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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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アースロの責任

「な、何でしょうか。」


ネミルに問いかけられたアースロの声は、明らかにうわずっていた。

無理もない。彼が天恵を得ていないのは周知の事実だし、今の目の前の

状況はかなりまずい。今になって、ウルスケスに対する自分の見立てが

甘かった事を痛感してるんだろう。…割と自業自得ではあるけど。


しかしネミルは、そんな彼の口調に構わず粛々と問う。


「あなた護衛でしたよね?」

「え?ええ、まあ。」

「それなりに戦えるんですよね?」

「…それなりに修めていますが。」

「ならあの天恵持ちの四人、一人で制圧できますか?」


「は!?」

「オイ何喋ってやがる!!」

「いえ…ちょっと待って下さい。」


【火球】の天恵の男に答えた俺は、冷や汗を背中に感じていた。


意図せず、アースロと声が被った。そのくらいネミルの言葉は唐突で、

しかも現実味に欠けていた。いくらアースロが剣術なり格闘術なりを

修めていたとしても、それで四人を相手にしろと言うのは無茶過ぎる。


咄嗟に俺は【魔王】を発現した。

コソコソ話していると思ったらしい【火球】の男が、俺に対し明らかな

悪意を抱いた。その瞬間を見逃さず術に墜とし、丁寧口調で「待て」と

命じた。恐らく周りの三人はそれに気づいていない。【火球】の男が、

己の意志で待っていると思ってる。パワーバランスが幸いしたのか、

とにかく猶予は出来た。と言っても長くて1分ほどだ。雰囲気で判る。


しかし、当のネミルはやっぱり冷静だった。


「無理ですか?」

「身のこなしだけで判断するなら、何とかなります。しかし天恵込みで

考えれば、とても無理です。」

「天恵無しならいけるんですね。」

「えっ…な、何とか。」

「分かりました。」


そこでネミルは、初めてアースロにまともに視線を向けた。


「じゃあ、お願いします。」

「え!?」

「時間切れた!!」


怒声が響き、【火球】の男のすぐ隣に立っていた男が右手を掲げた。

と、そのすぐ上に見覚えある火の玉が現出する。…おいおいマジかよ!

まさかの【火球】もう一人だと!?一体全体、オレグストはどれだけの

人間の天恵を選別したんだよ!


いや、もうこれ無理だ。【火球】が二人もいて穏やかに済むはずない。

もはや、タカネに任せるしかない。下手すると誰かが…


「アースロさん。」

「えっ、はい!?」


アースロの目は完全に泳いでいる。隣に座る教皇女の不安げな表情も、

もはや痛々しいほどだ。何だって、ネミルはこんな無理を強いるんだ。

一体どんな勝算があって…


「お聞きした限り、あの四人の襲撃はあなた方が原因でしょう。」

「それは…」

「だったら責任を取って、あなたが収拾をつけて下さい。」


そう言い放ったネミルが、目の前の四人に視線を向けた。


「あの男の火の玉を見ていて。」

「え?」

「すぐ判りますから、あなたの判断で突撃して下さい。いいですね?」


一瞬の沈黙ののち。


「…分かりました。」

「アースロ!?」


うろたえる教皇女の、視線の先で。

同じくうろたえていたアースロが、そう答えてグッと顔を引き締める。


ああ、覚悟を決めたんだな。

そう感じた俺は、自分でも不思議に思うほど冷静だった。

確かにネミルの言う通り、この窮状を招いたのはアースロたちだろう。

ならば、自分で落とし前をつけろ。その言い分はもっともだ。

アースロ自身も、己が負うべき責任をしっかり見定めたんだろうな。


よし。


万一の時は、タカネがフォローしてくれる事を信じる。だけどまずは、

アースロを信じてみよう。


そして、焚きつけたネミルも。



頼むぜ二人とも。


================================


「女を渡せ!!」

「お断りします。」


二人目の【火球】男の要望に対し、すげなく言い返したのはネミルだ。

キャラがいつもと違い過ぎるけど、俺ももう開き直って見届ける。

空気が一気に張り詰め、四人はほぼ同時にこちらに歩み寄って来た。


刹那。


「リセット。」


そのネミルの呟きを聞き取れたのは多分、隣に立つ俺だけだろう。

ほんの微かに瞳が光ったのも、多分俺にしか見えなかっただろう。


その直後。


「!!?」


何の前触れもなく、【火球】の男が出していた火の玉が消失した。


「な、何だ!?」


彼だけではなく、他の三人も同様の動揺を見せた。自分の中の何かを

感じ取ったのか、その顔は困惑に…


ダン!!


予想外の瞬間を逃さず、アースロが一気に彼ら四人との距離を詰めた。

そして、先頭を歩いていた二人目の【火球】の男の顔に、強烈な肘鉄を

叩き込む。


ゴン!!


何ともヤバそうな鈍い音がここまで聞こえ、男は鼻と目から血を噴いて

崩れ落ちた。急停止したアースロがグッと体を沈め、右足を軸にして

ぐるっと体を回す。地を這う左足が一人目の【火球】の男の足を捉え、

凄まじい勢いの足払いをかけた。


「なっ」


ガン!!


仰向けにバランスを崩した男の体を掴んだアースロは、彼を背中から

思いきり地面に叩きつけた。ただの転倒よりはるかに強い衝撃を受け、

男はガッと血を吐いて昏倒する。


残り二人の顔に浮かんだのは、憤怒でも殺意でもない。恐怖だった。

よほど自分の天恵に自信があったんだろう。何がどうなってるのかは

分からないけど、少なくとも今何が起こっているのかは理解できた。


つまりネミルが、彼ら四人の天恵を一瞬で無力化したって事だろう。

理由は後で聞く。


素早く立ち上がったアースロには、迷いも躊躇いも一切なかった。

グッと右腕を後ろに引き、構える。何をするのかは予想がついた。

次の瞬間。


ドン!

ガン!


やっぱり。


渾身の力を込め突き出した掌底が、すぐ目の間に立つ男の顔を捉えた。

吹っ飛ばされた彼が、すぐ隣の男に激突する。背丈がほぼ同じだから、

見事に頭同士が衝突した。鈍い音が響くと同時に、二人とも鼻血を噴き

横向きに倒れ伏した。


火の玉が消えてから今まで、およそ10秒ほど。

終わってみれば、あまりに呆気ない決着だった。


やるもんだなアースロ。

ちょっと侮ってたかも知れないな。


そしてネミル。



…とりあえず、説明を求む!

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