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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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遺体の正体

現場は、やはり騒然としていた。


街の人間だけでなく、観光客らしき人たちも集まって見上げている。

ロンデルンの象徴の一つと言うべき時計塔。観光名所としても名高い。

前に来た時も二人で観に来たっけ。時期を問わず賑わっている場所だ。


しかし今、人々がそこに集っている理由はかなり特異だ。


塔のてっぺんにある細い飾り棒に、一人の若い女性が刺さっている。

下から見ても、もう既に死んでいるのは判った。何とも奇怪で、しかも

おぞましい光景だ。かなり高いから顔までは見えないけど、残酷極まる

殺害方法と言わざるを得ない。


「…何かの見せしめか?」

「あるいはメッセージとかね。」


やや後方で経緯を見守りつつ、俺はローナとそんな言葉を交わした。

普通の殺人でない事くらい、俺でもすぐ判る。自殺の可能性も低い。

あそこまで登って、飛び降りでなく串刺しってのは無理があり過ぎだ。


これはまず間違いなく殺人であり。



天恵の宣告を受けた者でなければ、絶対に成し得ない凶行だ。


================================


既に遺体の発見からそこそこ時間が経っているらしい。遺体を搬送する

作業員の姿も小さく見える。多分、もう少しで下に降ろされるだろう。

時計塔の中に搬入するのはおそらく無理だから、吊り下げて下ろすか。

…いずれにせよ、かなり気が滅入る苦行だろうなと思う。


「降りてきたぞ!」


見上げる観衆たちの中から、そんな言葉が聞こえる。なるほど確かに、

しっかり縛られた遺体がゆっくりとロープで降ろされていくらしい。


「…嫌な見世物だな。」

「ホントだよね。」


俺の言葉にそう答えつつ、ネミルが油断なく周囲を見回す。ちなみに、

ローナも同じアクションだ。これが猟奇殺人なら、やった本人がここで

見ている可能性がある。だったら、怪しい天恵の持ち主がいないかは

今しか確認できない。ネミルの持つ指輪は、こんな時にこそ役に立つ。

二人とも無言だ。けど、それらしい人間がいないというのは肌で判る。

さすがにそこまでスピード解決とはならないって事だな。


「もう少しね。」


その間にも、遺体はゆっくりと下に降ろされつつある。突き出た屋根が

ない塔なので、その点は楽だろう。数分で遺体は地上近くまで達した。


しっかり縛り付けてはあるものの、袋詰めされているわけじゃない。

ここまで低くなれば顔も丸見えだ。…なるほど、確かに若い女性だな。

もちろん見覚えはない。少なくとも顔はまともに残ってるけど…


「ん?」


そこで怪訝そうな声を上げたのは、ローナだった。

目を向けてみれば、何か厳しい表情で降りてきた遺体を凝視している。


「どしたの?」

「あの子の天恵が見えた。」

「あ、そうなんだ。」


タカネの質問に答え、ローナはその目をネミルに向ける。


「あなたは見えるの?」

「いえ、あの子は無理みたいです。条件によると思いますけど。」

「そっか…」


ほんの数瞬だけ考え込んだローナはやがて、俺たちに告げる。


「ちょっと店に戻ってくる。」

「え?どうして?」

「説明してる暇はない。じゃ。」


シュン!!


止める間もない。慌てた俺たちは、辛うじて彼女が「消える」瞬間だけ

それぞれの体で囲って隠した。



何だ、何をそんな急いでるんだ?


================================


それからさらに数分後、遺体は下で待っていた救急隊員に回収された。

当然の事ながら、衆人の前にその姿をわざわざ晒すような事などない。

迅速に遺体袋に収め、待機していた救急車に乗せられて去っていった。

それを見届けた野次馬が、少しずつ場から去っていく。騒ぎは終わり。

ここから先は警察の発表待ちという事なんだろうな。


「…で、ローナはまだか?」

「何してるんだろうね。」

「わざわざ店に戻ったって事は…」


シュン!!


「ただいま。」


そんな事を言い合っている最中に、当のローナが転移で戻ってきた。

相変わらず、厳しい表情のままで。


「確認してきた。」

「誰に何を?」

「さっきの死人が誰だったのかを、モリエナにね。」

「えっ」


モリエナに訊きに行ったって事は、やっぱりロナモロス関連の人間か。

つまり面通しって事か、なるほど。


モリエナは、もちろんロンデルンに共転移で来る事が出来る。何たって

ここは首都だ。何かとロナモロスの幹部を運ぶ機会も多かっただろう。

しかしロンデルンも広い。もし仮に呼んだとしても、ドンピシャでこの

時計塔前に来られるとは限らない。無用な騒ぎを起こす可能性もある。

オラクモービルの駐車場所も遠い。

とすれば、やはりローナがあっちに戻る方が安全だ。しかしその場合、

どうやってあの遺体の顔をモリエナに見せるかが問題になってくる。


そこでローナは、最も手っ取り早い方法を選んだ。

上から降ろされている間なら、あの遺体は確実に時計塔の傍らにある。

つまり座標がほぼ動かない。なら、ノートパソコンの画面にあの遺体を

表示出来る。回収作業が終わる前にそれを、見せようとしたって事だ。

…咄嗟によくそこまで判断したな。


「それで、どうだったんだ?」

「予想通りよ。前にモリエナ自身が話してくれた教団員に違いない。」

「誰ですか?」

「ターラ・カミナス。」


ん?

確かにモリエナが言ってたっけな、その名前。だけど誰だったっけ?

何しろ色々と聞いたから、具体的に誰だったのかまではなかなか…


「つまり【変相】の天恵の持ち主。紛れもない重要な天恵持ちよ。」

「ええー…?」


俺とネミルの声が被った。


【変相】だと?

…つまりあれか、他人の顔を自由に変える事が出来るって天恵か。

逃げようとする、過去を捨てようとする人間にとっては重要な天恵だ。


...まてよ。

それが殺されたって事は、つまり…


「ネイルたちが今どんな顔になっているかは、これでもう絶対他人には

判らなくなったという事ね。つまり用済みを始末したって事よ。」

「…………………………」


マジかよ。



信じたくねえよ、そんな話。

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