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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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ささやかな強権発動

ネミルが神託師を継いだ際、一緒に読み込んだ資料に記述があった。


「天恵宣告を受けた者は、遠からずその天恵と完全に一体化する」と。


正直、曖昧過ぎて意味が分からない表現だった。そもそも天恵ってのは

本人の固有能力なんだから、宣告を受ける前から一体なんじゃないかと

普通に考えてしまっていた。実際に天恵を得た後も、その記述の意味は

ずっと分からないままだった。


だけど、けっこう時間が経った今。ようやく意味が分かった気がする。


俺の天恵【魔王】は、俺自身に対し悪意を持った人間の意志を操れる。

ローナいわく、古代の魔物であればその魔力を捉えて操れるんだとか。

時代が時代なら世界を支配できたと言うけど、限りなくピンと来ない。

まあ究極の時代錯誤と言うべきか、あるいは時代遅れと言うべきか。

どっちにしてもどうでもいい話だ。


ここで言いたいのは、俺自身の使う力が少し変質してきてるって事だ。

と言っても、内容が変わったという意味じゃない。表現しにくいけど、

力をより細かく「小出し」にできるようになってきた…という感じか。

調理技術で例えるなら、みじん切りの細かさが向上したみたいな。


以前より些細な悪意を拾えるようになり、以前ほど意識を集中せずとも

相手の意志に即時干渉できるようになった。ちょっとした暗示だとか、

ちょっとした命令だとかを瞬間的に行使できるようになったのである。

もちろん、意のままに操れるという意味じゃない。そっち系をやろうと

思ったら、やはり大きな悪意と強い意識集中が必要になってくる。


今ここで言う「ちょっとした暗示」とは、本当に日常生活の中の些細な

局面で使う代物だ。例えばあれこれ難癖をつけてくる客を帰らせたり、

備品を盗んでしらばっくれるような連中を自白させたりといった具合。

もちろん小さくても悪意は絶対必要だから、何もしてない人を操る事は

できない。これは俺自身に備わっているストッパーみたいなもんだ。


つまり、何が言いたいかと言うと。



こういう目立つ場所で営業する時、とても役に立つって事なのである。


================================


当たり前だけど、昨日よりもずっと人目を引いてる。当たり前だろう。

昨日まで予告すらなかった場所に、自動車と一体化した喫茶店なんかが

いきなり現れ営業してるんだから。好奇の目がない方がおかしい。


当然、注文もしないのに、あれこれ聞いてくる系の連中も少なくない。

もっぱら学生だ。興味本位は仕方がないけど、せめて注文してくれよ。

店の前で居座ってまくしたてるのは単なる営業妨害だ。


そんな時にこそ、一体化したという【魔王】が少なからず役に立つ。

わざわざ言葉にせずとも、ちょっと意識を集中させて相手の目を見れば

たちどころに効果を発揮する。まあ細かい行動なんか指示できないけど

「失せろ」という意思だけ込めればそそくさと去っていく。いやはや、

何とも便利な能力だ。狙った相手にしか効果は出ないから、いたずらに

周りの人を不快にする事もないし。


天恵との一体化、か。こういう変質なら個人的には大歓迎だ。



まあ、人によるんだろうけど。


================================


その日の午後3時過ぎ。

そろそろ早仕舞いして、学園の方に相談に行こうかと思っていた頃。


「ああっ、来てたんですか!!」


直近に聞き覚えのある声が聞こえ、やがて声の主―ロナンが学校側から

駆け寄ってきた。どうやら彼女は、午前中に学校に行っていたらしい。

今に至るまで、俺たちがここで営業しているのに気付かなかったという

事なんだろう。


「さすがに賑やかだね。」

「中はもっと賑やかですよ。」


ネミルの言葉にそう返し、ロナンは正門の方に向き直った。


「せっかくだから行きましょうよ。営業するスペースなんていくらでも

ありますから!」

「いや、許可取ってないから…」

「取りに行きましょうよ!」


相変わらず押しが強いなこの子は。

ってか、今まさにそれをしに行こうかと考えたところなんだが。

ここまで期待されると、無理だった時の気まずさがどうにも気になる。


「まあ、今から交渉に行こうかとは思ってたんだけどな。」

「行きましょう行きましょう!ホラ早く!」

「ちょっと待ってくれ…」


ここまで言われれば行くしかない。とにかく店じまいを手早く済ませ、

後の始末をネミルとローナに任せてキッチンから降りる。ちなみに今、

ローナはいつもの姿のままである。ずっと前にロナンに会った時には、

今より少し幼い容姿で「ケイナ」と名乗っていた。もちろんロナンは、

ローナがあの時のケイナだとは一切気付いていない。まあこの場合、

気付かない方がいいんだろうな。


かくのごとき次第で、俺は明日以降の学内での営業許可をもらうために

交渉に赴く事になった。


「じゃ行ってくる。あんまり期待はせずに待っててくれ。」

「了解。行ってらっしゃい。」

「いやいや期待してて下さいね。」

「は?」


変な合いの手を入れてきたロナンに対し、俺は怪訝な顔を向けて問う。


「どうしてそう言い切れるんだ?」

「こう見えてもあたし、ガンナー家の娘ですので。」

「え?」

「けっこう援助とかしてるんですよこの学校に。母も教育に関しては、

色々思うところがあるらしくて。」

「ええー…」


地味に反応に困る話だなそれは。

確かにシュリオさんの実家は地方の領主だったはずだ。しかしそれが、

ピアズリム学園に資金援助をしてるという発想は出てこなかったよ。

まあ、それで交渉が上手く行くならぜひお願いしたいところだけど。


何と言うか…

俺の【魔王】とはひと味違うけど、これも変わり種の交渉術だろうね。



ここはお世話になるとしましょう。

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