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ようこそ神託カフェへ!!  作者: 幸・彦
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ウルスケスの向かう先

皮肉なもんだ。


ランドレ・バスロがいなくなって。

その力に縋る事が出来なくなって。

誰もが、あたしはもうダメだという烙印を押していたらしい。

実際、その頃のあたしはもはや人の態を成していなかった。自分でも、

心の奥底でそれを感じ取っていた。どうする事も出来ない変化の果て、

擦り切れた心の奥底で。


だけどあの日、不意に頭の靄が嘘のように晴れた。わずか数日前だ。

あたしはあたしを取り戻し、同時にそれまでの事を残らず思い出した。

正気を失ったあたしの傍らで、誰が何を話していたかもひとつ残らず。


それが幸せな事かどうかは、完全にあたし次第だろう。

と言うか。



もう今さら、どっちでもよかった。


================================


あたしは恵まれていたのだろうか。

それとも何も持たないのだろうか。


家族に理由も分からず疎まれ。

理由もなく学び舎を追い出されて、帰る家すらも失ってしまった。

あたしが何をしたというのだろう。少なくとも、嫌われるような事など

何ひとつ記憶にない。…あるいは、記憶にないほど些細な挙動が家族を

そこまで苛立たせていたのか。


あいにくあたしは、博愛精神などというものは持っていなかった。

仕打ちに対し相応の憎しみを抱く。ごくごく当たり前の俗人だった。

そんな寄る辺ないあたしに、教師であるマイヤール先生が声をかけた。

天恵宣告を受けてみないかと、想像だにしない話を持ちかけられた。


今そんな事をして何になるのか。

中身すら分からない己の可能性に、何を見出せというのだろうか。


少なくともあの時、そういう疑問を抱けるだけの理性は残っていた。

でも正直、何もかもどうでもいいと思っていたのも事実だ。だからこそ

その提案にあっさり乗った。

何となく予想した通り、先生はこのあたしの天恵を最初から知ってた。

知っていたからこそ声をかけたと、後から白状した。正直、あたしには

どうでもいい話だった。だからこそ天恵の宣告も、あっさり受けた。

ムシャクシャしてたから。


あの日。

あたしの人生は、破滅と新生の両方を成したと思っていた。

いや、そう信じていたのだろう。


ただのまやかしだったけれど。



あたしはただ、たて続けに破滅しただけだったんだ。


================================


【魔核形成】。

あたしの天恵は、ある意味とっても納得のできる代物だった。

魔力の塊を創り出す力。今の時代、何の役にも立たない魔術めいた力。

いや、昔ならなおさら異端者として迫害を受けていたかも知れない。

どっちみち、自分だけでは持て余すだけの忌まわしい能力だ。

家族に疎まれた理由は、もしかしてコレだったのかも知れないと思う。


マッケナー先生たちは、魔鎧屍兵という異世界の超兵器を作っていた。

歪なテクノロジーによって作られた鈍重な鎧に、遺体の一部を組み込む

おぞましい機械人形。人が乗り込む構造にもできるらしいけど、それは

操作への習熟が難しい。ならいっそ無人型に統一した方がいいとの事。


どちらにせよ、これを動かすために必要だったのが、あたしの魔核だ。

これ無しでは、いくら器ができても魔鎧屍兵は動かない。その部分は、

異界のテクノロジーを拾うだけでは解決できなかったらしい。


どうして、あたしの天恵なら問題を解決できると分かったのか。

それはひとえに、マッケナー先生の天恵によるものだ。異界の知識を

理解し、それを応用できる力。異界から持って来る事が出来ない魔核の

存在を、この世界の天恵に見出したのは間違いなく先生だったらしい。


そんな人間が、あたしの通う学校の教師をしていたのである。

ロナモロス教の一員だという事を、さほど隠したりする事もないまま。

そんな先生が、オレグストの天恵でこのあたしを見つけ出した。

こんな偶然があるのだろうか。

ほとんどまともな情報すらも残っていない、あたしの異形の天恵が。

まさにそれを欲する者のすぐ傍に、ポツンと佇んでいたなんて。


柄にもなく、あの時あたしは運命という言葉に酔っていた気がする。

誰かに求められたからこそ、こんな奇跡的な邂逅を果たしたのだと。



何が奇跡だ。

反吐が出る。


================================


魔鎧屍兵が完成して。


貢献者たるあたしには、それを使う資格が与えられた。あたしは迷わず

家族と生まれ故郷への復讐を行い、目の前で家族が死ぬのを見届けた。


何にも思わなかった。

虚しささえも湧かなかった。


思えばあの時に、あたしの心はもう魔核の影に呑まれていたのだろう。

自分の天恵に呪われている現実を、あまりにも呆気なく受け入れた。

受け入れたあたしは、考えるという行為を放棄した。己の作る魔核の、

得も言われぬ感触に身を委ねた。


正気を失いつつあると、先生はじめ皆が無遠慮に囁き合っていた。

耳に入っても頭にまでは響かない。誰の言葉も、そんな雑音と化した。

時おり湧き上がる凶暴性を抑える事が出来るのは、ランドレ・バスロの

天恵だけだった。


このまま狂って朽ち果てる。

意識の奥底で、あたしはその事実を無感動に受け入れていたはずだ。

それでいい、と思っていたはずだ。


ならばなぜ、今になって目覚めた?

ランドレがいなくなったのは、単にきっかけに過ぎない。それは自分が

一番理解している。【洗脳】による抑制など、対症療法にもならない。

ただの気休めでしかなかった。


理由など分かるはずもない。

いや、今さらどうでもいい事だ。


既に聞いて知っている。

先生は、魔核とほぼ同じ作用を持つ結晶体を生成する方法を見つけた。

持続力は魔核の半分以下だけれど、それで魔鎧屍兵を動かす事は可能。

材料は高価ながら、完全に生産性を確保する事が出来たって事だろう。


つまりあたしは、用済みだ。

もちろん魔核形成ができるのなら、経済的な存在理由は残っている。

言われるまま生成を続ける、そんな選択肢もあると言えばあるだろう。


誰が選ぶか、そんな道。


何度破滅したか分からないあたしにとって、こんなの些事でしかない。

今さら先生を恨む気もない。いや、そんな筋合いも価値もないだろう。


目覚めた事は、まだ誰も知らない。

そしてもう、ロナモロス教に属する必要も義理も何もない。

天恵宣告を受けるための費用など、魔核形成で山ほどお釣りがくる。


お互い、どうでもいい存在だ。

恨み事など言わず、サヨナラする。

あたしには、この天恵があるんだ。

おぞましくも愛おしい、この力が。


そう。

あたしはあたしの道を行く。



魔の道をね。

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