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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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問いと答えと

「ウルスケス、でいいのよね?」


相手の問いには、確信めいた響きがあった。名前を最初に口にした時の

あたしの反応から、その確信を既に得ているのだろう。今さらの否定は

かえって見苦しいだけだ。だから、あたしも短く答えた。


「ええ。」

「やっぱりね。」


何が「やっぱり」なんだろうか。

あたしがウルスケス・ヘイリーだという事実と、魔獣人を創り出したと

いう事実は簡単には結びつかない。それこそロナモロス教の関係者か、

ジューザー事件の犠牲者を徹底的に調べた人間でもない限り。

そしてそれらを結び付ける行為は、同時にあたしの罪を暴くという事に

直結する。いかなる立場であろうとそれは変わらない。


この女は、あたしの敵なのか。


だとしたら…


================================


「認めるんなら答えてくれる?」

「………………何を?」

「だから、ネイルの居場所をよ。」

「は?」


何それ?

あたしがウルスケスだと分かって、魔獣人を操っていた事も知ってて。

その上で訊くのが、またそれなの?

自分でも驚くくらい、彼女の質問が癇に障った。


あたしを無視する気?

これだけの事をしたあたしよりも、あの病んだ副教主に興味があるの?


「あれ、何か気に障ったかしら?」

「…………………………」


気持ちが顔に出ていたらしく、女が怪訝そうな顔でそう言った。


「あなた、確かロナモロス教の一員だったわよね?この学校の講師の…

何とかマッケナーってのに誘われて参加したとか」

「何なのよ、あなたは。」


思わず尖った言葉を投げた。

あまりにも、目の前にいる女の目的が掴み切れなくて。


本当に何なんだこの女は。

あたしやあたしの天恵、ロナモロスとの繋がりを知っているだけでなく

マッケナー先生まで知ってるのか。もしかして、ランドレやモリエナと

繋がりを持っているのか。


いや、そうじゃない。

仮に彼女たちを知っているのなら、単にその認識に納得をするだけだ。

彼女たちから直に聞いたとすれば、不可解な事などは何もないだろう。

分からないのは、それを知っている上での癇に障る態度だ。


どうしてネイルの事しか問わない。あたしの事を何も問わないんだよ。

なぜそこまで、あたしのしてきた事に対して無関心でいられるんだよ。


「何なのよあなたは!」


同じ問いを、あたしは叫んでいた。



気付かないままに。


================================


「あたしが何かって、重要なの?」


キョトンとした女は、そんな問いを返してきた。


「まあ要するに、おたくの副教主に会いたいと思ってる者よ。」

「…どうして?」

「ちょっと頼みたい事があって。」

「あの女に?何を?」

「と言うか、ひとつくらいあんたも質問に答えなよ。」

「…………………………ッ。」


不意に、返す言葉に凄みがこもる。

何と言うか、抗い難い気配のようなものを突き付けられた気がした。


「言うなって言われてるなら、別に無理強いはしないよ。ロナモロスが

それなりにヤバい集団だってのは、もうとっくに知ってる事だから。」

「それは…」

「じゃ、ちょっと質問を変える。」


女は、肩をすくめてそう言った。


「この騒動って、ロナモロス教団の指示でやった事なの?」

「違う。あたしの独断。」


考える前に即答していた。

ああ、それを訊ねて欲しかったのかあたし。今さら気づいた。

無視しないで欲しかったんだな。


「今のややこしい時期、これだけの事を独断でやってよかったの?」

「あたしはもう、ロナモロス教団を抜けた身だから。」

「あらま、そうなんだ。」


驚いたのは間違いなさそうだけど、相変わらずリアクションが軽いな。

この女、本当に考えが読めない。


「じゃあ、ネイルの居場所なんかは知らないって訳ね。」

「抜ける前から、あんまりそういう類の情報は知らされてなかった。」

「ふうん…」


あっさりしてるけど、多分そこそこ落胆もしてるんだろうなこの女。

だけど、あたしにはどうでもいい。そんな事より。


「いくつか答えたでしょ?」

「え?ああ、うん。」

「だったらあなたも答えてよ。」

「何を?」


「何で何も言わないの?」


そう言った瞬間、前触れもなく涙が零れそうになった。何とか耐える。

いくら何でも、今ここで泣くというのはあまりに場違いだから。


だけど、本当に訊きたかったんだ。

あたしがした事を、どう思うのか。


見ず知らずのこの女が、何か答えをくれるような気がしたから。

誰にも相手にされない、あたしに。


「何にもって?」

「この騒ぎを起こしたのはあたし。それは認める。どうしてあなたは、

その事に触れようとしないの?」


あたしが怖いからかという言葉は、そのまま口にせず呑み込んだ。

何と言うか、見当違いもいいところじゃないかという直感があった。



それでもあたしは、訊きたかった。


================================


沈黙は、ごくごく短かった。


「悪いけど、あたしはこういうのにあまり口を出さない主義だから。」


女の口調は、淡々としていた。


「社会的に見れば凶悪事件だろうなと思うけど、あなたのやってる事は

単純よ。天恵宣告を受けて、自分の得た天恵を存分に使ってるだけ。」

「…………………………」

「いくら廃れた時代だと言っても、そんなの何の意味もない人の勝手。

15歳になれば誰もが天恵を得る。その摂理は何にも変わっていない。

世の中がどうあろうと、天恵宣告を受ける事も得た力を使う事も世界の

摂理の一部よ。結果がどうなろうとあたしは気にしないよ。」

「…人が傷ついたり死んだりしたとしても?」

「もちろん。」


ためらいなく答える女が、ニイッと愉快そうな笑みを浮かべた。


「やりたい事をやればいい。それが人間ってもんでしょ?」

「…………………………」


答えられない。

どう答えればいいのか、あたしには投げ返せる言葉がない。



本当に何なんだ、この女は。

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