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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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求める決着の形

パァーン!

パァーン!

パアァァァァァン!!


「え、クラクション…誰か来た?」

「いえ、大丈夫です。」


食後の語らいの最中。

外から聞こえた音に腰を上げようとしたノダさんを止め、代わりに俺が

立ち上がって告げる。


「あれ、俺たちの車からなんで。」

「え?勝手に鳴るクラクションって怖いけど…何で?」

「ええとホラ、つまりアラームとかそういう機能ですよ。」

「車のクラクションが、アラームになってるんだ。何か凄いですね。」

「ははは。」


どうにかごまかせ……たのだろうか。まあいいや、深く考えない事だ。


「でですね。ちょっと本店に連絡を入れないといけないんですが。」

「ああ、そのためのアラームね。」

「そうそう、そんな感じです。」


ネミルのフォローもあって、何とか納得してもらえる感じに繋がった。


「あ、じゃあ廊下に電話がありますから、どうぞ使って…」

「いえいえ、そこはご心配なく。」

「え、だけど」

「携帯電話がありますから。」


ニッと笑ってそう答え、俺は懐から文庫本を取り出した。それを見て、

ノダさんも納得顔で笑う。


「ああ、なるほど。」

「じゃ、ちょっと失礼。」

「ええ、ごゆっくり。」

「こっちはこっちで、楽しくお話をしてるからね。」


ノダさんとネミルの言葉を聞き流しつつ、俺は部屋を出ると電話の前に

陣取る。さて連絡だ。



事情を知ってる人の前だと、何気に助かるなあ。


================================


『はーい。』

「ポーニーか?」

『はいはい。…いま夕食が終わったところです。』

「そうか、お疲れ。」


そこで俺は、少し声をひそめる。


「合図が来た。」

『あ、はい。どうでしたか?』

「どうやら、俺の予想が的中だったらしい。」

『と言うと、ニロアナさんを狙ってホテルに賊が現れたんですね。』

「そうだ。今はタカネが交戦中って事になる。」

『分かりました。』


そこまで聞いたポーニーの口調に、緊張感のようなものが少し混じる。


『じゃあ、あたしが通報を』

「いや。…ローナはいるよな?」

『はい。』

「じゃあ、そっちのノートパソコンからの方が安全だろうな。」

『でしょうね。』


ポーニーはかなりホッとしていた。


『それじゃ、すぐ伝えます。』

「頼む。今回は場所が場所だから、時間はかからないはずだ。」

『はい。ではまた!』

「ああ。」


そこで声は途切れた。

俺も若干緊張していたらしい。本を持つ手に、無駄に力が入っていた。


呑気に食事して丸投げ状態だけど、こればっかりは任せるしかない。



頼むぜタカネ、そしてローナ。


================================


ガキン!

ギィン!!


爪を弾くたび、細かな火花が散る。夜の空の粋な花火だ。まあもちろん

そんな平和なものじゃないけど。


「くっそぉぉ!!」


何度も飛び掛かってくるイララは、明らかにイライラしている。そう、

そういう感じで突っかかってきな。いくらでも相手になってあげるよ。


誰かが見れば、完全なる舐めプだと思うだろう。何度も繰り返される

彼女の爪の攻撃を、両腕に装着した青緑色のガントレットで防ぐだけ。

「防戦一方」なる言葉があるけど、それの亜流みたいなもんだろうね。

いくら何でも、あたしがわざと攻撃しないというのは判ってるだろう。

その上でしつこく挑んでくる辺り、このイララって女はレベルが低い。

自分より弱い相手としか戦った事がない。そんな感じだ。


ただし、あたしは別に舐めプをしているわけじゃない。

正直に言えば、あたしも拓美もその言葉は嫌いだ。誰が好き好んで、

相手を見くびったまま戦うもんか。あたしはただ、手加減してるだけ。


同じ事じゃないかって?

とんでもない。


もし相手に対して手加減をする事が舐めプだと言うのなら、あたしには

ほとんどそれ以外の選択肢がない。冗談じゃない。強いから誰相手にも

見くびった態度を取ってるなんて、そんな見方は心外もいいところだ。


あたしが強いのは、単なる事実だ。そこにあたしの意志は存在しない。

相対する敵があたしより弱いのも、またひとつの事実でしかない。

そして何度も言った通り、勝利とは望む結果を得る事だ。そのために、

手加減する機会はいくらでもある。今回なんかは、まさにそうだろう。


イララ・イグアは今日、ロンデルンに計り知れない恐怖をバラ撒いた。

明らかに人間業でない惨殺死体を、街中に誇らしげに晒して見せた。


もちろん、その事に憤っているって訳じゃない。悪いけどあたしには、

殺されたターラ・カミナスに対する思い入れも何もない。ああそう、と

思うだけだ。薄情かも知れないけどそれが現実。だから間違っても、

弔い合戦なんかやるつもりはない。あたしがここに来たのは、ただ単に

ニロアナを守って欲しいとトランに頼まれたから。ただそれだけの事。


じゃあ、ここですべき事は何か?

もちろん、イララを倒して確保するという選択肢もあるだろう。彼女が

ロナモロス教の人間だというのは、もはやほぼ確定事項だ。尋問すれば

情報も得られるかも知れない。まあこの女の気性を知っている者なら、

あまり貴重な情報は教えないだろうとは思うんだけど。


だけど、今はそうすべきじゃない。多分ローナもそれは認めるだろう。

彼女はいつも大局的なものの見方を崩さないけれど、だからといって

トランたちの義憤や正義感を否定もしない。むしろ尊重してすらいる。

だったら、今回の事でトランが何を優先するかも汲んでいるだろう。


後は、あたしが片を付けるだけだ。

オラクモービルの分体から、合図はもう既に送っている。場所的に見て

そろそろだと思うんだけど…


おっと。

お出ましみたいね。



そろそろこのグダグダ勝負も決着といこうか。

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