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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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頑張る騎士リマス

今さら冷や汗が出てきた。

何と言うか、こんな事態になるとは思ってなかった。


いや、やった事を思い返せばそんな言い訳は全然通らないんだけど。

それはしっかり分かってるけど。

でも正直、こんなにあっさり相手が姿を現すなんて思っていなかった。

ダメモトもダメモトだっただけに、心構えが何にも出来ていない。

…………………………

とは言え。


あたしは、グッと拳を握り締めた。


まさかこの状況で、ドラーエ先輩やシュリオに丸投げするなんて選択は

間違っても出来ない。現状を招いた原因は、間違いなくあたしの独断。

ここで投げ出したりしたら、まさに騎士隊の名折れだ。面汚しだ。

どんな結果になるにせよ、あたしが今のこの状況を渡り切るしかない。

怒られるにせよ何にせよ、その後で考えるべきだろう。



覚悟を決めろリマス!!


================================


「それで?」


ラグジと名乗った女性は、あたしを見つめながら言った。明らかに、

他の二人ではなくあたしに対して。もう、いよいよ腹を括るしかない。

止まれ冷や汗。


「何か訊きたい事があるの?」

「ええ、ちょっとだけ。」


ゆっくり答えながら、足りない頭をフル回転させる。…う、煙出そう。

とにかく情報を聞き出したい。でもうかつな事を言うと警戒される。

何を言うのがマズいかなんて、今の時点で分かるはずもない。なら…


「そのお姿、大丈夫なんですか?」

「と言うと?」

「お聞きした限り、お友達か誰かの姿なのかと思ったので。」

「ああ、それは大丈夫。」


思ったよりあっさり答えてくれた。友達という見立てが違ったのかな?


「ラグジがいるのは、この世界じゃないから。」

「…………そ、そうですか。」


なんか違った。根本的に違った。

当り障りない話を振ったつもりが、とんでもない話に繋がっちゃった。


「この世界」

つまり彼女は、少なくとも異世界と繋がりを持っているって事になる。

言葉を信じるなら…って話だけど、嘘を言ってる雰囲気は全くない。

チラと目を向けると、ドラーエ先輩もシュリオも緊張の面持ちだ。

今の話の危うさを、否応なしに実感してるからだろうな。凄い分かる。

すみません、変な事に巻き込んで。


更に頭をフル回転させる。とにかく話をしないと。

可能なら、彼女が異世界と関わりを持っている事への確信が欲しい。

だけどまさか、それを面と向かって訊く訳にもいかない。もしさっきの

ひと言が失言だったとすれば、次の瞬間に襲われる可能性だってある。

正直、あたしの持つ天恵でどうこう出来る相手では…

…………………………


うん?

ちょっと待てよ、あたしの天恵?

もしかしたら…いや…でも…


いいや訊いちゃえ!!


「あの、ラグジさん。」

「はい?」

「合気柔術ってご存知ですか?」


どうだ?可能性は限りなく低いけどもしかしt


「知ってる。日本の武術でしょ?」


知ってた。

あたしの天恵の内容を、知識として知ってた。

あたしも知らない「異界の知」を。



間違いなく、この人は異世界人だ。


================================


何だろう。いきなり落ち着いた。

いつの間にか冷や汗も引いていた。


まさかあたしの天恵が、こんな形で役に立つ日が来るとはね。

もし今ひとりだったら、間違いなく大笑いしてただろうなと思うよ。

とにかく、何だか気が楽になった。


「もういいの?」

「いえ。もう少しお聞きしたい事があります。」


声に気後れが無くなった事は、本人以上に相手が感じ取ったのだろう。

ラグジさんはフッと笑った。


「答えられない事もあるよ。」

「それはそうでしょう。無理にとは言いません。」

「そう。で、何?」

「確認なんですが。」


もう、ドラーエ先輩たちをいちいち見たりはしなかった。


「ゲイズ・マイヤールを倒したのはあなたで間違いありませんか?」

「ええ。あの女はあたしが殺した。それで合ってるよ。」

「ありがとうございます。」

「…………………………」


二人が息を吞んだのが判った。でもこれは単なる事実確認だ。それほど

重要な事じゃないだろう。二人からすれば、あたしはいきなり豹変した

ように見えてるかも知れない。でもすみません、ここはあたしに任せて

黙って聞いていて下さい。


あたしだって騎士隊の一員だ。別にそれほど立場的に上じゃないけど、

今の情勢への認識共有はしっかりとできている自負がある。だったら、

呼吸を掴めたこのシチュエーションは好機と捉えるべきだろう。


「失礼かもしれませんが、その事を実証出来ますか?」

「つまり、ゲイズを殺した事の?」

「出来れば、この女を捕らえた事の実証もあると嬉しいです。」

「割と欲張るね。」

「またとない機会ですので。」

「なあるほど、いいねそういうの。気に入った。」


何だろう。

あたし、この人とけっこう気が合うのかも知れない。


「分かった。じゃあコレ持って。」

「え?…ああ、はい。」


そう言って渡されたのは、あたしの足元に落ちていた木の枝だった。


「掲げ持って。」

「え…これでいいですか?」

「そう。じゃ行くよ。」


ガキン!


言うと同時に、その枝は見覚えある青緑色の輪によって固定された。

ああ、見覚えがある。これって確かあの病院で、ゲイズの遺体の左手を

固定していた輪と同じだ。つまり、あれも彼女がやったって事なのね。


「じゃあ、ちょっと離して。そんでちょっと離れて。」

「はい。」


言われるままに枝を話す。予想通り空間に固定されたままだ。あたしは

背後の二人と一緒に数歩下がった。


次の瞬間。


ダダダダン!


固定していた輪が消え、落下しつつあった枝に白い弾丸が連続で着弾。

それらは一瞬で形を崩し、そのままベットリと枝を絡め取って落ちた。

間違いない。女を絡め取っている、あの粘性物質だ。どこからともなく

現出し、高速で発射されたらしい。…何と言うか、見た事もない技だ。


あたしが求めた実証は、これでほぼ完璧になった。

目の前に佇んでいる黒髪の少女は、間違いなくあの通報者の一人だ。

今もなお計り知れない存在だけど、少なくともその一端は知り得た。


よおし。


もうちょっと渡り合おう。

ただお伺いを立てるだけじゃなく、交渉と呼べる程度にまでは。



頑張れ、しくじるなあたし!

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