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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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ペイズドの偽らざる本心

窓の外を窺うと、遠巻き連中の中に親父たちの姿が見えた。傍らには、

ネミルの両親の姿もある。さすがに誰かが連絡したんだろうな。


イザ警部から話を聞いたとすれば、さぞ俺の対応には怒ってるだろう。

自分でも無茶だとは思ってるけど、ここは勘弁してもらうしかない。

ってか、最初から妙な予感のようなものがあった。事情が分かるまでは

不用意に外部との接触はしない方がいいと。根拠も何もなかったけど、

とにかくそうすべきと確信した。


そして今に至る。


================================


「事情はお話ししました。なので、そろそろ交渉をお願いします。」

「俺がやっていいのか?」

「私がやりますと言っても、どうせ断るつもりでしょう?」

「まあな。」


さすがに見透かしてるか。

情緒が死んでいる割に、思考自体は至って明晰なんだよなこの女。


「交渉っていうのは、公的保証人をここに呼べって話か?」

「ええ。ただしなりすましなどでは困るので、指名させてもらいます。

別に構いませんよね?」

「俺がとやかく言える事じゃない。そのくらいは伝えてやるよ。」


言葉を交わしながら、俺は頭の中で今の状況を可能な限り検証する。


本当に誕生日が明日だというなら、今この瞬間凶行に及ぶ心配はない。

しかし、天恵を得たからと言ってもおとなしく出て行く保証もない。

どっちにしても、明日までこのままというのは、出来れば遠慮したい。


そして、問題はネミルだ。

心を読む天恵を宿しているものの、正直それが今の最善かと考えると、

どうにも確信が持てない。何より、ネミルは他の人の天恵を宿している

状態では、本来の能力が使えない。つまり天恵を見る事が出来ない。


ニロアナさんの天恵は貴重だけど、ここは判断が難しいところだ。

どっちを選ぶか…


「え?」


前触れもためらいもなく、ネミルが指輪を素早く外した。そして更に、

素早く着け直す。…いや、俺の心を読んでの判断だろうけど、何でだ?

そこまで迷いなく心を読めるという利点を捨てるのは…

そこまで考えたところで、ネミルが窓の外にじっと目を向けている事に

気付いた。何だ、何を見てるんだ?


視線を追った俺の目が、遠巻き連中の中に見知った顔を見つけた。


…ああ、そういう事か。

判断が早いなネミル。


================================


ジリリリリリリリリリリン!


店をずっと監視していたかのようなタイミングで、再び電話が鳴る。


「オラクレールですが。」

『私だ。』

「イザ警部ですか。」

『もう待てん。事情は聞いたか?』

「ひととおりは。」


さすがに、もう突っぱねる段階じゃない。いくらランドレの目的自体が

急がないとしても、店の外の混乱は想像以上だろうから。


とは言え、一線は引いておく。


『…ランドレ・バスロを電話に出す気はないのか。』

「ありません。交渉するなら現場でお願いします。」

『それは誰の意思だ?』

「誰の意思と言うより…」


言葉を切り、俺は少しだけ考えた。


「そうすべきと言う総意です。」

『…何を言ってるのか分からんが、そこまで言うのなら従ってやろう。

念のために訊くが、君はランドレの共謀者ではないな?』

「当たり前です。」

『分かった。ではしばし待て。』


ガチャン!


今度は向こうが先に電話を切った。


ああ、俺この人に嫌われてるなぁ。


================================


「それでペイズドさん。」


向き直った俺は、ずっと黙ったままになっている伯父に声をかける。


「あ、喋っていいですよ。」

「!!…どういうつもりだ君は?」

「きちんと事情が知りたいってだけです。ここは俺の店ですから。」


責めたくなる気持ちは分かるけど、俺たちだって言いたい事はある。

ってか、この人の立ち位置も現段階ではハッキリしてないんだから。

…とは言え、この人はランドレとは明らかに違う。勝手ばかりする俺に

早々と悪意を抱き、「魔王」の力で支配できるようになった。むしろ、

この方が普通の反応だろうと思う。…だったら、ネミルの天恵無しでも

事情は聴けるはずだ。


「答えて下さい。」

「…何だと?」

「今のこの状況、あなたが画策したわけじゃないんですか?」

「…していない。」


素直な回答だ。まともな感覚なら、怒って当然の質問にもかかわらず。

つまりこれは、「魔王」力によって自白しているという事なんだろう。

ランドレはと言うと、相変わらずの無表情でじっとこっちを見ている。

どうでもいいとか思っているのか、それとも彼女も聞きたいのか。


「遺産相続の権利を渡すくらいなら始末する。そんな考えを今日までに

抱いた事は無かったんですか?」

「………………」

「答えて下さいよ。」

「…無かったとは言わない。」


「そうですか、やっぱり。」


やはり抑揚のない声で、ランドレがポツリと呟く。しかしさすがに、

その表情には少しだけ陰りのような気配が見えた。

そりゃそうだよな。

理屈で分かっていても、育ての親がこんな言葉を吐いたんじゃあな。


残酷な事をしてるのかも知れない。それは分かってる。

だけど俺とネミルには、少なくとも知る権利はあるはずだ。



何たって、命かかってるんだから。

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