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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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騒ぎの後で

極限状態は、思いがけないほど己の天恵を研ぎ澄ますものらしい。


未だキャンセリングを維持している状態ながら、周囲の魔者の気配が

ほぼ絶えた事実を肌で感じ取った。つまり、あの金色の獣人に変身した

タカネが駆逐したって事だろうな。何と言うか、さすがの早業だ。

おそらくもう、このキャンパス内に残っている魔者はいないだろう。


そんな事が判ってしまう自分にも、さすがにちょっと怖れを覚える。

「魔」に属する存在を、はっきりと認識できるようになったって事か。

そんな余裕はなかったけど、もしもその気になればかなり遠隔で行動を

操る事も出来そうな気がする。


まさに【魔王】って感じだなコレ。

俺は、どこへ向かっているんだか。


ともあれ、これでひとまずこの混乱は収束に向かうって事だろう。

さすがに、俺もずうっと天恵を使い続けている状況に疲れてきてる。

目的が何だったにせよ、あの魔者がいなくなったならもういいだろう。


「大丈夫だよな?」

『ええ。少なくとも、有視界内にはもう一匹もいないから。』

「よし。」


分体タカネの言葉に、俺はようやくトライアルεを外した。…疲れた!

メガネなんてほぼかけた事がない。慣れない事は本当に疲れるよな。


鮮明過ぎた視界が、覚えあるものに戻った。思わず深いため息をつく。

やっぱり、この方が気が楽だよ。


「お疲れさまトラン。」

「ああ。」


労いの言葉を口に出したネミルが、そこでフッと小さく笑って言った。


「あんまりメガネ似合わないね。」

「分かってるよ!」



ハッキリ言わないでくれよ!


================================


それはそうと…


「ローナはどこ行ったんだ?」

「呼んだ?」


シュン!


うおっと!

まさに俺が呼び寄せたような絶妙のタイミングで、ローナが戻った。


「どこ行ってたんだよ。」

「元凶に会いに。」

「元凶?」

「…もしかして、ウルスケス?」

「よく分かったわね。」


訝しげなネミルの問いに、ローナはニッと笑って答える。


「やっぱりいたよ彼女。」

「マジかよ…」


思わずそんな声が漏れた。

ある意味、聞きたくない話だった。

…とは言っても、それなりに顛末を聞いておかないと不安が残るよな。


腹を括って聞くしかないな。


================================


1時間後。

ようやく警察による調査が始まり、俺たちもその場で聴取を受けた。

正直に説明したら、下手すりゃ俺が黒幕にもなりかねなかっただろう。


だけどこういう時、【魔王】は実に便利だ。


俺が第二講堂から連れ戻った連中もオラクモービルの周りの連中も、

ちょっと煽るだけでたちまち術中に墜とす事が出来た。ハッキリ言って

今の俺は、他人を怒らせるって事に関してはちょっとした達人だな。

欠片も誇らしくない話だけど。


ともあれ、皆の口裏を合わせるのはそれでどうにでもなった。

後は、どうやってあの魔者の襲撃を防いでいたかを説明できればいい。


『ま、そんなのはごり押しよ。』


いつの間にか戻ってオラクモービルに融合したタカネが、そう言いつつ

緑色の玉を生成した。手に取ると、想像より重い。そして独特の臭い。


「何だこれ?」

『スロコルベの煙玉。』

「つまり何ですか?」

『火を点けると、刺激性の強い煙が発生するのよ。大抵の魔獣はこれを

忌避する。これを使ったって言えば一応、説明は出来るでしょ?』

「雑だな…」


俺もネミルも呆れ顔だった。


「そんなので大丈夫でしょうか?」

『生物的な威圧だの魔王の天恵だの言う方が、現実離れしてるわよ。』

「それは…確かにそうですけど。」

『それにさ、トラン。』

「…何だよ。」


言われる事の察しはついてるけど、一応訊いておく。


『多少強引でも、あなたの話術なら警察も納得させられるでしょ?』

「……………………」


やっぱりそうなるよな。

身も蓋もない話だが、確かに俺ならそういう形で話を押し通せる。

関係者の口裏を合わせられるなら、聴取くらいどうとでもなるだろう。


そこまで考えられる自分が怖いよ。



本当に、俺はどこに向かうんだか。


================================


予想通り、俺は聴取を切り抜けた。

もともと悪い事したわけじゃない。と言うか、完全に被害者のはずだ。

たまたま持っていた力で乗り切ったけど、それは本当に結果論だろう。

それらも含めて、妙な疑いを警察に持たれるのは本意ではない。


という事で【魔王】発動。

スロコルベのデタラメ論を、聴取の担当者に刷り込みとして聞かせる。

何とも後ろめたいけど、別に犯罪を隠蔽したわけじゃないと自己弁護。

…まあどうにかなったけど、相手を怒らせるのは本当に心が削れる。


結局、夕方にはオラクモービルごと学外に退去する許可を得られた。


「不思議な事が出来るんですね。」


ロナンもドルナさんも、俺の力にはさすがに目を丸くしていた。

術中に墜ちなかった人からすれば、本当に不思議な能力なんだろうな。


「でも、おかげで助かりました。」

「ご無事で何よりです。」


怖れずにいてくれる二人の言葉が、今の俺には大きな救いだった。


================================


文化祭は台無しになったので、もう二人ともそれぞれ帰る事になった。

送るという申し出を二人とも丁寧に断り、笑って帰っていった。

残念な日になったけど、これからも引きずらずいてくれれば何よりだ。

もう、後は二人の強さに任せよう。


「さて、と。」


二人を見送った後、残ったのは別の二人。

ロナンに対しては「シュリオさんとポーニーの知り合い」だと説明し、

彼女とシュリオさんの服を着ていた理由を何とか通した。…と言うか、

ロナンが空気を呼んでくれたという方が正しいかも知れない。

いずれにせよ、状況打開に貢献してくれたのは事実だ。それも踏まえて

不問に付す、って事なんだろうな。若いながらも懐が深いよロナンは。


とは言え、俺たちとしてはこのままサヨナラという訳には行かない。

ポーニーと知り合いという点含め、話は聞いておくべきだろう。



つくづくこの学校は、何が起こるか予想がつかないよな。


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