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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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最短の血路

『ちょっと替わってみます。でも、どうかな…』

「物は試しだ。頼む。」

…………………………

どうだ。


『もしもし、トランさんですか?』

「よっしゃ!」


まぎれもないモリエナの声だった。

ポーニーよりほんの少し遠いけど、声はきちんと聞こえる!

俺も、彼女とそれなりのつながりを築けていたって事か。今の状況では

直接話せるのはかなりありがたい!


『何があったんですか?』

「今説明する。その前にポーニー、聞こえてるか?」

『はい。』

「そっちはそっちでオラクモービルと連絡を取っておいてくれ!」

『了解です!』


ネミルたちも、俺がポーニーと連絡しているとは考えていないだろう。

そもそもそっちに繋いでも、現状の打開には何にも繋がらないからだ。

ただし、俺の方は違う。


何にしても、とにかく連携だ。



一刻を争うんだから。


================================


「モリエナ。」

『はい。』

「ピアズリム学園に共転移で来た事あるよな?」

『もちろんあります。』

「よし。」


この学校にウルスケスやマッケナーがいた関係上、彼女が来ているのは

当然の道理だ。つまり少なくとも、今すぐこの学校に来る事は出来る。


問題は学校の「どこに」来るかだ。

今の彼女は、オラクモービルの中も転着ポイントとして登録している。

今この瞬間、ネミルたちとの合流も可能だという事だ。

しかし実際のところ、俺のいるこの建物からオラクモービルは遠い。

転移してからの距離が遠いのでは、余計な危険が増してしまう。


「じゃあ、具体的にどこなら確実に転移できるんだ?」

『いつも行っていたのは、B教員棟の一階でした。コトランポ教授の

研究室があったので。』

「誰か地図を貸して下さい!」


俺の呼びかけに、一緒に逃げ込んだ学生らしき赤毛の男性が薄い冊子を

差し出した。どうやらこの文化祭のパンフレットらしい。パッと開くと

見開きで学内地図が描かれていた。床に置き、ロナンを手招きする。


「今いるここはどこだ?」

「ここです。」


迷いなく指示したのは、東側広場の南西側の第二講堂。確かにここだ。


「じゃあ、B教員棟ってのは?」

「ええと、あ、これです。」

「近いな!」


思わずそう言ってしまった。

明らかにオラクモービルより近い。いや、ここの窓から見えるだろう。

下手に外は覗けないけど、これなら本当に目と鼻の先だ。


「あの赤い屋根の建物ですね。」


俺の代わりに確認したドルナさんがそう言った。やっぱり見えるのか。

しかし、なおも言葉が続く。


「だけど、周りに何匹かいますね。建物の中にはいないと思うけど。」

「やっぱりいますか。」


甘くないな。

いくら近いと言っても、ここに来るまでが危険というのは変わらない。

と言って、下手に俺が迎えに出ると今の膠着状態が崩れてしまう。

何とかして彼女に、自力でここまで駆け込んできてもらうしかない。

そのためのサポートには、やっぱりタカネが適任だろう。

時間も距離もわずかだから、本体でなくともどうにかなるはずだ。


しかしモリエナは、致命的な問題を抱えている。

【共転移】の副作用である記憶共有がタカネの膨大な記憶を拾うので、

一緒に転移した場合モリエナの頭がパンクしてしまうのだ。下手すれば

廃人になる可能性もある。つまり、タカネと一緒に来る事ができない。


彼女だけでここに来るのは、あまりにも危険過ぎる。

しかし…


『トランさん!』


そこで再びポーニーの声がした。

しかしこの声、他の人たちには全く聞こえない。俺が何をしてるのか、

大半はチンプンカンプンだろうな。まあ、それは今はどうでもいい。


『連絡が取れました。』

「向こうの状況は!?」

『襲撃を受けて、オラクモービルに立て籠もっているそうです。』

「やっぱりか。」


予想通りだな。あっちは西側広場に釘付けになってるって事か。


『あ、それとタカネさんの分体が、トランさんを探してるそうです。』

「そっちも予想通りだな。」


我ながら頭が冴えている。しかし、それは最善と言えるかどうか。


「タカネと話せるか?」

『仲介します。』

「よし。じゃ分体が今どこにいるか訊いてくれ。」

『はい!ちなみにトランさんは?』

「とりあえず、俺のいる場所はまだ伝えなくていい。」

『そうですか…待って下さい。』


少し不本意そうだけど、今この場所に来られてもあまり意味がない。

分体がいるならむしろ…


『分かりました。』

「どこだ?」

『B教員棟の屋上から下を見ている最中だと…』

「よっしゃ!」


思わず、拳を握り締めてしまった。ドンピシャの場所にいる!!


「じゃあ伝えてくれ!そのまま一階に降りてくれと!」

『え?あ、はい!』

「モリエナ!」

『はいっ!』

「危険だけど、頼めるか?」

『何なりと。』


言うねえ。さすがと言うべきか。



じゃあ、君に全てを託す。


================================

================================


シュン!!

…………………………


ここに来るのは、久し振りだ。

コトランポ・マッケナーが辞職した後は、来る機会もほぼ無くなった。

秘かに憧れを抱いたキャンパスは、遠い場所になってしまっていた。

…まさかこんな形で、こんな場面でまた来る事になるとはね。

生きるって本当に予想外の連続だ。


そんな感慨など、どうでもいい。


ひと気のない教員棟の廊下の左右を見回し、耳を澄ませる。

気配はない。でも建物の外に確かに何かの動く影がある。危険なのは、

肌で感じられる。

まだ思うように動かない右手首を、左手でグッと握り締めた刹那。


ぽとっ。


「ヒッ!!」


肩に何か落ちてきた感触に、甲高い声を漏らしてしまった。


「お待たせ。」


反射的に向けた視線の先。肩の上。そこにいたのは、6本の足を持つ

平べったい虫のような物体だった。もちろん何なのかは知っている。

と言うか、数秒前に腕から離脱したモノと全く同じだ。


「お願いします。」


掲げた右手首の腕輪に、そのモノがカチッと音を立てて一体化する。

その途端、手首の違和感と痛みとが一瞬で消えた。そうそうこれこれ。

一緒に来られないのなら、()()()()()()()()()()()すればいい話。

偶然とはいえ、タカネさんがここに来ていたのは絶好のタイミングだ。


『トランもなかなか考えたわね。』

「さすがです。」

『んじゃ行こう。場所分かる?』

「もちろんです。」

『途中の奴らはあたしに任せて。』

「お願いします!」


そう言って走り出す。

トランさんの待つ第二講堂へ。


迷いも怖れも用はない。



いま行きます!!

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