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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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獅子毛色のグゾント

正直なところ、かけるだけで見えるようになるメガネというのがとても

理解できなかった。どういう原理で見えるようになるのか、どんな風な

視界になるのか。


実際に体験する事で、片鱗くらいは理解できたように思う。

とにかく鮮明。自分の目で見るよりよほどはっきり見える気がするが、

一方で「自然な視野」ではない事が実感で分かる。加工された「映像」

というやつだ。これと近い感覚で、ランドレは視覚を得ているのか。


とはいえ、今はそんな事にいちいち感銘を受けてる場合じゃない。

自覚したばかりの天恵の力を使い、「襲われない状態」を維持する。

それでオラクモービルまで戻れば、後はどうにかなるはずだ。他ならぬ

分体タカネが保証してくれている。だったらもう、信じるまでだ。


妙なもんだ。

先頭に立って歩いている俺だけが、周りにいる魔者の姿を見ていない。

見えているロナンたちは、さすがに生きた心地がしていないだろう。

それでも俺を信じて、一緒に歩いているんだ。その勇気には敬服する。

などと考えていたら、あちこちから人が合流してきた。どうにか魔者の

襲撃から逃れていたのだろう。で、俺たちの進軍を見つけたって事か。

たぶん、第二講堂にいた人たちより決断が速い。いや、あれこれ考える

ヒマも余裕も無いんだろう。だから何かを問う前に列に加わってくる。


賢明だよ。

詳しく説明する事は出来ないけど、そのままついて来てくれればいい。

残りあと134m。こんな表示まで出るとは、至れり尽くせりだな。



間もなく、オラクモービルが見えるはずだ。


================================


「…ん?」


極力喋らないようにしてきたけど、さすがに目の前の光景に怪訝な声を

抑えられなかった。


ようやく見えてきたオラクモービルの周囲に、人が寄り集まっている。

西側広場にいた人たちは、ほとんどそうやって固まっているらしい。

これ、どういう状況なんだ?俺には魔者の姿が見えないから、どういう

位置関係になってるか分からない。うかつに自分の目でも見られない。


「ドルナさん。」

「はい?」

「俺たちについて来た奴も含めて、魔者はどういう位置にいますか?」

「ぐるっと遠巻きですね。」

「俺をですか?」

「いえ、あなたとあなたの車の両方を警戒しているみたいです。」

「なるほど…」


俺だけじゃなくて向こうもか。なぜそういう状態になったのだろうか。


『そりゃあ、相手が獣だからよ。』


頭に直接、タカネの声が聞こえた。骨伝導とかいうやつらしい。


「つまりどういう事だ?」

『ああいった獣は、命令が無い限りあたしには近づかないのよ。』

「怖れて、って事か。」

『そう。』


当たり前と言いたげな口調だった。


『実際に接触して思ったんだけど、こいつらはハッキリ言って雑魚よ。

もちろん、人間にとっては恐るべき怪物だろうと思う。でも実際には、

あたしなら一撃で殺せるって程度。その事を本能で察知しているから、

絶対に近づいて来ないわよ。』

「すげえなそれ。」


ごく正直にそう言ってしまった。

肩書きと特性でごり押しをしている俺とは違い、実力で黙らせたのか。

やっぱり規格外だな。

そんな事を考えてる内に、俺たちはようやくオラクモービルの許まで

辿り着いていた。

周りにいた人たちがパッと分かれ、俺に道を譲った。…ああ、やっぱり

けっこう異様なんだろうな。大勢を引き連れ、歩いて戻ってきた俺は。


「大丈夫だった!?」

「お帰り。」


窓から顔を出し、ネミルとローナが何とも対照的な言葉を投げてくる。

まあ、心配してくれていたと勝手に思っておこう。


「とりあえず戻れた。俺の天恵ってこんな使い方できたんだな。」

「なかなか高度な応用だけどね。」

「やっぱり後ろの怪物は、トランの天恵を怖れて近づかないの?」

『そうみたいよ。』


分体がいてくれたせいで、最低限の説明で状況確認ができた。さて…


「俺もこっちも、同じような手段で魔者を遠ざけてたって事だよな。」

「そうみたいね。」

「だったら、攻守を変えようぜ。」

「と言うと?」


「ここにいる人たちと、連れてきた人たち。俺がまとめて面倒見る。」

「え、本当に出来るの!?」


目を丸くするネミルの顔が、やはり鮮明そのものの視界に映り込む。

何と言うか、いつもより見栄えが…ってそんな事はどうでもいい。


「いけるはずだ。このままで。」

『分かった。』


分体ではなく、車体と同化しているタカネがそう答えた。


『じゃあ、あたしの出番ね。』

「いけるよな?」

『もちろん。って言うか、そろそろじっとしてるのも限界って感じ。』


おっかねえなぁオイ。まあいいや。


「んじゃ頼むぜタカネ。できれば、素性を隠してな。」

『もちろん!』


即答と同時に、ダッシュボードから光が迸るのが見えた。


獣人形態(グゾントモード)!!』


ダン!


光が消えた瞬間、コンテナの屋根に何か重いものが降り立った。

パッと目を向けた俺の、レンズ越しの視界に写り込んだもの。


それは俺たちの知る、あのタカネの姿ではなかった。

金色の毛をなびかせる、凶暴そうな顔を持つ二足歩行の獣で…


「グオオォォォォォォォzツ!!」


何なのか理解する前に、その獣人は凄まじい吠え声を上げた。


ダン!


再び重厚な衝撃が走り、飛び降りたその獣人が「何か」に飛び掛かる。

あちこちから悲鳴が上がるものの、人が襲われているわけではない。

俺には見えない魔者が、その獣人の餌食になっている()()()


「うわぁ…」

「これはまた…」

「何とも。」

「凄いですね。」

「ねえ…」

「夢に見そう。」


ネミルたちが、いかにもドン引きといった顔でそんな事を言い合う。


さぞかし凄惨な戦いなんだろうな。いや、実力で言えば一方的なのか。

凄まじい跳躍力を誇る金色の獣は、すでにかなり遠くに行っていた。

おそらく、俺と一緒に歩いて戻った分体から、分布に関する情報とかを

既に得ているんだろう。このまま、その全てを駆逐するつもりらしい。


頼むぜタカネ。

とは言え、程々にしといてくれよ。学生にはトラウマものだろうから。


まあ…



俺には全然、見えないんだけどな。

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