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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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とりあえず交代

先駆者の宿命と言うべきか、どんな状況でもオラクモービルは目立つ。


大事件の直後で混沌としているにも関わらず、やっぱり場の人々からは

かなりガン見されているのが判る。もちろんもう聴取も済んでいるから

後ろめたい事は何もない…事もないけど、もう注目は避けたい。


「とにかく移動しよう。」

『それがいいでしょうね。』


俺の提案に、誰より早く乗ったのはタカネだった。まあ事実上、注目を

直に受けてるのは彼女だからなあ。



ちょっと感覚は分からないけれど、やっぱり居心地悪いんだろう。


================================


とは言え、ひとつ問題がある。

第二講堂で、俺にポーニーの文庫本を貸してくれた男女二人組。彼らは

まだ俺たちと一緒にいる。むしろ、俺たちが引き留めている形だ。

さすがにこれでサヨナラするには、あまりにも訊きたい事が多過ぎる。


「どうする?」

「そうねえ…」


二人を車外に待たせ、俺たち四人はひそひそと相談をする。


どう見ても、ここで落ち着いて話す事は出来そうにない。目立つから。

しかし、いつまでも彼らをこの場に留めておくってのもマズいだろう。

下手すると、誘拐したという容疑がかかる可能性も出てくる。


「…あの二人って、シュリオさんの家に居候してるんだよな?」

「うん。さっきチラッと聞いた。」

「それって遠いの?」

「確か、ここからならそんな大した距離じゃないはずだ。」


行った事はないけど、イデナスってけっこう北部だ。遠くないからこそ

二人でこの学園に来たんだろうし。なら選択はおのずと決まってくる。


「…送って行こうか。」

「そうだね。」


結局のところ、落ち着いて話そうと思えばそうするしかない。

そんなに大勢乗れるサイズじゃないけど、二人くらいどうにでもなる。


「タカネ。」

『うん?』

「車内に椅子の追加できるか?」

『もちろん。』


答えると同時に、にゅっと床面から二脚の椅子が生えてきた。…うん、

そのくらいは朝飯前って事だよな。


「じゃあ、このまま送って行く事にする。だけど…」


言いながら、俺はチラッとローナに視線を向けた。もちろんローナも、

俺の言いたい事は分かったらしい。


「ああうん。さすがにあたしが一緒というのはマズいよね。」

「悪いけど、かなりそう思う。」


ここは、変に気を使うだけ無駄だ。それはみんな承知の話である。


さっきポーニーに確認した。

俺に文庫本を貸してくれた女性は、マルコシム聖教の教皇女らしいと。

聖教がどんな教義を掲げているか、そして最近どんな事が起こったか。

断片的にしか知らないし、ポーニーから根掘り葉掘り聞いてもいない。

見た限り話した限りではごく普通の女性だけど、それでも恵神ローナと

一緒にドライブというのはマズい。色んな意味でシャレにならない。


という訳で…


「んじゃ、交代しますか。」

「そうしてくれると助かる。」


そう言いつつ、俺は腕時計で時間を確認した。


「この時間ならもう、早仕舞いって事にして構わないから。」

「分かった。じゃそう伝えるよ。」

「悪いな、色々と。」

「いいって事よ。」


答えたローナは、ちょっと意味深な感じの笑みを浮かべる。


「ウルスケスとの事、あれやこれや言わなかったからさ。」

「…まあ、な。」


俺も苦笑を返した。


俺やタカネが魔者の対応をしていた時、ローナはウルスケスに遭った。

どうやら彼女の持つ天恵の気配を、魔者の全滅と共に感知したらしい。

そう言えば、距離が近いとそういう感知も可能になるんだったっけ。

やはり、今回の襲撃の犯人は彼女で間違いないらしい。そして彼女は、

ロナモロス教団を抜けたんだとか。吉報か凶報かは今は判断できない。


そしてローナは、話だけ聞いて場を去った。ウルスケスを捕らえるとか

断罪するとか、そういう話には別にならなかったらしい。


何でだよと詰め寄るのも、ひとつの選択だったとは思う。騒動の元凶が

ウルスケスなら、やった事に対する償いをすべきなんじゃないのかと。

なぜ見逃したんだというのは、ごく自然な疑問としてアリだろう。


だけど、もうそこにいちいち異議を差し挟むのは違うと思っている。

俺たちは俺たちなりに、そこにいるのが恵神ローナだという事実を、

受け入れてここに集っている。


天恵宣告を受けた者が天恵を使って何が悪い。それがローナの持論だ。

きわめてシンプルであり、無責任と言われても仕方のない理屈だろう。

だけど、彼女は他でもない恵神だ。その事実を棚上げには出来ない。

それなりに付き合ってるからこそ、俺たちは彼女との距離というモノを

しっかり推し測っているのである。


だからもう、何も言わない。

ウルスケスを一方的に断罪するのは違うだろうと思うからこそ、今回の

ローナの選択も行動も受け入れる。


誰目線なんだろうなあ、ホントに。


という訳で。


「んじゃね。」


シュン!


短い言葉だけを残し、ローナの姿は一瞬で掻き消えた。

そして数分後。


シュン!


さっきとは違う感触と共に、今度は赤毛の少女―ポーニーが現出した。


「お疲れ様でーす!」

「よう、お疲れ。」

「お店はどう?」

「問題ありません。絶好調です!」

「…それはよかった。」


店を任せられるのはいい事だけど、たまに簒奪を匂わせるからな彼女。

まあ、今はそんなのどうでもいい。


「ローナは?」

「お戻りです。ランドレたち二人に訊いておきたい事ができたとかで。

多分、今日の事でしょうね。」

「だろうな。」


店の二人は、教団でウルスケスともかなり接点があったはずだ。なら、

何かしらの確認は取るんだろうな。その点は後で聞かせてもらおう。

こっちはこっちで行動する。


「じゃ、とにかく頼むよ。」

「はあい!」


答えたポーニーが、迷わず側面窓を勢いよく開ける。

待ちぼうけにしていた二人がこちらに向き直り、そして二人揃って目を

まん丸に見開いた。ああ、そういうリアクションになるよな確かに。


「えっ!?ポーニーさん!?」

「お、お久し振りです!」

「どうもー!」


愛想良く答えたポーニーが、二人を手招きする。


「お話は中で聞きますから、まずは乗って下さい二人とも。」

「え!?」

「いいんですか?」

「もちろん。」


側面ドアを開けたポーニーは、再びニッと笑いかけて告げた。


「このままお送りしますから。」


何だろうなあ。

傍で聞く俺は、笑いそうになった。


送迎までやる羽目になるとは、俺の商売もずいぶん広がったもんだ。



ま、いいか。

切り替えていこう。

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