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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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イデナスへの道すがら

そう言えば、以前にドルナさんから聞いた事があったっけな。


ピアズリム学園が出来る以前、あの辺りは本当に畑しかなかったと。

とにかく「田舎」というイメージを払拭したかったので、鉄道の建設に

乗じて学校を誘致した。土地だけは沢山あったので、キャンパスとして

かなりのエリアを提供したらしい。結果、あんな大きな学校になった。

今では国内有数の学び舎らしい。


【不老】の天恵を持つ、ドルナさんならではの見聞である。それこそ、

学校ができるはるか以前からずっと見てきたらしい。年の功とはまさに

この事だろうな。

でもまあ、そこまで急激に都市化を進めると、色々と歪みが出てくる。

深刻な問題という訳じゃない。ただ単純に極端な環境が生まれるだけ。


そう。


駅前を抜けてちょっと南下すると、たちまち田舎になってしまう。

右を見ても左を見ても畑。遠くには連峰。どこまでものどかな光景だ。

横を見れば、沿線の建物が長く長く連なっているのは見える。だけど、

その周囲はとことん畑しかない。



さっきまでの喧騒が嘘みたいだな。


================================


あんな凄惨な事件が起きたものの、ちゃんと鉄道のダイヤは生きてる。

文化祭に来ていた人たちは、それを使って駅から退去してるんだろう。

さすがにこんな所を車で走っている人は、ほとんど見かけない。

夕闇が迫る中の、何ともうら寂しいドライブである。


「大変でしたねホントに。」

「ええ。」

「まったくです。何でいつも…」


後部コンテナで、ポーニーが二人に声をかけていた。

いくら状況を打開したと言っても、俺のやった事はあまりにも怪しい。

「そういう天恵です」で通すのは、いくら何でも無理があるだろう。

ましてや初対面の相手には。

だからこそ、二人と知り合いらしいポーニーを招聘したのである。

それも単に知り合いなだけでなく、本を使った通信まで知ってる仲だ。

そこまでならもう、俺たちとしてもある程度の事情は話せるはずだ。


とは言え、もう素性は聞いている。思った以上の大物だった。

マルコシム聖教の教皇女ポロニヤ。そして彼女の唯一の従者アースロ。

とりあえずそれだけはポーニーから聞いた。正直、少なからず驚いた。

そして、すっかり忘れてた。


「慌ただしい時期でしたからね。」

「確かにな。」


ポーニーが二人と知り合ったのは、トモキやタカネと知り合った頃だ。

つまり俺たちとしてもかなり大変な時期だったのである。それなりに

出会いの顛末に関しては聞いていたけど、だからってわざわざ関わる

問題でもない。言い方は悪いけど、ほぼ聞き流していた…って感じだ。


それが巡り巡って、こんな形で遭遇する事になるとはな。



世界は、広いようで意外と狭い。


================================


「タカネ。」

『うん?』

「しばらく運転頼めるか?」

『いいよ。』

「頼………………………………むな。」


にょろっと触手みたいなのが床から伸びてきて、ハンドルを掴んだ。

よく見ると、側面に目がついてる。ペダルの上にも太い触手が伸びた。

危うく悲鳴が漏れるところだった。


まあ、考えてみれば前部トラックとタカネは一体化していない。機能の

補助は外部取り付けらしい。それは当然だ。この部分は中古車だから。

つまり運転するにしても、内部機構に干渉するんじゃなく、こういった

物理的な方法になるって事だよな。うん、理屈ではきちんと判る話だ。


だけど、いきなりやられると怖い。それもまた事実だ。



…細かい事、気にするのはよそう。


================================


「話を聞かせてもらえますか。」

「ええっ!?」

「う、運転は!?」


後部へと移動したら、案の定二人が頓狂な声を上げた。


「自動運転機能搭載です。」

「ええっ!?」

「そ、そんな機能がもう実現…?」

「ええ、まあ。」


実に新鮮なリアクションだなあ。

タカネと付き合ってると、ついつい常識の基準がおかしくなってくる。

確かに自動車が勝手に走るシステムなんてのは、未来そのものだろう。

「ええ、まあ」で流してる自分に、ちょっとヤバいものを感じる。


でも、とりあえずそれはいい。


「ご心配なく。」

「そ、そうですか。」


俺の言葉に、二人は揃って頷いた。…何と言うか、素直な人達である。

肩書きとのアンバランスが、何とも味わい深い。いやそれは不謹慎か。


「とりあえず…」


運転席の方に振り返り、俺は気軽な感じで言った。


「シュリオさんのご実家まで行けばいいんですよね?」

「え?…あ、はい。」

「つまりあの後、提案通りあの人の実家に行ったって事ですか。」

「そうです。」


ポーニーの問いに、アースロという青年が答えた。

あの後っていうのが気になるけど、まあ前に聞いた騒動の事だろうな。

ポーニーが共通の話題を振った事により、少し緊張がほぐれたらしい。

教皇女はぽつぽつと今日までの顛末を語り始めた。


「あたしの偽者がマルニフィート様に会おうとしたのをお伝えした際、

実家を頼ればいいとシュリオさんが言って下さったんです。それまでは

寄る辺ない旅を続けるつもりでしたけど、そう言われるとやっぱり…」

「とりあえず行ってみよう、と?」

「はい。」


素直な人だな本当に。


「お母さんのセルバスさんが、思いのほかノリのい…親切な人でして。

今日までご厚意に甘える形になってしまってます。」

「なるほどね。」


セルバスさんを知るネミルが、納得したという態で深く頷く。確かに、

あのお母さんならノリノリで世話を焼くだろうな。んで、今日は息子や

娘の服を貸して送り出したのか。


ツギハギの情報が合わさった結果、妙に収まりのいい一枚絵になった。

そんな感じだろうか。


「それにしても、今日はホント災難でしたよね。」

「ええ。」


俺の言葉に、教皇女は実感のこもる声で短く答えた。


「こんなのばっかりです本当に。」

「………………………………」


アースロ君もその言葉に黙り込む。おそらく、そのままの意味だろう。

もちろん出自的なものもあるだろうけど、変な苦労が重なれば誰でも

そんな愚痴が言いたくなる。俺にも少なからず覚えがあるから。


とりあえず、聞こう。

まだ、イデナスまでは少しかかる。確かこの人も、ロナモロス教には

大変な目に遭わされているはずだ。

もちろん、俺たちにこの二人を救済する術などない。その義理もない。

二人にしても、今日会ったばかりの怪しい飲食店経営者に助けなどは

期待してないだろう。たとえそれがポーニーの雇い主だとしても。


俺たちには俺たちの目的がある。

そのための情報が訊き出せるなら、今日の救助のお代としてはそこそこ

妥当だろう。ギブアンドテイクだ。まあ、俺たちも助けられたけど。


オラクモービルは、田舎道を走る。



もうすぐ日暮れだった。

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