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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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第二講堂からの脱出

「そっちはどうだ?」

『エルメネス病院に電話で説明しておきました。外科の病床を空けて

待っているそうです!』

「君は行った事あるんだな?」

「もちろんです。」

「よし。じゃ頼む。」

「了解!」


シュン!


力強く頷いたモリエナが、もっとも重傷だった青年と共に消失する。


シュン!


周りの人々がざわめき始めるよりも前に、また彼女だけが戻ってきた。

困惑と驚愕の空気を丸ごと無視し、次の怪我人の肩に手を置いて転移!


シュン!シュン!シュン!シュン!シュン!


視覚では追い切れない早業である。天恵自体の能力の高さというより、

本人の修練の深さを感じさせる。

まるで手品のように、あっという間に6人の怪我人は場から消えた。


ポーニーの連絡通りなら、転移先の病院も用意してくれているはずだ。

いきなりだと、色んな意味で混乱を招いたかも知れない。だからこそ、

現時点で可能な限り万全を尽くしたのである。


シュン!


最後にモリエナが、単身で戻った。


「どうだった?」

「大丈夫です。もう治療が始まっているはずです。」

「お疲れ!」


そう言って、俺は彼女と笑い合う。そして手を掲げ、拳をぶつけた。

助かったぜ、本当に。


「て、転移の天恵ですか。」


展開の速さに圧倒されていた傍らの男性が、そんな言葉を発した。

さすがにモリエナの能力を理解したらしい。となれば…


「じゃあ僕たちも、ここからそれで連れ出して下さいよ!」

「そうそう!」

「お願いします!」


案の定、皆そんな事を言い出した。もちろん、その気持ちは分かる。


だけど、それはちょっと無理だな。

いくらモリエナでも、そんな連続で天恵を使ったら体が耐え切れない。

いや、流れ込む記憶だって馬鹿にはならないだろう。いくら何でも、

そこまで無理はさせられない。


って事で…


「お疲れ。店に戻ってくれ。」

「いいんですか?」

「あっちも忙しいだろ?」

「え?ええ…はい。」


モリエナの困惑はごく一瞬だった。どうやら、その一瞬で俺の狙いを

察してくれたらしい。頼もしいな、じゃ、それっぽく頼むぜ。


「んじゃあ失礼しまぁす!」


シュン!


どこか小馬鹿にするようなひと言を残し、モリエナは転移で去った。

残された…と言うか彼女を帰らせた俺は、やれやれと苦笑を浮かべる。



損な役回りだな、本当に。


================================


「お、おい!」

「あの子はどうしたんだよ!!」


怒声が飛んでくる。まあ当然だな。

一縷の望みだった天恵の使い手が、ああもあっさり辞してしまえば。

だけどまあ、俺に言われても困る。ってか、ちゃんと聞いてただろ?


「仕事があるから帰らせたよ。」

「何でだよ!?」

「あたしたちがまだ…!!」

「怪我もしてない奴が贅沢言うな。あいつもそこまでヒマじゃねえ。」


ゾワッ!!


一瞬で視界が黒く染まる。場の皆の体から噴き出した悪意だ。…いや、

この場合は「怒り」と表現した方が適切かもしれない。むろん俺への。


つくづく思う。

最近、本当に慣れてきた。もとい、コツが掴めてきた気がする。

相手の悪意を引き出すコツなんて、どう考えても自慢にならないけど。

それが自分の天恵だと言われれば、もはや返す言葉もないな。


ガキィン!


意識を集中させたと共に、黒い悪意は俺の視界の中で結晶化した。

体の自由を奪うのか意識を支配するのか。それすら選べる己が怖いよ。

まあ、今は便利だと言っておこう。



それが【魔王】ってもんだとな。


================================


「あ、あのう…」

「これは一体…」

「え?」


ちょっと驚いた。

ロナンとドルナさん以外に、魔王の術中に墜ちてない人がいるとは。

とは言え、誰なのかは察しが付く。案の定、思った通りだった。


「俺の天恵で、ここにいる人たちの意識と行動を操ってます。」

「え。」

「そ、そうなんですね。」

「お返しします。助かりました。」

「あ、はい。」


そう言いつつ文庫本を差し出すと、女性はためらいながら受け取った。

連れの男性も、もはや俺を牽制するようなそぶりは見せなかった。

…………………………

シュリオさんやポーニーと知り合いなら、別に不思議じゃないかもな。

とりあえず今は、その程度の認識でいい。もっと大事な事があるから。


「脱出します。」

「えっ!?」


さすがに、四人とも目を丸くした。まあ、そりゃ当然だろうな。

転移できるモリエナがいないのに、どうやって逃げるんだよって話だ。

しかもここにいるのは自分たちだけじゃない。術に墜ちた者を含めれば

20人を超えているわけだから。

いくら外の魔者が近づいて来ないと言っても、脱出できるかどうかなど

完全に別問題だ。


「ど、どうやって…」


女性がそう言った刹那。


『魔王が板についてきたわね。』


唐突に俺の手元から聞こえた声に、また四人ともビクッと肩を竦める。

何度も驚かせて申し訳ない。いや、それより…


「気にしてんだから言うなよ。」

『こりゃ失礼。』


軽口を叩いているのは、ついさっきモリエナの腕輪から離脱した銀色の

ユニットである。何気に声が出せるのが凄い。

まあ、そうでなきゃ困るけどな。


「んじゃ、頼むぜタカネ。」

『了解。』


さあて。



そろそろ俺たちも、脱出といこう。

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