オロイクの別れと出会い
嘘みたいな話だけど、丸く収まったらしい。
正直、あたしにはどっちの気持ちも今ひとつ想像できないなあ。
オレグスト氏は、オロイクで自分を待っているカイ・メズメ氏と合流。
そのままこの国を出ていくらしい。もうこれ以上、彼の行動に対して
ポロニヤさんとアースロさんは干渉しないという事になった。…いや、
本当にそれでいいんだろうか?
とは言え、お互いのためだと言えばそうかも知れない。ハッキリ言って
列車を降りた後諍いを起こすのは。双方にとってかなりリスクが高い。
特にオレグスト氏に関しては、駅にいる人間が全て味方でもない限り、
出国できなくなるのはほぼ確実だ。聞いていた話によると【共転送】で
送られた相手は、もう呼び戻せないらしいから。
条件としては合理的だ。こう見えてポロニヤさんも交渉上手なんだね。
意図していたかどうかは、あんまりはっきり分からないけど。
そしてオレグスト氏も、どことなく「それでいい」って雰囲気だった。
殴られたり腕を折られたりとかなり散々な目に遭わされているけれど、
それが報いなのはあたしたち二人も知っている。かなりの自業自得だ。
無関係の相手から受けた暴力ならばともかく、相手は間違いなく自分を
「正当に」仇と思っている人物だ。これで済んだと思うべきだろうね。
あくまでもあたしの印象だけど。
オレグスト氏は、今までやってきた事に対して少なからず悔いている。
当時どうだったかは知らないけど、少なくとも今はそんな感じだった。
少しでもまともな道理を考えられる人なら、むしろ何らかの形で報いを
求めたのかも知れない。変な考えと思うけれど、少なくともあの人には
そんな雰囲気があった。だったら、ここがいい落とし処なんだろう。
とりあえず、そう考えておこう。
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長旅だったはずだけど、列車が駅に着くまでの時間はあっという間に
思えた。サトキンもそう言ってた。…やっぱり、緊張してたんだろう。
ともあれ、オロイクの街に到着だ。思っていた以上に大きな街だった。
「じゃあ、俺はこれで。」
「お気をつけて。」
「手は、早く教主に治してもらって下さいね。」
アースロさんの言葉に、オレグスト氏はちょっと苦笑を返した。
「そこまでお見通しか。何と言うか本当にかなわないな。」
「ええ。それじゃ。」
…………………………
それでいいんだ、本当に。
歩き去っていくオレグスト氏の背を見送りながら、あたしは何となく
不思議な感じだった。大人の世界を垣間見たというよりも、何だか歪な
人と人の関わりを見たような感じ。お互いもう取り返しがつかないって
事を認めつつ、それでも己の現実を守るために線引きをしたのかな。
分かんないなあ、こういうのって。
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「どうしますか、これから。」
オレグスト氏の姿が見えなくなってから、アースロさんがそう言った。
「彼に目的地を訊かなかった以上、海を渡るとしてもどこへ行くべきか
決めにくいですよ。」
「そうねえ…」
あ、やっぱりノープランなんだ。
わざと訊かなかったのかなと思ったけど、訊いたって信用できないし。
まあそれは仕方ないんだろうけど。
「後をつける、というのはやっぱり危険ですか?」
「やめた方がいいでしょうね。」
サトキンの提案に、アースロさんは即答した。
「今度は、さっきまでのような展開は期待できません。ほぼ間違いなく
仲間がいるでしょうし、それに船の速度なら、【共転送】は不可能では
ないでしょうから。」
「なるほど…」
サトキンも頷く。もっともな話だ。無茶したら今度はこっちが危ない。
でも、じゃあどうすれば…
「とりあえず、今日はこのオロイクに宿泊ですよね。」
「え?…ええ、そうでしょうね。」
ポロニヤさんはマイペースだった。あたしも思わず頷いてしまった。
まあ、確かにそういう時間になってしまってるけど。
「明日ここで情報収集しましょう。何かしら少しでも得られれば僥倖。
ダメなら、とりあえずタリーニまで向かう事にしたいと思います。」
「タリーニ王国にですか。」
「聖都が制圧されてそこそこ時間が経ってます。そしてロナモロス教も
色々な事件に見舞われている。なら現状も変わってるはずですから。」
「…なるほど、確かに。」
訊いた話が本当なら、タリーニではかなり混乱が起こっているだろう。
教皇女ポロニヤの生死についても、噂が飛び交っているに違いない。
現在の彼女の顔を知る人は少ない。なら、大騒ぎにはならないだろう。
意外といい選択なのかも?
「とりあえず宿を探しましょう。」
切り替えたらしいアースロさんが、淡々とした口調でそう言った。
うん、賛成です。
今日はもう休んだ方がいいと、私も思いますので。
大きな街だなあ、それにしても。
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問題なくホテルは見つかった。
ごく簡素ではあったけど、まともな宿泊が出来るなら文句ありません。
二部屋に分かれる。もちろんあたしの相部屋はサトキンだ。もう今さら
ドギマギする関係じゃない。ああ、そっち方面で色気ないなぁあたし。
見た感じ、アースロさんたち二人も全然そんな感じじゃないし。
まあいいか。
とりあえず、ゆっくり寝ましょう。
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翌朝もよく晴れた。
起きた途端、お腹が減っている事に気付いた。そう言えば昨夜の食事は
適当だったもんなあ。とにかく早くホテルに行きたくて…
「おはようございます。」
「おはようございます。えと…」
「おなか空きましたよね。」
「え?…あ、はい。同感です。」
先に言われた。やっぱりかぁ。
見ればサトキンもアースロさんも、かなり限界って顔してるよ。
とりあえず朝食に向かいましょう。腹が減っては何とやらですから。
チェックアウトまでまだ少し時間があるので、荷物は部屋に置いたまま
ホテルを出る。まだ朝なんだけど、とにかく市場にでも行って食事を…
…………………………
何だかイイ匂いがしてきたなあ。
あっちの広場からみたいだ。
誘われるように、四人並んで進む。昨夜は店とか無かったはずだけど…
あ、あれかな?もしかして屋台…
違う。でっかいトラックだ。
もしかして自動車の移動店舗とか?そんなのが存在するのこの街って?
何でもいいや。とにかく食事を
…………………………
あれ?
あのお店の人
知ってる。