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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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凍てついた怨念

「以上になります。」

「なるほど、難敵のようですね。」


あたしからの報告を聞き終えた陛下は、粛々とそう告げる。そこには、

度の過ぎた悲壮感などはなかった。ゲルノヤ隊長を始めとする面々も、

顔色を変えず聞き入っていた。


真面目に聞いてたのかと疑ったりはしない。そこまで浅はかじゃない。

こんな状況だからこそ、あたしたち騎士隊に求められるのは冷静さだ。

あたし同様新参であるシュリオも、その事はしっかり肝銘している。



怖れず侮らず、そして油断せずだ。


================================


ゲイズ・マイヤール。

【氷の爪】という冷凍能力の天恵を持つ、ロナモロス教の幹部である。

間違いなく殺人を犯しており、また王宮に潜入した事もある危険人物。

教皇女ポロニヤに成りすましていた【変身】の天恵持ちを殺しており、

不確定であるものの三人の神託師の殺害も行ったと目されている。


まことに不甲斐ないけれども、つい最近までその存在すらはっきりとは

認識できていなかった。ナガト先輩の天恵があっても、神出鬼没だった

この女はなかなか捉えられないままだった。これは恐らく【共転移】の

天恵を持つモリエナ・パルミーゼの協力があったからだろう。


しかしそんなゲイズは、あまりにも呆気ない最期を迎えていた。

イデナスにある病院の一室で、右の腕を溶かされた状態で死んでいた。

死因は殴殺。途方もなく重い一撃で首をへし折られ、即死していた。

誰の手による殺害なのか、見当すらつけられないのが情けなかった。


しかし事態は深刻な方向に転がる。検死を済ませ埋葬されていたはずの

彼女の遺体は、何者かの手によって持ち去れられた。その折、巡回兵が

惨殺された。遺体に残っていた痕跡は間違いなく、【氷の爪】だった。

しかもその巡回兵の首は、あまりに鮮やかに斬り飛ばされていた。


ゲイズが蘇ったのは、間違いない。天恵の痕跡もそれを物語っていた。

しかし凍てついた首は、どう見ても【氷の爪】だけで斬り飛ばされた

わけじゃない。鋭利な一閃は、彼女自身の変化の証でもあった。


何も判明しないまま、ロナモロスの暗躍が次々に重なっていく。

イーツバス刑務所を襲撃して職員を皆殺しにし、囚人を連れ去ったのも

間違いなく彼女だ。連れ去った囚人の天恵も恐ろしいものだったけど、

それよりも職員を一気に斬り伏せたその技量と残忍さに肝が冷えた。

一体、ゲイズはどんな姿と力を得て蘇ったのだろうかと。


異様な出来事を前に、あたしたちはずっと後れを取っている。もはや、

影を追う事さえままならなかった。しかし事態は、またしても意外な

展開を見せた。


ロンデルンにおける、時計塔の猟奇殺人の犯人。それがその夜のうちに

撃破され、あたしの目の前に振って来た。今回は生きたままだった。

成した人物は、ラグジ・イオニアと名乗ってあたしたちに姿を見せた。


彼女がゲイズを殺したというのは、言葉ではなく肌の感覚で確信した。

その事を騎士隊に通報してきたのも彼女の仲間。こっちもゲイズ以上に

謎な人物ではある。でも少なくとも敵じゃない。それも肌で確信した。


そんな彼女が今日、復活したゲイズに関する情報をもたらした。

知りたかったけど、知りたくない。



そんな情報を。


================================


ロナモロス教には、「異界の知」を意図的に取り入れる手段がある。

それも天恵のなせる業だと思えば、本当に計り知れない脅威である。

そしてゲイズを蘇らせたのもまた、そんな異界のテクノロジーだとか。


今のゲイズは「ダビング」とかいう機械人形らしい。

何でも、優れた能力を持つ者の肉体を丸ごとコピーしているとか。

もはや完全に理解の外の話だけど、異界の知と言われれば開き直れる。

どこかの世界にはそういったものも存在している。それを受け入れて、

今のゲイズが何なのかを理解する。


名は「ブリンガー・メイ」。

かつてのゲイズが持ち得なかった、強靭かつ俊敏な機械の肉体を持つ。

【氷の爪】と同等以上に脅威なのが腕に内蔵されている刃。人間の体を

いともたやすく両断し得る代物で、半端な武器でも太刀打ちできない。

もし真っ向から戦う事になったら、おそらくあたしでは生き残れない。

ラグジさんからの情報を信じれば、という前提ありきだけれど。


もちろん、かなりの荒唐無稽だ。

信じろと言われても正直、難しい。信じたくない内容でもあるし。


でもやはり、ラグジさんがあたしにデタラメを言うとは思えない。

楽観が過ぎるとか、怪しい相手の事を信じ過ぎとか言われそうだけど。

それでもあたしは、あの人をそんな感じに疑う気にはなれない。

我ながら感情的だと思ってるけど、それも含めてあたしなんだから。


とにかく現状、ブリンガー・メイの脅威としてのレベルは極めて高い。



その事だけは肝銘して臨もう。


================================

================================


…それで?

死因は?


心臓疾患による病死で間違いない。

何度も確かめた。


殺されたんじゃないの?


もちろんその可能性も想定したよ。

毒殺なども含めて、これ以上ないと言っていいくらい念入りに調べた。

君が知りたがると思ってたから。


じゃあ、間違いないのね?

誓えるわよねマッケナー。


何にだって誓うよ。

俺だってショックなんだから。


…………………………


俺はそこまで詳しくないから、想像の域は出ないけれど。

やはり、ペイズド・バスロに対する【病呪】が影響したんだと思う。

あくまでも想像だけどな。


分かった。ありがとう。

埋葬はあたしがやる。


ああ。


================================


父さんが死んだ。

顔色が悪かったのは、やっぱり気のせいじゃなかったのか。

マッケナーがあそこまで断言したという事は、病死は間違いないのか。


信じないわけじゃない。

父さんの天恵はよく知ってたから。

そんな末路を辿る事になるかもって思いは、ずいぶん前から持ってた。

あたしだけじゃなく、父さんも。

今さら、その点を疑いはしない。


だけど。


どうして父さんは、あの場所で死を迎えたのか。

ランドレ・バスロの屋敷の庭で。


死を求めて自分で向かった?

そんな訳がない。

父さんはそんな人間じゃなかった。それはあたしが誰よりも知ってる。

事実、父さんが北の街に向かったという情報は断片的に残っている。

それを考えれば、あんな見当違いな場所で力尽きたってのはおかしい。

どう考えてもおかしい。


だけど、不可能な話じゃない。


天恵を使えば、父さんをあの場所に送る事は出来る。

あるいは

()()()()()事も出来る。

それが出来る人間を知っている。


【共転移】の天恵の持ち主。

あの小娘だ。


あいつが父さんをあそこに運んだのだとすれば。

そこで死を迎えさせたとすれば。


許さねえぞ。

首を刎ねて、氷の彫像にしてやる。



待ってろ、モリエナ・パルミーゼ。

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