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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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イララ・イグアのお仕事

うーん、やっぱり慣れませんねぇ。まあ、まだたった2日だからかな。

…個人的には、前のお顔の方が好みでしたよ。だからちょっと残念…


余計な話はいい。

やる事は分かってるな?


もちろんですよ。しっかし人使いが荒いですねえ。昨日だって…


喜んでやってただろうお前。世界一目立つ死体とか何とか言って。


ああ、そうでしたね憶えてました?まあ、テンション上がっちゃって。

ターラちゃんも、意外と最期に少し有名になれて本望だったかも?


済んだ事はあれこれ掘り返すな。

時間が無いんだから、余計な寄り道するんじゃないぞ。


了解でーす。

まあ、相手一人だけですからね。

チャッチャと済ませてきます。


あんまり油断するなよイララ。


はあい。

行ってきまぁす、オレグスト先輩。



帰ったら、ご褒美ヨロシク。


================================


ロンデルンの街は好きじゃない。

だけど、夜だけは実に魅力的だ。


昼間とはまるで違う妖しい街灯りの中に、昼間とは違う人が群れ集う。

綺麗なものより汚いものが夜の主役となり、誰もが素顔をさらけ出す。

獣のような、醜く美しい素顔を。


そういう空気が、いつでもあたしをゾクゾクさせてくれる。

「いけない気分になる」というのは多分、こういうのを言うんだろう。


実の兄と肉体関係を持った時も。

それを責める母を嘲笑った時も。

父と母に死ぬほど殴られた時も。

実家を永遠に追い出された時も。


あたしは昂っていた。どうしようもなく、高揚していた憶えがある。

血の混じった唾を吐き捨てながら、こうやって満月を見上げてたっけ。

思えばあたしは、昔から獣みたいな生き方を求めていた気がする。


当然のように犯罪に手を染め、男を貪りながら街から街へと流れた。

ロナモロス教の門を叩いた動機は、まったくの気まぐれだ。信心なんて

欠片もないし、ローナに帰依する気など輪をかけて持ち合わせてない。

もらえる力があるならもらいたい。何の期待もなく、そう考えていた。

どうせ体を売ったお金なんだから、天恵宣告のために残らず渡しても

惜しいとはまったく思わなかった。


その時、ちょっと感じたっけな。

この連中、立派な事言ってるけど、内面は俗っぽくてドス黒いなって。

別に嫌悪感なんてなかった。いや、むしろ親しみさえ湧いてたっけな。

宗教の名の下にヤバい事をするの、何かとってもゾクゾクするじゃん。


そして得た天恵は【獣化】だった。


思わず笑っちゃったよ。



あまりにも、あたしらしくて。


================================


かつて魔獣と呼ばれた、古の魔物。


あたしの天恵は、その力を疑似的に己の身に宿すという代物だった。

本物を見た事なんてないから、多分あたしの想像の産物なんだろうな。

何にせよ、得た力は最高だったよ。


聖都グレニカンの襲撃は、ホントに楽しかったなあ。

一生縁がないと思ってたマルコシム聖教の大聖堂に、転送で殴り込み。

遠慮なくやれって言われてたから、文字通り遠慮なく暴れ回った。

魔獣相手にあたふたしている衛兵の体を、片っ端から切り裂いたっけ。

好き勝手暴れていいというお達し。あれほど楽しいひと時はなかった。


だけど、まあ分かってはいたよ。

こんな事ばっかりしてれば、きっとろくでもない終焉を迎えるってね。

天恵に頼りっきりのゴリ押しでは、世界を大いに騒がせる事は出来ても

世界を変える事は到底できない。

ネイルもオレグスト先輩も、それは重々承知なんだろう。その上で、

天恵を廃れさせた世界を思いっきり挑発している。その過程でどれだけ

人が死のうが傷付こうが、気にするあの人たちじゃないだろう。


それでいいじゃんと、心から思う。


あたしだってもう、ろくな死に方をしないって確信を持ってる。なら、

今さら小利口ぶって未来を探すのは違うと思える。あたしはあたしの、

やりたいようにやるだけって話だ。割り切ればこそ、心も軽くなる。


だけど、ターラを殺すのはさすがにちょっと心が痛んだ。ちょっとね。

とっても便利な天恵なのに、肝心の自分の顔が変えられないのはねえ。

それに変に道理を語るもんだから、正直あたしもちょい煙たかったな。


ネイルとオレグスト先輩の「変相」をやった時点で、死は決まってた。

本人が覚悟してたかどうか、それはもはや誰にも分からない。永遠に。

まあ、あれだけ目立てたんだ。あの地味子ちゃんには過ぎた最期よね。


さあて、と。

今夜はもうひとつだけ、お仕事だ。


オレグスト先輩も大胆だよね。

あんな派手な猟奇殺人を演出して、翌日にしれっと式典に参加だもの。

しかも王立図書館の落成式。まあ、あたしには縁のない場所その2だ。

思った以上に退屈だったし、王族の参加がなかったのは残念だったな。

いれば絶対、爪を立てただろうに。


それでも収穫はあった。

顔を変えたオレグストさんが、あの場にいた人間の天恵を残らず見た。

ほとんどスカだったけど、やっぱりスカの中に当たりはあるもんだね。


絵描きだったっけ?まあ、あたしはそういうのよく分かんないけどさ。

とりあえず、お迎えに上がろう。


あ、あれだあれだ。

ホテル・マルニフト。縁のない場所その3だね。いかにも高級そう。


よっと。


屋上に着地。我ながらほれぼれする跳躍力だ。さすがに時計塔はかなり

難題だったけど、高い所は大好き。んじゃ、お邪魔しましょうかね。


確か落成式の来賓は、12階の南側の部屋だったっけ。ええっと…

あったあった。おおっと、ご親切にネームプレートが入ってるよ。


何だっけ、えーと…

そうそう、ニロアナ何とかだった。割とキレイどころだったわよね。

…………………………


あった!

うわあおスイートルーム。んじゃ、お邪魔しま…


「ちょい待ち。」



いきなり、背後から声がした。


================================


…は?

このあたしの

獣化しているあたしの


背後に?


「どこが無駄なんだか。」


ゆっくり振り返った目の前で、そう呟いたのは金髪の女だった。

見惚れるほどの美人だけど、何かがおかしい。いや、見た目以外全てが

違和感の塊だ。…何だこいつは?


「誰よあなた。」

「まず己が名乗りなさいよイララ。それが礼儀ってもんでしょ?」

「…………………………は?」


何だ?

何でこの女、あたしを知ってる?


「何で知ってる?って顔ね。まあ、種明かしは控えるけど。」


そう言って、女は腕組みを解いた。


「でもまあ、質問には答えるよ。」

「……」


何なんだ

こいつは



「あたしの名前は、タカネ。」

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