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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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その先にはいつも

「どうですか。」


そう問いつつ、帰ってくる言葉にはある程度の確信があった。

同じ天恵を持たずとも、周囲の状況を見れば推測は簡単に立てられる。


「ああ、【氷の爪】だ、間違いないだろうな。」

「やっぱりそうですよね。」


思った通りだ。検分したナガト先輩としても、確信はあったのだろう。

イーツバス刑務所が襲撃され、囚人がたった一人だけ姿を消した。

それだけのために、職員は皆殺しにされていたらしい。狂気の沙汰だ。


しかし僕とナガト先輩にとっては、それほど異様な光景でもなかった。

いや、凄惨である事に異論はない。許せない行為だというのは事実だ。

異様でないというのは、覚えがあるという意味である。


ここを襲撃したのは、あの女だ。



もう間違いないだろう。


================================


ゲイズ・マイヤール。


去年、名義だけの神託師三人を殺害した天恵持ちの女だ。調査の結果、

素性は何とか探り当てた。もちろん天恵を持っている事はほぼ知られて

いなかった。どういう人間なのかもほとんど分からなかった。


謎多きゲイズは、いきなり死んだ。正確に言えば、殺されていた。

僕の実家近くにある病院で、右腕を溶かされ、首を折られた状態で。

何がどうしてその末路になったのかなど、皆目分からなかった。


それでも、ゲイズが【氷の爪】なる天恵を持っていた事は判明した。

遺体が残っていた事、どこにあるか匿名の通報が入った事。それにより

ゲイズという人間の危険性がかなり明らかになっていった。


そしてこの女は、マルコシム聖教のニセ教皇女殺害にも関与している。

大胆にも王宮に潜入し、ニセ教皇女を自殺に見せかけて殺したのだ。

ナガト先輩が暴かなければ、これは決して判明しなかった事件だろう。


これが判明した事により、ゲイズがロナモロス教の一員だという推測は

ほぼ確定となった。何と言っても、僕とリマスが本物の教皇女から直接

聞いている。マルコシム聖教の聖都グレニカンが、ロナモロス教の手で

どのように陥落させられたのかを。今さらそこに、疑う余地などない。

覚悟していた以上に、ロナモロス教は危険な集団になりつつある。

ゲイズの存在はある意味、今の教団の在り方を端的に示していたのだ。


それでも、どこかで楽観していた。ゲイズはもう既に死んだのだから、

これ以上の凶行はないはずだと。


甘かった。

ゲイズの遺体は埋葬地から消えた。新たな犠牲者を残して。

何が起きたのか、さすがの陛下にも分からなかった。ゲイズはあの時、

確かに死んでいたはずだ。それが、どうして忽然と消えたのだろうか。

誰か関与しているのは間違いない。おそらくはロナモロス教の人間だ。


正直に言うと、信じたくなかった。

ゲイズ・マイヤールが蘇ったとは。



しかし、現実は残酷だ。


================================


「とにかく戻ろう。情勢はなかなか深刻だ。」

「はい。」


そう。

ナガト先輩の言う通り、深刻な事態が連鎖しているのは間違いない。

もしこのイーツバス襲撃が復活したゲイズの仕業であれば、企てたのは

間違いなくロナモロス教だ。つまり連れ去られた囚人は、ロナモロスに

接触する可能性がきわめて高い。


どうにも危険な組み合わせだ。


ニセ教皇女の件からこっち、教団の動きはほとんど予想できない。

ある意味、それまでの方がまだ少し先読みが出来ていた気さえする。

何があったのか、とにかくやる事が予想の範疇に収まってくれない。

だとしても、放っておくというわけには行かない。甘く見ると、世界を

騒乱に陥れかねないだろう。決して大げさな話じゃない。


「どうにか、一連の動きに共通項を見い出せればいいんだが。」

「そうですね。」


ナガト先輩からの言葉に対し、僕はそれ以上の言葉を返せなかった。


何の見当もつかなかったから、ではない。むしろその逆と言うべきか。

ある程度まで見当がつくからこそ、軽々しく口に出来ないって話だ。

共通項は意外と鮮明に見えている。僕だからこそ、とも言えるけれど。


そもそもゲイズがイーツバス刑務所から連れ出したのは、誰なのか。

名はシャドルチェ・ロク・バスロ。【洗脳】の天恵を持つ危険人物だ。


そしてこの女は、自分の夫と姪とを爆殺しようと企んだらしい。

どこで?


神託カフェのオラクレールで、だ。つまり、トランさんたちのあの店。

逮捕された後、シャドルチェは己のやった事を本当に残さず話した。

その意外な聞き分けの良さに、僕は少なからず覚えがあった。


これは【魔王】の天恵の効果だと。


王立図書館の事件の際、トランさんの天恵を目の当たりにしていた。

あの時の犯人も、実に正直に全てを自供していたらしい。あの時と、

シャドルチェの従順さは相通じる。


そうだ。


ゲイズやロナモロスの凶行の影に、いつも彼らがいる。

偶然と片付けてしまうのは、絶対に無理だという確信がある。


トランさん。

ネミルさん。

そしてポーニーさん。



今、一体何をしているんですか?

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