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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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グリンツ・パルミーゼの尋問

「また食事をしなかったそうだな。いい加減、体に障るぞ?」

「ご心配頂く身分ではありません。どうぞお構いなく。」

「そうは行くか。」


単調なやり取りだ。

もう何度繰り返したか、思い出す気にもなれない。

もともと私は少食だ。今さら食事がどうのと言われる筋合いはない。

飢えて衰えて死のうが、それが何だと言うんだか。


彼も大概に辛抱強い性分だな。

こんな生産性の欠片もない尋問に、どれだけの時間を費やすんだか。

私が死ぬまで、ずっと繰り返す気でいるのかも知れない。だとすれば、

どっちにとっての拷問なんだろう。まあ、もはやどうでもいい話だ。


あれこれ話す気はない。

ネイルへの義理立てだとか、そんな高潔な覚悟も持ってはいない。

見捨てられた事への怒りもないし、恨み言も湧いてこない。もう私は、

色んな意味でほぼ終わった人間だ。誰かのために何かする気もない。



神託師なんて、所詮そんなものだ。


================================


今いるここがどこなのか、正確には知らない。ずっと知らないままだ。

私のような危険人物に、おいそれと自分の居場所を把握させるわけには

行かないのかも知れない。その点は私にも理解できる。


そして目の前にいるのは、ゲルノヤとかいう騎士隊の人間だ。おそらく

隊長格だ。この男は、私を辛抱強く尋問している。貧乏くじ引いたね。

飽きるほど顔を合わせてきた間に、そんな同情心さえも芽生えていた。


あの日。

イグリセ王国脱出の準備をしていた私は、騎士隊の若者に捕らわれた。

聞いた話では、私を捕らえたその男はゲルノヤの部下だ。つまり女王の

飼い犬である。もはやそこまで話が及んでいるのかと、肝が冷えた。


しかし、その後の心には波風なんか立たなかった。


私は確かに、ロナモロス教に対して色々と便宜を図っていた。その事を

今になって言い訳する気などない。オレグストが来てからは、役に立つ

天恵の持ち主に宣告し続けた。今にして思えば、恵神ローナに対しては

これ以上ないほど失礼な行為だったかも知れない。ロナモロス教団を

あそこまで強大な組織にしたのは、間違いなくこの私だろう。


だけど私には、戦う力など何ひとつ備わっていない。ただの神託師だ。

今までどんな事をしてきたんだ、と問われれば、「自分の仕事」としか

返しようがない。たとえどんな立場だったとしても、そこに恵神への

背信などは何もない。名ばかりだと偽っていたのは事実だけど、今でも

そんな神託師はいくらでもいる。


ロナモロス教団に加担したのは事実だ。その点はもう、何も言わない。

そしてもう、私の人生に語るべき事など何もない。それもまた事実だ。



飢えようが死のうが、放っておいてくれ。


================================


「モリエナ・パルミーゼ。」

「…………………………」

「お前の娘だ。忘れたってわけでもないだろう?」

「ええ。」


そう言ったゲルノヤは、あたしの前に一枚の写真を置いた。紛れもない

我が娘だ。で、これが何か?


「居場所に心当たりはないか?」

「家出した娘の居場所なんて、私に分かるわけないでしょう。」

「行きそうな場所の心当たりは?」

「あり過ぎて絞れませんよ。」


思わず、少しだけ笑ってしまった。

あの子の天恵は知ってるだろうに、何を間の抜けた事を訊いてるんだ。


「あの子に限って言えば、この世界のどこかとしか見当がつきません。

その理由は、言うまでもありませんよね?」

「ああ、それはもちろん承知だ。」


小馬鹿にしたような私の言葉にも、ゲルノヤは起こる気配がなかった。


と言うか。

何で今さらモリエナ?


「娘に何か用ですか?」

「もちろん、ロナモロス教が今までやって来た事の関連だ。」

「…………………………」


何だろう。

妙にモヤモヤする。


私ならともかく、どうしてあの娘にそこまでこだわるんだ。

ただの運搬係に過ぎなかった、あの親不孝な娘に。


ああ。

そうだ。

あの子は親不孝だ。

他の誰よりも。


だけど。

それをあたしが言うのか。


何だろう。

何故だろう。



今になって、やけに心が焦げる。

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