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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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神託カフェの在り方を

なんか釈然としないものを感じつつ交渉へ。最初はいい話だなと思って

乗っかったものの、今になって若干それでいいのかと思う俺。勝手だ。


まあもう退けない。仕方がない。


================================


交渉終了。

終わってみれば、もやっとしていた要素は全て杞憂だった。


「ああ、神託カフェのオラクレールさんですか。」


いきなり担当教員からそう言われ、返す言葉に窮した。まさかここで、

俺の店の存在を知られていたとは。オトノの街ならともかく、ここから

結構遠い場所にあるのに。どうやら自分で思う以上に、オラクレールは

名を知られていたらしい。


結論から言うと、キッチンカーでの営業の許可はあっさりもらえた。

もちろん、ガンナー家の名前を出す必要などもまったくなかった。

ただしひとつだけ条件が出された。


「学内において、天恵宣告の業務を行うのは無しにして下さい。」

「分かりました。」


ふたつ返事で了承である。そもそもそんな想定は全然してなかったし、

やっていい事かどうかさえ今の時点では分からない。本来であれば多分

特殊登録課のカチモさんにお伺いを立てるべきなんだろうけど、あえて

スルーしている状況だ。もちろん、ダメですと言われると厄介だから。


オレグストみたいな流浪の神託師がNGなのは、もう既に知っている。

だけどネミルは、ちゃんと登録した家に戸籍がある。それさえあれば、

長期の外出も特に問題ないはずだ。ただしその間、出先で神託師として

仕事はしない。それならもしバレたとしても、言い訳は成立する。


かくのごとき次第で、俺たち的にも学園内で神託師の仕事をしようとは

思っていない。どっちかと言うと、頼まれてもお断りですって感じだ。

何にしても、わざわざ学校でやる事じゃない。



なので結局、問題は何もなかった。


================================


「おお、許可出たんだ。」


もう夕方になっていたので、学内でロナンと別れてオラクモービルまで

戻り、結果を報告。ネミルと同じ、いやそれ以上にローナが喜んだ。

時間的に人の流れは完全に「帰り」の方向だ。つまり学校から駅へと。

この状況で店を開けていてもあまり意味がない。早く帰りたい人たちの

邪魔になるだけだろう。そう考え、俺たちは駅前のロータリーを離れて

少し離れた空き地の前に来ていた。三人なら何とか車内で話ができる。


「神託師の仕事はするな、ってのが条件だ。別にいいよなネミル?」

「もちろん。」


案の定、ネミルはあっさりその事を了承した。本人としても、ここで

それをやるつもりはなかっただろうと思う。


「だけど、何でわざわざそんな条件つけたのかしらね。」

「いやそりゃ当然の話だろ。」


本当に察してなさそうなローナに、俺は思わず素で答えてしまった。


「何が当然?」

「時代ってものを考えてくれよ。」



天恵を与える恵神は、変なところで鈍かったりするなあ。


================================


ネミルが神託師を爺ちゃんから継承したのは、ある種の宿命だった。

望むと望まざるにかかわらず、その宿命は間違いなく訪れていた。

時代を考えれば間違いなく無意味な仕事だと思うけど、こればっかりは

仕方ないと割り切った。とは言え、あれやこれやと天恵宣告の仕事も

忙しい今日この頃だけれど。


だけど何度も言う通り、天恵宣告は廃れている。その理由を作ったのは

目の前で話をしている恵神である。個人的事情はさておき、今の時代に

この仕事は純粋な意味で珍しい。


だからこそ、中途半端に学校の中で「天恵を見ます」なんて言えない。

オトノの街の祭りでならともかく、ここは学び舎だ。集まってくるのは

言うまでもなく学生。そんな若者が集う場所で、時代錯誤な天恵宣告を

生業にするのはまずい。そのくらい俺もネミルも分かっている。


若者ってのは、こっちが思う以上に怖いもの知らずだ。後先もあんまり

考えない。ましてや今は文化祭だ。テンション高くなった学生たちが、

ノリと勢いで天恵宣告を受けようとするのは誰にも責められない。

だけど、そういう度胸試しみたいなノリで天恵に覚醒するのはダメだ。

俺たちはこれまでに、天恵に人生を狂わされた人を何度も見てきた。

道を踏み外したり、ごく当たり前の生き方を許されなくなったり。


もちろん、神託師という仕事自体をどうこう言うつもりはない。別に、

否定的な見解も持たない。そんなのただのナンセンスでしかない。

ネミルがそうだから…という話ではなく、俺自身がそう思っている。


俺の店に来て天恵の宣告を受けたのは、自分の意志で来た人たちだ。

何かしらの事情を抱え、切実に己の天恵を求めていた。俺とネミルは、

まさにそういう神託カフェを目指す方向で一緒になった。


そう考えれば、結論は見えてくる。


学生たちに出店で気楽に施すほど、天恵宣告は甘い代物じゃない。

仮に宣告の費用を払えるとしても、そんな行き当たりばったりなどは

俺の中でNGだ。もちろんネミルもそう考えている。その確信はある。

遊び半分で背負ってしまった天恵で人生が歪むなんて事、どう考えても

あってはならない。もしここに通う学生が本当に天恵宣告を受けたいと

思うなら、時間と手間を掛けて店に来てくれ。それなら何も拒まない。

自分の天恵と向き合ってもらう。



まあ、現在は出張中だけれど。


================================


「なるほどね。」


俺の説明に、ローナも納得の表情で頷いた。


「あなたたちはあなたたちなりに、天恵宣告の持つ意味を考えてるって

事なのね。」

「ええ。」

「俺たちも、そこそこやってきた身だからな。」

『うんうん、そうこなくちゃね。』


タカネも、何だか嬉しそうな口調でそう言ってくれた。


トモキを元いた世界に戻すという、遠大な目標のために俺たちは進む。

今ここにいる現状も、突きつめればその過程に過ぎないのだろう。

それでも、神託師を継ぐ者としての最低限の責任だけは果たすべきだ。


ここが学校なら、なおの事。


================================


かくして夜は更け、朝を迎えた。

いよいよ今日は、あの門をくぐってピアズリム学園にお邪魔する。

昨日もすぐ近くにいたけど、意味は大きく違うはずだ。

もしかしたら、ロナモロスに繋がる手掛かりがあるかも知れない。

あまり期待し過ぎるのはよくないと思うけど、少しくらいいいだろう。


「よーし、じゃ堂々と行こう。」

「行こーう!」


低速発進。注目されるのならドンと来いだ。逃げも隠れもしませんよ。

テンション高く、俺たちは向かう。


そこに待つ、過酷な事件を知らないままに。



今朝もよく晴れていた。

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