表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
371/597

猟奇の首都ロンデルン

相変わらず、俺たちの目的地は漠然としている。


とは言え、自動車で移動する速度がたかが知れているのも事実だ。

毎日少しずつ南下してはいるけど、なかなか国を縦断とはいかない。

気に入った街は数日の逗留もする。結果的に、更に移動速度は落ちる。

まあ、そんなに焦っても仕方ないと開き直ってる感じだ。


それでも、いつかは辿り着く。

首都ロンデルンに。



もう、明日の午前には着くはずだ。


================================


「いやあ、ついに来たんだね。」


すっかり夜になった。今日も当然のように車中泊。さすがに慣れたな。

紅茶を啜りながら、ネミルが実感のこもった口調でそう呟く。


「鉄道で行った時の時間を考えればやっぱり、遠くまで来たよね。」

「尻が痛かったんだよなあ…。」


そう。

俺とネミルは、以前にロンデルンに行った事がある。片道6時間かかる

なかなかハードな鉄道の旅だ。あの経験があったからこそ、そこへ車で

辿り着く事にはやはり感慨が深い。


『首都か。あたしもローナと一緒にそこそこウロウロしたけど、意外と

ロンデルンは行ってないのよね。』

「そうなんですか。」

『あたしのいた世界に置き換えると「ロンドン」になる街よ。』

「やっぱり似てるんだな。」


タカネの話は、いちいち興味深い。

彼女がいた世界と俺たちの世界には共通項があるらしい。国も然りだ。

世界地図で当てはめれば、そこそこ該当する国があるんだとか。


『あたしは過去に二つの世界を見てきたけど、その二つも似ていた。

少なくともここよりはね。異世界というのは、意外と似てるもんよ。』

「見てみたい気もするけど、やっぱ怖いからいいや。」


「異界の知」が存在する以上、俺も昔から異世界の存在を信じていた。

恵神が実在するんだから、こことは違う世界だってあるんだろうなと。

しかし実際にこういう話を聞くと、本当なんだという事実に少しばかり

圧倒されてしまう。まあ、限りなく今さらな話ではあるけど。


ともあれ、明日はロンデルンだ。

首都でキッチンカー商売がどこまで受け入れられるかも見てみたいし、

何かしらロナモロス教の手がかりが掴めるかもしれない。いずれにせよ

得るものが多い事を祈るばかりだ。



明日に備えて早く寝よう、うん。


================================


俺もネミルも、翌朝は日の出の前にバッチリ目が覚めた。…遠足かよ。

うきうきしてる…ってのはさすがにちょっと違う。遊びに行くわけじゃ

ないって事も含めて。いずれにせよ意気軒高だ。このテンションのまま

乗り込んでやろう。


「んじゃ行こうぜ。」

「出発!」

『着いたらガソリン入れてよ。』


…………………………

すみません。

相変わらずガス欠ばっかりで…


================================


天気は快晴、雲ひとつない。上々のお上りさん日和である。

車道からロンデルンに来た事は過去一度もないから、少し緊張した。

実際、中央ブリッジの入口の検問でちょっと変な顔されたし。


とは言え、思ったよりもスムーズに街に入れた。さすがはロンデルン、

交通量が段違いだ。多少見てくれが奇抜でもさほど注目されない。

俺たち的には大助かりだ。


「おはよー。」


後部コンテナから唐突な声が響き、窓からにゅっとローナが顔を出す。


「おはよう。」

『おはよう。』

「おはようございます。向こうは、どんな感じでした?」

『ディナも慣れてきてるね。完全に開き直ってトモキを預けに来るよ。

育児放棄しているようにも見える。まあ仕事が忙しいんだろうけど。』

「姉貴らしいな。」


むしろ、そっちも大助かりだ。

出発は限りなく唐突だったものの、ある程度の確信は持っていた。

細かい事は気にしないディナなら、そのうち慣れてくれるだろうと。

思っていたよりずっと早く、現在の俺の店を受け入れてくれたらしい。

ペイズドさんたちの事もそれなりに信じてくれたなら、何よりだ。



心置きなく、ロンデルンで情報収集と商売に励むとしよう。


================================


「…………………?」


何だろう、この妙な空気は。

とりあえずオラクモービルを有料の駐車場に預け、散策する事にした。

観光ってほどじゃない。と言うか、俺とネミルは二度もここに来てる。

今さら田舎者丸出しの態で、ここをウロウロしたくはない。

どっちかと言うと、タカネとローナが「一度ゆっくり街を見たい」と

揃って言い出したのである。まあ、特に反対する理由もないからな。

久々にタカネがオラクモービルから離脱し、人の姿を成す。何だろう、

この人がトラックを力ずくで走らせ続けてる事実は、笑いそうになる。


何はともあれ、揃って元気よく歩き始めたものの…


「何だか慌ただしいわね。」

「事故でもあったのかな?」


周囲を走る人たちの様子に、ローナとネミルが怪訝そうにそう言った。

確かに何かおかしい。朝の騒々しさとは根本的に違う、不穏な空気。

ってか、みんなどこ行くんだ?


「ちょっといいですか。」

「うおっ何だ!?」


傍らを通り抜けようとした男性を、タカネが素早く掴んで止めた。

何と言うか、有無を言わさずだな。


「何かあったんですか?」

「知らねえのか姉ちゃん。」

「何しろ来たばかりでして。」

「変死体だよ変死体!」


「え?」


男性のひと言に、タカネだけでなく俺たち三人も眉をひそめた。

いきなり変死体だと?


「時計塔のてっぺんに、女の死体が刺さってたんだとよ!じゃあな。」


そう言い捨て、男性はタカネの手を振りほどいて駆け去っていった。

場に残った俺たちは、何となく顔を見合わせる。


「何か、いきなり物騒だな。」

「とりあえず行ってみよう。」

「え、行くんですか?」


ネミルが露骨に嫌そうな顔をする。


「着いていきなり変死体なんて…」

「タイミングが良かったとも言えるでしょ?仮に何にも関係なかったら

忘れてしまえばいい。でも、もしも関係ある話なら見逃せないわよ。」

「確かにそうね。」


答えたタカネが俺たちに告げた。


「嫌なら見なきゃいい。だけどまず行ってみよう。必要なら、あたしが

検分するから。」

「分かった。いいなネミル?」

「うん。」


ネミルも今度は迷わず頷く。

何しろ手がかりが欲しいところだ。なら、野次馬根性も必要だろう。


「んじゃ行こう。」



やれやれ。

ロンデルンも穏やかじゃねえなあ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ