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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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ロンデルンでの出店

凄惨な事件だ。恐らく明日の朝刊でデカデカと報道されるだろう。

それでも街は回っていく。



それが大都市ってもんだろうな。


================================


遺体が誰なのかは、警察よりも早く突き止められた。さすがは恵神だ。

とは言え、うかつにそれを通報する訳にもいかない。もし下手を打てば

俺たちが犯人だと思われかねない。悪いけど、そこまで関与はしない。


案の定と言うか、野次馬の中に天恵持ちは一人もいなかった。

まあそうだろうな。純粋な猟奇殺人なら、犯人が来てる可能性もかなり

高かった。でもこれは、間違いなくロナモロス教団内の粛清だ。なら、

わざわざ見に来るとは考えにくい。さほどガッカリもしなかった。


それでも明らかになった事はある。

事件発生は昨夜だ。なら、あるいは実行犯や共犯者がまだこの街にいる

可能性は残っている。少なくとも、「昨日まで誰かがいた」って事だ。

それも、【変相】の天恵持ちを殺す采配が出来るだけの立場の誰かが。

予想を超えてきたな、この街は。


と言っても、俺たちがやるべき事は変わらない。

ここまで来たんなら商売だ。もう、開き直って繁盛店を目指してやる。


言い方は悪いけど、俺たちにとってターラ・カミナスはただの他人だ。

弔い合戦をする気もないし、無理に報われる道を探そうとも思わない。

ネイルたちに加担していたのなら、あんな最期も無くはないだろうし。

俺たちは神でも悪魔でもない。ただ俺たちの道を行くだけだ。


…まあローナは恵神だし、俺は魔王だけども。



それは言いっこなしで。


================================


てなわけで、露店の出店許可を役所で申請した。…あっさり通ったよ。

さすがに車両ってのは驚かれたが、役人も意外と融通の利く人だった。

いいね、こういう大都市ならではの懐の深い混沌は。


「ただし、駅前や官庁の前などでは控えて下さい。いいですね?」

「分かりました。」


そこは大人しく承諾だ。さすがに、そんな場所で店を開く気はないよ。

と言うか、もしやったらパンクするのが目に見えてる。俺たちも結構、

ここに来るまでにそこそこの経験を積んだからな。


どこの街でも、けっこう客は来る。もちろん物珍しさもあるだろうし、

何と言っても喫茶店だ。単価が安い事もかなりプラスに働くんだろう。

そしてもうひとつ。俺たちが原則、一日しか営業しないのも大きい。

物珍しさで来てくれた客が、その後リピーターになるかは分からない。

満足度云々以前に、次の日には店が無くなるんだから分かるワケない。


恐らく俺たちは、キッチンカーなる営業形態としてもかなりの異端だ。

当然だろう。何と言っても俺たちの店には、タカネとモリエナがいる。

本店からは離れていく一方の無茶な運用が成立しているのも、彼女たち

二人が協力してくれていてこそだ。あえてタカネの言葉を借りるなら、

「チート経営」という奴だろうな。そこはしっかり自覚していますよ。


そもそもの目的は、ロナモロス教の副教主を探し出す事だ。店の営業は

そのための手段に過ぎない。だからこういうチートも是としている。



あらためて思うと、気楽なもんだ。


================================


そんな次第で、気持ちを切り替えて開店準備に取り掛かる。


「やってはいけない場所」の指定をされたって事は、逆に考えれば割と

選択肢が多いとも言える。なので、少しは知ってる場所を選んだ。


「いいんじゃない?広いし。」

「だろ?」


見渡したローナのその言葉に、俺はいくぶんドヤりながら答える。


ここは、王立図書館の前の広場だ。緑も多いし休憩スペースもあるし、

何よりビジネスマンがほぼいない。探り探りの営業にはもってこいだ。

ただし図書館に持ち込まれると困るので、この場で提供するだけだ。

もし極端に客が来なかった場合は、そういうものだと割り切る。まあ、

首都と言っても何日も逗留する気はないから、これも経験だろうな。



さて、いざ開店だ。


================================


「ありがとうございましたー。」


はあ、やっとひと息つける。


俺もネミルも少しバテ気味だった。何と言うか、甘く見ていたらしい。

図書館から出てきた人が、思ってた以上にまっすぐここへ来てくれる。

館内飲食禁止ってのが、予想以上にいい相乗効果になってるんだろう。


「忙しいわね。さすがは首都。」

「まあ…な。」

「疲れるねー…。」


やっぱり俺たちは田舎者だ。ここへ来ると、いちいち振り回される。

まあ、社会勉強の一環と思えば別にいいんだけど…


「ん?」


ちょっと目を逸らした間に、ローナの姿が視界から消えていた。あれ、

どこ行った?ってか、何で消えた?何か重要なものでも見つけたのか…

って、客だ客だ。とりあえず接客を最優先にしないとな。


「いらっしゃい…ま…」


「こんな所で仕事?」


声が途中でつっかえてしまった。

目の前に立つ、女性客の顔を見て。


「えと…」


チラと目を向けてみると、隣に立つネミルの顔も若干強張っていた。

多分、俺も似たようなもんだろう。


…来て欲しくない人が来た。

しかし、さすがにこれは予想外だ。

ローナが姿を消したのは、おそらく彼女を見かけたからだろうな。


…しゃあない、切り替えよう。


「お久し振りですニロアナさん。」

「噂には聞いてたけど、まさかこの街に来てたとはねぇ。」

「え、ええ。」

「元気そうで何より。」


何でこの人がいるかなあ。



いや、前の時もそうだったけど。

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