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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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結末と始まりと

「事情の説明をしちゃダメ。」

「何でだ?」

「説明がひととおり済んだ時点で、あのおばさんは外からの声の指示で

爆弾を起爆させるつもりよ。」


マジかよ。

つまり周りにいる大勢にランドレの事情を聴かせた上で、誤爆って事で

俺たちもろとも二人を吹っ飛ばす…って算段だったのか。


こんな話をすぐ傍でしていてさえ、ランドレはまともな反応をしない。

ここまで来ればもう明確に分かる。こいつが洗脳されているって事が。

だから俺の言葉に対してほぼ怒りを見せないし、他の情緒も死んでる。

最低限の知性を残しているだけの、生きた操り人形って事だ。


冗談じゃねえよ。


================================


見た目が派手だねえ、「洗脳」って天恵は。目が紫に光ってる姿とか、

実に悪役に相応しい。…まあ、俺に言われたくはないだろうけど。

俺の方は、かなり近寄って見ないと気付けないくらいの目の発光だ。

遠巻き連中に見られる心配はない。


って事で。


「正直に話して下さい。」


丁寧に言ったけど、これも魔王から下す命令だ。逆らう事は出来ない。

そして「嘘を言え」とは言わない。ただありのままを説明しろ。


あんたが企んだという、今回の事を何もかもな。


================================


とりあえずペイズドさんへの拘束を解かせ、持っていた鞄を回収する。


「だ、大丈夫なのか?」

「もちろん。これ俺のですから。」


及び腰のイザ警部にそう答え、鞄を開き中を見せる。ただの着替えだ。

とりあえず「魔王」の力でペイズドさんにこれを持たせ、外の奥さんに

大急ぎで渡しに行け!と命令した。少なくともこの人は被害者だから、

問答無用で殺される事はない。そう考えての策だ。…まあ強引だけど。


結局ペイズドさんは妻に裏切られ、生贄にされた被害者って事らしい。

外の鞄を設置したのは彼だ。洗脳による指示で、店に入ってくる前に

無意識にやっていたらしい。知らぬ間に共犯者か。…何とも怖い話だ。


鞄の事も俺の天恵の事も、店の外に出た時点で忘れるように仕向けた。

利用したと言われればそれまでだ。でもまあ、大目に見て欲しい。

一手でも間違えていれば、俺たちは店もろとも木っ端微塵だったんだ。

多少とぼけたっていいだろう。


俺たちだって被害者なんだからな。


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観念して何もかも自白。

そういった態で、シャドルチェには洗いざらい話させた。

「店の中で全部話してくれた」っていうのは、半分は本当だ。ただし、

実際に話したのはランドレじゃなくネミルだ。まあ、どっちでもいい。


指輪の力で、シャドルチェの天恵が「洗脳」と分かった瞬間、ネミルは

もう一回ニロアナさんの天恵を身に宿した。それによりシャドルチェが

外からランドレを操ろうとしている事を察した。死人に口なしって事で

俺たちもろとも口封じをするつもりだったらしい。…その事を聞いて、

あらためて肝が冷えた。


もし最初の電話がかかってきた時、ランドレが出てたら終わりだった。

イザ警部に目的を話したその後で、説得という名目でシャドルチェから

電話越しに自爆を命じられ、直後に迷わず決行しただろうから。

何のかんのと難癖を付けて外部との接触を断っていた判断は、今思えば

唯一の命綱だったらしい。「魔王」の力をしつこく試していたおかげで

助かったって事だ。…何だかなあ。結果オーライにも程がある。


と言うわけで、事件は解決した。


シャドルチェは捕らえられ、恐らく極刑か終身刑になるらしい。まあ、

それに対してもはや言う事はない。やった事がやった事だからな。

「洗脳」の天恵に関しては、発動を阻害する方法まで全て自白させた。

どうやら目を塞げば大丈夫らしい。くれぐれも気をつけて欲しい。


当然、俺はイザ警部にめちゃくちゃ怒られた。覚悟はしていたけど。

あれだけ勝手な事をしたんだから、甘んじて怒られるしかなかった。

もちろん親にも怒られた。どっちの親にもしこたま絞られた。

ただひたすら謝るしかなかった。


だけど、俺はこの警部がいい人だと知った。俺だけの方法で。


殴りかからんばかりの剣幕で怒鳴りながらも、この人は俺に対して全く

黒い影をまとわない。つまり悪意をひとかけらも持たないままだった。

憎いから怒ってるんじゃない。ただ純粋に戒めようとしているだけだ。

こんな風にちゃんと叱ってくれる人だからこそ、ひたすらに謝った。

もう心配かけまいと誓った。本当にすみませんでした。



悪くないよな、魔王の天恵も。


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一ヶ月後。


「ただいま帰りました。」

「おかえり。」


ランドレの帰宅を迎えたペイズド氏が、紅茶を淹れながら問いかける。


「もしかして、行ってきたのかい?天恵宣告を受けに。」

「ええ。」

「あの喫茶店に?」

「とんでもない。…あれだけ迷惑をかけたんですから。」

「そうだな…。」


ペイズド氏は小さく苦笑する。


「じゃあ、割と高かっただろう。」

「まあ多少は。」


答えたランドレも笑みを返した。



穏やかな沈黙ののち。


「それで、どんな天恵だった?」

「血は争えませんね、本当に。」

「うん?」


向き直ると同時に、ランドレの瞳が妖しい紫色の光を放つ。

ペイズド氏の確かな記憶は、そこでぷっつりと途絶した。


「…仲良く生きていきましょうね、ペイズド伯父さん。」


その瞳に光を宿しつつ、ランドレは艶然と微笑んでペイズド氏の左頬を

軽くなぞる。



その表情は、間違いなく大人の気配を感じさせるものだった。

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