存在なのは

認めるしかないとして、その事実とこれがノンフィクションだっていう

話とは簡単に結びつかないもの。」

「確かにそうよね。」


疑ってかかるあたしに怒る気配も、諦める気配もラスは見せなかった。

説明が難しいというのは、最初から覚悟してたって事なんだろうね。


「でも、あたしがこうやって独自の意識を持つに至った理由はそれよ。

実際にあった事を描写しているからこそ創作世界に実存性が付与され、

それをエイラン・ドールが天恵の力で感じ取った。」

「エイランが!?この世界を!?」

「もちろん、ごくごく一部だけを。つまりあたしって存在だけをね。」

「ええー…」


ますます理解を超越した話だった。いやあたしが言うなって話だけど。

だけど、エイランがラスをそういう形で「知った」のなら納得できる。

妙にキャラクター創造の際に意固地になっていたのも、もう既にここに

存在するキャラだったからだろう。盗作という訳じゃないけど、何とも

変な話だ。



不条理だなあ、ホントに。


================================


「…まあ、エイランが15巻の中にあなたを登場させた理由については

もう疑わない。事実、こういう世界が存在しているわけだし。でも…」

「ノンフィクション、という点にはやっぱり納得いかない?」

「悪いけど。」


そう、そこはまだちょっと難しい。

いや、別にこのバイオレンス世界が実際にあった事の記録って話自体を

疑ってるわけじゃない。何だかんだ言っても、エイランが生きた世界も

それなりに超常系のファクターには事欠かないし。あたしの見聞なんて

些細なものだ。頭ごなしに否定するような考え方はしたくないし。


「信じられない」というのは、単に信じるに足る根拠がないってだけ。

それさえあれば、あたしはこの世界をノンフィクションと認められる。

いや、せっかくなら認めたいとさえ思っているよ。その方が面白いし。



…どうかなラス、そのあたりは?


================================


「分かった。」


パンと小さく手を叩き、ラスは少し控えめな笑みを浮かべた。


「とりあえず、証拠があればいいという事なのよね?」

「とりあえずは。」

「じゃあ、あっち。」

「え?」


ラスが指し示したのは、岩山のほぼ反対側に位置する高台の頂だった。


「あそこが何?」

「あのてっぺんまで行こう。」

「え?」

「別に無理じゃないでしょ?」

「…まあ、うん。」


やっぱりよく知ってるな、この子。

あたしはこの世界の住人じゃない。だからこそ、この世界の物理法則に

厳密に囚われたりしない。さすがに空を飛んだりするのは無理だけど、

割と人並外れた事もできる。あんな高台程度なら楽勝で登れるだろう。


「じゃあ行こうか。」

「ええ。」


さっさと歩き出したラスを追って、あたしも速足で歩き出す。あそこに

何があるのか知らないけど、確信を得られるなら行く価値はある。


ここは行ってみるしかないね。

うん。


================================


「…え?」


ラスと並んで、高台の頂近くにまで到ると共に。

岩山に向かって立つ、一人の女性の背中が視界に入ってきていた。


あまりにも見覚えのある背中が。

彼女のすぐ脇には、さっき見た骸に刺さっていた銀の槍が何本もある。

ここから投擲して、あのグゾントを残らず仕留めていたって事なのか。

…いや、それは今はどうでもいい。


彼女って、まさか…


「…タカネさん?」

「やっぱり分かるよね。」


ラスが嬉しそうにそう言ったけど、ほとんど聞こえていなかった。

あたしはただ、自分の目の前で停止しているその姿に見入っていた。

作品世界の人物である事は、見た目ですぐ判る。停止している事に加え

わずかにくすんでいるような感じ。もう何度も見た、登場人物の姿だ。


タカネさんが、この作品世界に…?


「あなたにとっての彼女は、異世界から来た異邦人でしょ?」

「え、ええ確かにそう。」


そう。タカネさんはトモキの記憶の中に潜伏し、こっちの世界に来た。

断じて、エイランの著作の登場人物のような存在じゃなかったはずだ。

だとしたら、どうしてここに…


「あ。」

「分かった?」

「つまり、この世界で描かれている物語っていうのは…」

「そう。」


タカネさんの横顔を見つつ、ラスがゆっくりと告げた。


「タカネが実際に生きた世界よ。」

「ええー…」


信じられない。

今度は言葉通りの意味じゃない。


純粋な驚愕の表れだ。



信じられないなあ、こんなの。

ビックリだよ。

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