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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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最後に語らんとする者

本人から直接聞いていないものの、俺なりに推測は立てられる。


ニロアナさんから得た天恵は、心を読む事が出来る能力だ。それはもう

今さら疑う理由もない。とは言え、どんな風に読めるのかについては、

詳しく訊ける状況じゃない。だから今までの展開から推測してみた。


おそらく、ネミルが読み取れるのは「今この瞬間に考えている事」だ。

俺であれ他の誰であれ、現在進行形で考えている内容が分かるだけで、

相手の記憶の中まで遡って探る事はできない。だから今も、ランドレと

ペイズドさんの思惑を把握するまでには至ってない…って事だろう。


だったら本人に訊くしかない。


================================


「…ああそうだよ。考えた事がないとは言わない。おかしい事なのか?

私の立場でそんな考えが頭をよぎるのは、それほど罪深い事なのか?」

「………………」


俺もネミルも、黙ってペイズドさんの独白を聞く。傍らのランドレも、

口を挟む気配はなかった。


「私は聖人でも何でもない。ただのありふれた人間だ。無償の愛情など

持っているかも定かでない。そんな人間が、絶対の潔白を求められても

無理と言うしかないだろう!」


正直に話せと言ったのは間違いなく俺だ。でも、もはやペイズドさんは

それとは関係なしに本音を吐露しているように見える。…だとすれば、

今のこの状況は色んな意味で彼には耐えがたいものなんだろう。


縁もゆかりもない俺とネミルには、この人を糾弾する資格なんてない。

だけど少なくとも、この人には姪を殺そうという意思は無いはずだ。

本当に明日が15歳の誕生日なら、もはや手遅れなんだろうから。


「そうですか。」


俺にはそんな言葉しか浮かばない。今日出会ったばかりのこの二人が、

どんな年月を重ねてきたのかさえも分からない。……そしてやっぱり、

こんな独白を聞いてもランドレには感情の気配が見えない。最初こそ

何か言いたげだったものの、もはや聞いてるかどうかさえ定かでない。


何なんだ、こいつは。

こんな無茶苦茶な事を始めた割に、感情らしい感情が見えてこない。

イカれた破綻者なのかと思いきや、どっちかと言うとその対極っぽい。

どれだけ煽っても「魔王」に反応を見せず、伯父の罪の告白を聞いても

心を動かさない。これじゃまるで…


まるで

何だ?


================================


「マグポット君!」


停滞した空気を破るように、外から覚えのある野太い声が響いてきた。

考えなくても分かる。イザ警部だ。…どうやら自ら現場までお越しか。


「そっちにも事情があろうが、もうこれ以上待てない!要求を言え!」

「だってよ。」


そう言いながら、俺はランドレへと視線を向けた。


「公的保証人を呼ぶか?…時間的に考えると、まだ早いと思うけど。」

「確かにまだ早いですね。ですが、要求そのものは出してもいいかなと

思っています。」

「じゃあ、お前の目的を外の連中に話していいんだな?」

「今まで、それを頑なに阻んでいたのはあなたです。今更ですよ。」

「そりゃそうか。」


思わず苦笑を漏らしてしまった。

確かに、こいつの目的をダラダラと妨害していたのは他でもない俺だ。

ならもう、とっとと…


「ちょっと待ってトラン。」

「うん?」


そこでネミルが言葉を挟んできた。…何だ、今さら何だってんだ?


「ペイズドさん。」

「…何ですか。」

「外にいるあの人。警察のおじさんの隣に立ってる人。あれ誰です?」

「え?…ええと…」


最初の爆発で汚れたガラス越しに、ペイズドさんがイザ警部の隣に立つ

女性を凝視する。沈黙は短かった。


「…私の妻ですよ。」

「奥さん?」


ああ、そう言えば最初の電話の時、中央庁舎に来てるって言ってたな。

俺があっさりと電話を切ったから、痺れを切らしてここまで来たのか。

ペイズドさんだけでなく、ランドレも外にいる彼女の姿を見ている。


「あの人がどうしたんだよ。」

「あの奥さん、赤だよ。」

「……何だと?」


赤?

つまりあの人、天恵持ちか!?


「ちなみに、何だ?」

「【洗脳】。」

「は!?」


思わず声が裏返ってしまった。

その刹那に、ネミルは素早く視線を別の方向に向ける。遠巻きの中で、

心配そうにこちらを窺っている背の高い女性――



ニロアナさんの方へと。


================================


「とりあえず、ランドレ・バスロの要求はひと通り聴きます。あまり、

強硬な交渉をするのは危険なので。いいですねシャドルチェさん?」

「はい。私はその後で説得します。…きっとあの子にも、言いたい事が

色々とあるのでしょうから。」

「ではそれで」


チリリリリン!!


けたたましいベルの音と共に入口が開き、一人の人物が駆け出てくる。

それが黒い鞄を抱えたペイズド氏である事を、場の皆が理解する前に。


「シャドルチェー!!」


叫びながら、ペイズド氏は迷いなく妻の名を叫んで駆け寄っていった。

遅まきながら状況を察し、皆一斉にざっと後ずさる。


「なっ、まさか…!!」


イザ警部が声を上げた瞬間。


「…止まれ!!」


シャドルチェ氏は右手を前に向け、駆け寄るペイズド氏に命令した。

その両目が紫色に光っているのは、遠巻きにする者たちにも見えた。

命令を聞いたペイズド氏は、まるで壁に阻まれたように急停止する。


「…!?」

「それ以上動くな!!」


立ち止まるというには不自然過ぎる姿勢で、ペイズド氏は硬直する。

誰がどう見ても、シャドルチェ氏が天恵の力を使っているという事実は

明らかだった。


「…なるほど、それがあなたの持つ【洗脳】の天恵ですか。」


異様な静寂を破ったのは、ゆっくり外に出てきたトランだった。


「……あなたは…」

「中で、全部話してくれましたよ。あなたが何を企んていたのかをね。

何ならここで暴露しましょうか?」

「!!…余計な事を」

「喋るな。」


ギイィン!!


………………………………

………………………………


そうそう、ちょっと黙ってろ。

腹黒い奴ってのは、影をまとうのも実に速いよな。その方が助かる。

姪っ子とは大違いだ。


なあ、伯母さんよ。

心を支配する天恵を持ってるのは、あんただけじゃないんだよ。



俺の「魔王」は速いぜ?

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