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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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ポーニーに繋ぐ言葉

無意識にさっと伸ばしかけた手を、シュリオさんの服を着ている男性が

体を前に出して遮った。明らかに、連れの女性を守ろうとする動きだ。

とは言え、彼はまだ俺に悪意などは抱いていない。警戒してるだけだ。

…いや、何気にかなり不躾だった。今の一連は俺の方が悪いな。


しかし。

気を張ってあれやこれや考えているせいか、いつになく頭が速く回る。

唐突に存在を認識した目の前の二人に対して、ほんのわずかな時間で

色々な事が推測できてしまった。



多分、およそ合っているはずだ。


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あらためて、二人の顔を見比べる。もちろん見覚えのない人物だ。

だけど二人がどういう存在なのかについては、経験が教えてくれた。

諸々の疑問は棚上げして、とにかく自分の推測を整理する。


服を着てた理由は分からないけど、少なくともシュリオさんと何かしら

関わりのある人物らしい。それは、ロナンの言葉への反応でも判った。


この二人は、俺と一緒に逃げ込んだ中にはいなかった。先にこの場所に

逃げ込んでいた中にいた。それは、さっきの光景を思い返し確信した。

その時には、女性の方は手には何も持っていなかったはずだ。肩掛けの

小さな鞄を携えているけど、確かにあの時は手ぶらだった。


じゃあどうして今この瞬間、彼女は文庫本を手にしていたのだろうか。

どこをどう見ても、呑気に児童書を読むような平穏な状況じゃない。

このタイミングで、よりにもよってその文庫本を取り出す意味は何か。


その答えを、俺は知っている。

他の人は、間違っても思いつかないような使い道を。



シュリオさんなら知っている、その特異な使い道を。


================================


「すみませんが。」

「…何でしょうか。」

「その本を、ちょっと貸してもらえませんか。」


率直に切り出したら、案の定二人は何とも形容し難い表情を浮かべた。

まあそりゃそうだろう。この状況で何でそんな事を言うのかってね。


だけど、今は時間が惜しい。

勿体ぶらずに言うしかないだろう。


「ポーニーと連絡したいので。」

「えっ!?」


俺の言葉に、女性の方が甲高い声を上げた。明らかに裏返ってる声だ。

よっぽどビックリしたんだろうな。…って言うか、そのリアクションで

俺はさらに確信を深められた。


文庫本で、その作品の主人公と連絡をする。

何を言ってんだこいつ?と変な目で見られそうな言葉に対し、彼女は

純粋に驚いた。それはつまり、俺の言った事が理解できるって証拠だ。

もう間違いない。


この二人はポーニーを知っている。


================================


一瞬の沈黙ののち。


「その服装は…」


男性の方が、俺の来ている調理服をじっと見て何か呟いた。

そして。


「…もしかして、あなたがポーニーさんの雇い主ですか?」

「そうです。」


話が早くて助かる!!


「ご存知ならお分かりと思います。今のこの状況を打開するためには、

店にいるポーニーに連絡を取る必要がある。だからその本を…」

「分かりました!」


彼の傍らで話を聞いていた女性が、迷いなく俺に文庫本を差し出した。


「使って下さい。」

「ありがとう。」


受け取った俺は、感謝の言葉と共にちょっと頭を下げた。二人も頷き、

俺にちょっとだけ笑いかける。



いい友達を作ってるな、ポーニー。


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今日もいい天気だ。


店長代理としての仕事も、だんだん慣れてきた気がする。人を使うのも

割と何とかなるもんだね。

そして何よりも、またディナさんがトモキ君を預けてくれたというのが

とっても嬉しい。あたしたち全員、とりあえずの信頼を得たって事だ。

ランドレやペイズドさんのこれまでを鑑みれば、本当に喜ばしい状況。

願わくばトランさんたちも、あまり手間取らずにネイルを見つけて…


「ん?」


朝のお客が一段落して、ほんの少し気を緩めていた頃。

物思いを中断させたのは、本からの呼びかけだった。この声はええと…

トランさんだ。どうしたんだろう。


って、あれ?

この反応はオラクモービルに積んだ本のものじゃない。確かこれって…

とにかく出ないと、さっぱり状況が分からない。


「はーい、オラクレールです。」

『店の電話じゃねえんだよ。』


やっぱりトランさんだったよ。


「どうかしました?って言うか…」


とりあえず、あたしは先にこっちの疑問を投げてみる事にした。


「どうしてトランさんが、その文庫から連絡してきたんですか?」

『偶然の結果だ。とりあえず、今はその事情を説明する時間が無い。』

「はい。」


付き合いが長いから、もう声だけで切羽詰まってるのがすぐに判る。

後で詳しい事情を聞くとして、今は話に種中だ。


「何があったんですか?」

「ピアズリム学園で、魔者の襲撃を受けて籠城してる。」

「えっ」


何ですと?


「ええっと…ネミルさんたちは?」

「オラクモービルだろう。俺だけが分断されてる状況だ。深刻な状態の

怪我人もいる。」

「ええー…」


予想の百倍深刻だった。


「連絡は出来ないんですか?」

「あっちには無理だ。この文庫本を手に入れられたから、とにかく君に

連絡を入れたんだよ。」

「なるほど。」


相変わらず、遠出するとこの人たちはヘビーな問題に巻き込まれる。

しかも今回は、ロンデルンの時よりずっと深刻らしい。


「じゃあ、どうしますか?」

『とにかく、そっち経由でどうにかオラクモービルに繋いでくれ。』

「はい。」

『それと、モリエナはいるか?』

「え?あ、ハイいますけど。」

『今すぐ、彼女の力を借りたい。』

「…分かりました。」


どうやら、待ったなしの状況だ。


「ランドレ。」

「はい?」

「臨時休業の札を掛けてきて。」

「え?…あ、はい!」


状況を何となく察してくれたらしいランドレが、札を掛けに行った。

よし。


「トランさん。」

『ああ、聞こえてる』

「説明をお願いします。」



気合い入れていくよ。

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